Episode 12 歓喜の裏に潜むもの

 一方その頃、優雅なティータイムを送る彼女とは違ってこちらは大忙し。というのもまた料理に挑戦したいという友理の先生役を担おうと八倉が動いたはいいものの、料理慣れしていない友理がバラバラに置いていた調味料に肘がぶつかりそのまま落ちてしまったのだ。

 急いで掃除機を掛ける係と二次被害を防ぐためにキッチン周りのものを一旦片付ける係に別れてようやく今収拾がついたところ。

 互いにふぅと安堵の息を漏らす。


「今日のところは僕が作るからまた明日の朝一緒に作ろう。そのときには今みたいなヘマはしないで落ち着いて教えるから」

「そ、そうですね。今日は大人しく動画作成の勉強でもして待ってます」

「助かるよ」


 これ以上迷惑はかけまいとテーブルに自前のノートパソコンを持ってきて言った通りの作業を始める友理。申し訳なさから表情は曇ってしまっている。

 ちらっとその様子を確認した彼はどうしたものかと頭を悩ます。悪いのは周りをしっかりと見ていなかった自分なのに悲しい気持ちを味わわせ続けては雰囲気が悪い。

 背中を向けて調理しながらこの空気を消すために話しかける。


「ねぇ、友理さんが例えばゲーム動画を出すとして形式は実況プレイみたいな感じになると思うんだよね」

「私もそう思います」

「もちろんゲームにもいろいろ種類はあるわけじゃないか。そのなかで名前を覚えてもらうならまずはゲーム人気にあやかるのがいいかなって考えてて、昨日したやつってプロもいるぐらい人気なんだってね」

「そうなんです!」


 食いつきが良い。

 昨夜ちょっとだけ他のジャンルと比べて遊ぶ回数が多いとは言っていたがそこまで変わりないにしてはあまりにも戦いの安定感が高く、また各ステージの特徴を丁寧に教えられるほどの知識があることはおかしいと感じていた彼はこの可能性を疑っていた。

 そもそも暗いと自分でいうパターンにはなるべく弱く見せたい場合と自分の趣味からイメージとして暗いと称する場合、そして内外問わず実際に暗い場合が多くだ。

 そのなかで先程の疑問からゲーム趣味という点に絞って昨夜遊んだものについてベッドのうえで簡単に調べていた。

 同棲していくなかでこういった好き嫌いの共有は無駄なトラブルを起こさないためにも必要不可欠になる。彼は自身の役目として相手に合わせることを主としているので特にだ。


「キャラが増える度にこの子が強いとかこの子が弱いとかちゃんと戦略的な技もあったりして、本当に面白いんですよ! 大会の配信もついつい見ちゃって……あ、ご、ごめんなさい。一人で熱くなっちゃって」

「ううん。そういう話聞くの楽しいから気にしないで。それに今凄い明るい声出てたからそれも嬉しいし」

「えへへ……ありがとうございます。じゃあお話の続きなんですけど」


 それから料理が出来上がるまで一つのゲームについて教えて貰っていた。適度に彼が質問を返すので興味を持ってくれていると実感できて友理の感情がどんどん乗っていく。料理が出来上がったとき、この話が終わると察してあからさまに残念がるぐらいには。


「「ごちそうさまでした」」


 美味しい食事を終え、まだまだ話し足りない友理はようやく再開出来ると表情が明るい。

 その姿に満足して彼は提案する。


「一応今のところどのジャンルに絞るかってのはまだ決めかねてはいるんだけど、ここにゲーム機自体はあるんだからソフトを今から見に行かない?」

「えっ、今からですか?」


 また友理の瞳がキラキラしている。


「うん。僕は全然知らないに等しい人間だから教えてもらうっていうのも兼ねてお願いしたいな」

「もちろんです!」

「ありがとう、友理先生」

「せ、先生ですか……えへへ」


 高校卒業から凡そ一年が経つ友理であるが歳は十八。まだまだ子供らしさの残るあどけない笑顔を浮かべている。


「じゃあ支度して行こっか」

「ついでに欲しいものがあってそっちも一緒に来てもらってもいいですか?」

「もちろん。もう今日はそのまま外食しちゃおっか」

「やった!」


 両手を上げて喜びを表現している友理の姿に微笑む彼。

 二人の距離は早くも近付いているようだ。



 ◇◇◇◇◇◇



 時過ぎて夕刻。

 瑠璃香はいそいそと支度をしている。すこし昼寝をしたせいで時間は予定ギリギリだ。

 何処に行くかはもう決めているようで先ほど店に電話していた。おおよそここから一時間ほどの距離だ。


「財布財布っと。ああもう何でこういうときに限っていろいろ変な場所に置いてるんだろ」


 部屋の出入りを繰り返してばかりで時間だけが過ぎていく。こういうとき時の流れは早く感じるもので幾度も時計を確認しながらようやく支度を終えた。

 彼女は乱れた息を整えてスマホを取り出す。いつもであれば彼が車を出しているから身元がバレずに済んでいるが今はない。ただ対策がないわけではなくタクシーの配車依頼ができるように専用アプリをいれている。

 慣れた手つきで最後の準備を済ませて十数分後、家を出ていった。





 外から車が発進していく音が聞こえてくる。


「さあ、始めよう」

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