第4話

大人たちはもうどのくらいの距離、歩いたのか・・・つい愚痴が出てしまうのは、大人の特権のようなものなのか。

「何処まで行っても、死体ばかりだよ。私、もう・・・見たくない」

 中年の女はしゃがんでしまった。

 「さあ、立って、可南子さん。歩かなくっちゃ。人類は、多分滅亡したんじゃない。われわれのように生き残っているものが、何人かいる筈だ」

 田中可南子はしぶしぶ立ち、歩き始めた。

 彼らは、この町に住んでいた。だが、今目にする光景は、その町の面影すらなかった。

 「みんな、死んでしまったのかな?」

 六十を少し過ぎたぐらい男が、ポツリといった。

 誰も返事はしない。誰も・・・何人、いるんだ?人数を数えると、五人いた。歳はバラバラで、若い子は一人もいなかった。

 五人の大人は、とぼとぼと歩き続けるしかなかった。

 「何処まで、歩くんだ?」

 はっきりとした目的地はない。やがて、

 「腹が減ったな」

 こう愚痴ったのは、四十そこそこの男だった。

 名前は・・・。

 「おたく、名前は?」

 前田が訊くが、黙って睨み返すだけだ。

 だが、そういや・・・食料があるような店が見当たらない。

 「みんな、無くなってしまったのかな・・・」

 誰かが、ぐちぐちという。

 声を出すのも、億劫になる。

 それから・・・

 どのくらい歩いたのか、疲れたという感覚は少しもなかったが、それにしても、腹が減って・・・どうしようもない。

だんだん空に闇が掛かり始めていた。

 「その内、夜になるぞ。どうしたらいいんだ?」

 「黙れ!」

 前田は怒鳴った。彼も苛立っていた。

 

 「犬・・・犬じゃないか。びっくりさせるな。はは・・・」

 一士は笑った。

 その犬は大型犬で・・・ジャーマンシェパード犬だった。

 見た感じ、すっかり大きくなっていて、何処かで飼われていたに違いない。

 体を低くして、唸っている。

 雅也が手を出し、犬が近づいて行く。

 はじめ、犬は警戒しているようだ。

 「待て!雅や、気を付けろ」

 一士は、雅也の肩を掴んだ。

 「大丈夫だよ、僕っちの犬なんだから。今は・・・こんなことがあったから、怖がっているみたい」

 「そうか。名前は・・・」

 「ハイリー」

 「じゃ、ハイリーのことは、雅やに任すからな」

 「うん。ハイリー」

 始め戸惑っていたハイリーも、そこにいるのがすぐ雅やと認めた。

 一士はにんまりと笑みをこぼした。

 「ひとつ、仲間を見つけた。今は、こうやって仲間を増やすしかないな」

 「さて、どうする?」

 

 闇が襲って来た。

 明かりがない。

 そんな時、

 「あっ、明かりだ!」

君代が叫んだ。

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