Episode 17 隠れていた気持ち
何事もなく友理の家に着き、瑠璃香は風呂に将太郎と友理はリビングにいる。
ちなみに友理は初めて憧れの人RURIの顔を拝めたことと想像を遥かに超える可愛さだったことに握手する手が震えていた。
「将太郎さん、お疲れ様でした」
ホットコーヒーのはいったカップを二つ置いて友理は彼を労う。
「ありがとう。友理さんも社長に連絡してくれたり、ここまで一人で帰らせてしまったり、本当に助かったよ」
「えへへ……」
褒められるのが好きな友理は嬉しそうだ。
彼は彼でコーヒーを飲みその温かさにやっと全てが終わったような気がしてホッと一息。
本当はRURIのことを含めていろいろと話を聞きたかった友理であったが今はそっとしておこうとカップを唇に当てて静かに飲んでいる。
リビングには微かにシャワーの音が流れ続けた。
その後、二人も風呂を済ませて今は三人全員が揃っている。体が温まり疲れもあって将太郎と瑠璃香はもう眠気が限界といった様子。
「僕はそこで寝るから瑠璃が僕の部屋で寝なよ」
彼の指差す先にはソファ。理性は無事働いているみたいだ。ただ、彼女はそうでもないようで。
「やだ……今日だけは隣にいて欲しい」
事件のせいで憔悴している彼女は言葉を止めることができなかった。
友理がいることで彼もどうしようか悩んでいる。もしなにかあったときには本当に取り返しのつかないことになってしまうと。けれど彼女はそもそも譲る気がない。
好きでいる人に心をやすめてもらいたいという欲が決して顔を引っ込めないからだ。
困り顔を浮かべてどうしようか考えていた彼の服の裾を掴む瑠璃香。
すこし俯いてやだやだと小さく首を横に振る彼女を見た彼は何を悩んでいたのかと自戒した。
今はなにより瑠璃がして欲しいことを僕はすべきなんだと考えを改めて一言。
「わかった。それじゃあ部屋に行こうか。友理さん今日はもう寝るから、おやすみ」
「はーい、おやすみなさい」
二人の間には信頼だけでは言い表せないような強い絆があるのだと、友理は察して笑みを浮かべて部屋に入るところを見送った。
さて、部屋に入れば二人きりなわけだが互いに疲れが限界に近いためかそのまま吸われるようにベッドへ一直線。
先に瑠璃香が入ると将太郎は電気を消してその隣で身を冷まさぬよう羽毛布団に頼りになる。それから瞳を閉じようとしたとき、部屋に入ってから言葉を発さなかった彼女がモゾモゾと動いていることに気が付いた。
ちらと確認すれば肩口に彼女の顔があるではないか。肩を窄めている彼女は目が合った彼に伝える。
「……寒いよ」
その言葉の意味を理解するのに彼は数秒かかった。単純に体が冷えていて暖めて欲しいのか、それとも心が寂しくて自分という存在をもっと感じたいのか。
ただどちらにせよしてあげられることは同じかと彼女の方を向いてそっと抱きしめる。もうそこに友理に見られたらなんて葛藤はない。
今は瑠璃のために僕が出来ることはしてあげようとそんな気持ちでいる。
「ねぇ、鼓動うるさいよ」
「仕方ないだろ。こういうのこの仕事始めてから全く出来てないんだから」
「ふふっ」
彼が肯定したことですこしでも自分にドキドキしていることがわかって喜びが心を埋めていく。ただ、彼女には二人きりになった意味がもうひとつある。
それはこれからのこと。
この事件がどう作用するかわからないがもしかしたら責任問題を問われるかもしれない。そうなれば将太郎が彼女とこんなふうに触れ合うことはもう叶わないだろう。最悪の場合、職を失う可能性もある。
そんな不安はこんな状況でも消えはしなかった。
「……あのね、将太郎さんはこれからもずっと傍にいてくれる?」
「さあ、どうだろうね。そうしてあげたいのはやまやまだけど僕はもう許される立場にないかもしれない」
「私、やだよ。今日が最後の思い出だなんて」
「もちろん僕もだよ。でも、傍にい続けられるとは無責任に約束してあげられないかな。瑠璃のためにも」
本音を言えば彼は絶対にどうにかしてみせると安心させてあげたいがそれは希望ばかりの夢物語。社長がこの先の一週間を彼に託してくれたのもあくまで瑠璃の心を心配してのこと。
信頼されている人間を置くことで残る障害を限りなく減らしたいという考えが働いての選択だ。
それを理解しているからこそ、ときに強気な態度で出るのも良いが今はそんな場面ではないと判断した彼は決して軽く肯定はしない。
「そっか……じゃあ、もう一個ワガママ聞いて欲しいな」
「なんだい?」
「もし、今日がこんなふうに二人でいられる最後の思い出になるかもしれないなら、このまま終わりたくない。ちゃんとした言葉で将太郎さんが私のことどう思っているのか教えて欲しい」
その言葉に彼は躊躇などなかった。
それが彼女の願いなら叶えてみせようと瞳を見つめてすこし体を引き寄せる。
初めてのことに彼女は息を呑んでされるがままの状態だ。鼓動がこれまでに聞いたことのないぐらいうるさく鳴っている。
将太郎はそんな彼女をお構いなしに言葉を並べていく。
「怒ってご飯をその小さな口いっぱいに入れちゃうところとか、寂しくなったらわかりやすく肩に寄りかかってくるところとかそんな可愛らしい瑠璃のことが、僕は誰にも負けないぐらい好きだよ」
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