Episode 14 情報源
急ぐ八倉はスマホをスタンドに置いて社長から一応のため入れておけと言われていたGPSアプリを起動させる。
瑠璃の言葉を信用していないわけじゃないがもし既に侵入してきた人物に捕らえられていた場合のことを考慮してのこと。嘘をつけと脅されているかもしれないからだ。
彼女の笑顔が設定されているアイコンが自宅にいることを確認して最短のルートを進んでいく。
「頼む、無事であってくれ」
彼のなかに今ある願いはそれひとつのみ。彼女が過去の事件同様深い傷を負うようなことにはなって欲しくない。それが身体的だろうが精神的にだろうが。
その一方で生まれている疑問もある。
これまで一度も自宅がバレたようなことはなかった。二人が尾行されていた様子もなく誰かから悪戯を受けたこともない。
では今回の犯人はどのようにしてその情報を得たのか。
彼女から聞いたことを踏まえて考えると犯人自体は事務所関係者ではないことがわかる。それは年に一度行われる集会でほぼ全員の顔を把握しているからだ。ただそうなると嘘であってくれと思いはするが誰かが教えたということになってしまう。それも住所まで知っている極一部の人間。
現状ここに当てはめられるのは社長ただ一人。仕事面の担当を任せられる先輩にはそこまで知れないよう資料を渡しておいたから。
「いやいや、まさか……」
そこまでしてなんの意味がある。いや、意味はある。もし自分を情報源に仕立て上げようとしていたら? そうじゃなくてもそもそもの責任問題を押し付けてきたら?
瑠璃との関係をなくそうとしていたら……。
そう仮定した彼は背筋に悪寒が走った。あくまで仮定だが限りなく真実に近いのではないかと思えてならない。思考がロックされたように。
自身にとっての不合理が解明されそうになったとき人はどうしてもその導き出された答えを信じてやまなくなってしまう。これ以上の解はないと。
「そこまでして…………クソっ!」
話し合いこそ平行線を辿っていたが社長であれば共にどうにかしようとしてくれていたのではないかと僅かながら期待していたところがあった。
研修時からよく声を掛けてくれて食事にも連れていってもらうことは多々あったし、相談に乗ってもらうこともあった上に丁寧で親身に気遣ってくれたことは忘れられない。
それなのに、それなのに……。
そんな思いがあふれて彼の瞳は潤む。ただそれもすぐに引っ込んだ。
「いや、今はもうそんなこと考えても仕方ないか。とにかく瑠璃を守らないと意味ないんだから」
二人の家まではあと十分。
◇◇◇◇◇◇
ドンッ! ドンッ!
扉が何度も叩かれている。不運にも周りの部屋には人の気配がなく音は鳴り止まない。
そんなか助けを待っていた彼女だったが時間が経っても同じ行動を繰り返していることから侵入してくる手段がないと察し、先程つくった簡易的なバリケードをさらに強固にしようと彼の部屋から机を持ってきたり、リビングの物置台を重ねたりしていく。そのうちに守られているような安心感がほんの僅かではあるが生まれて気持ちが楽になった。
それから想定外の事態により侵入された場合のためそれなりのリーチがある掃除用具を近くに置いてまた部屋の奥に隠れる。
あとは何をすべきかと考えたところで叶わなかった社長への連絡のことを思い出す。だが、こちらは二度かけても出ることはなかった。
多分仕事中で今は出ることができないのかもとそれ以上はやめておく。
そんなとき外から声が聞こえてきた。
「ねぇー、瑠璃香ちゃーん。そんな隠れてないでさ、早く開けてよ。ほらっ!」
その言葉で彼女は再度恐怖に襲われる。
「どうして私の名前知ってるの……」
そうこの場において自分が知らない人間であるならば活動名であるRURI以外の名を知っているわけがないのだ。これまで送られてきたファンからの手紙やグッズにも決してそう書かれていたことはない。
どうして、どうしてと頭に浮かぶ度に心に張っていく恐怖の根。手がすこし震えている。
そんな彼女はただ怯えながら彼が必ず助けてくれると強く思うことしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます