第48話 拳豪トーナメント決勝
「あゆみ氏、拙者がここまで来れたのはあゆみ氏のお陰でござるよ。礼を言うでござる」
決勝には予想通り先輩が上がって来た。
番狂わせとか、隠れた実力者が現れたとか、そんなことはなく。
力押しで勝って先輩が決勝にコマを進めた。
ってか先輩、ここでもゴザル口調を貫くんだね。
「いやいや、私の方こそ先輩のお陰ですよ。本当にありがとうございます」
「どちらが勝っても恨みっこなしでござる」
「勿論です。手は抜きませんからね!」
『決勝を前に二人が言葉を交わしますが……話を聞く限り二人は顔見知りのようですね』
『ちょっと待ってください。「先輩」って……これはもしかして準決勝で話題に上がりネットを賑わせている「先輩って誰だよ!」の先輩でしょうか!?』
何か注目してもらえてるようでありがたいですなぁ。
ん? ちょっと待って。
準決勝ってついさっきのことですけど?
ネットを騒がせてるの?
「そ……、そうそう、バイト先の先輩なんですよね」
「えっ!?」
『えっ!?』
『えっ!? バイト先? チーム内の先輩後輩ではなく?』
「あ、あゆみ氏。それ言っていいでござるか? 拙者のブログや動画からバイト先が特定されてしまうでござるよ……」
「え? でも先輩は先輩だからなぁ。別に隠すことでもないしいいんじゃない?」
特定されるとまずいんだっけ?
いや、いいよね。お店の宣伝になるし。
「か、軽いでござるな」
『何と……バイト先の先輩後輩という関係がまさかのCO《カミングアウト》。これはバイト先が特定されるのも時間の問題か!?』
『そうですね。師事を仰ぐためにバイト先を特定したいと思います』
『すいませーん。だれかお巡りさん呼んでください!! ここにストーカーになりそうな人がいます!!』
『念のためお伝えしますが、AIのミラーからストーカーだと判断されると警察に通報されますので皆さまご注意ください。私も注意します』
『はい、林プロご注意ください。……と冗談はさておき、二人は普段から対戦をしていたことが伺えましたがお互いに手の内を知っている相手というのは結構やりにくいのでしょうか?』
『そうですね。手の内を知られている分、初見の相手には通じる技が通じないということはありますね。一方で初見の相手よりも番狂わせは起きにくい傾向があります。普段勝っている方はやりやすいでしょうし、負け越している方はやりにくいでしょうね。二人の対戦成績が気になるところです』
『気になると言えばあゆみ選手が使った【
『それが詳細は分かっていないんですよね。分かっているのはあゆみ先生が発したスキル名だけです。スキルの詳細や解放条件は公開されていません。ただ、ネットの考察勢は【ぶちかまし】の防御貫通・前方攻撃無効が持続できる、もしくはそれに近い性能の攻防一体のスキルだと予想しています。【九死一生】の上位互換でHPの減らないスキルだという意見が多いですね』
『【ぶちかまし】を維持できるって……反則級のスキルじゃないですか?』
『いえ、その辺は運営がバランスを取っているはずなので「維持するには体力の消耗も激しいはず」と言うのが考察勢の見解です。また無敵状態でも防御貫通系のスキルであればダメージを通すので打つ手がないわけではないのです』
『なるほど』
——…10…9…——
『さあ、カウントダウンが始まりました。優勝の栄冠を手にするのは一体どちらか、決勝の舞台の幕が上がります!』
——…2…1…開始!——
先輩には悪いけど、直近の対戦成績は私の負けなしだからね。正直言って負ける気がしない。
それに加えて今は【
一気に終わらせちゃうよ。
「【
——ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ——
『いきなり出ました! あゆみ選手からオーラが放たれる!』
『個人的には小田選手が【
「先輩手加減はしませんよ!」
「当然でござる!」
『あゆみ選手一気に距離を詰める!』
『速い!』
連続【縮地】による左右へのフェイントで懐に潜り込んで【発勁】!
えっ!
ウソっ! あぶなっ!
『一瞬の攻防! しかし何と二人ともノーダメージ! お互いに素晴らしい反応で攻撃を躱しました! そして再び距離を取る』
『小田選手はあゆみ先生の接近を嫌って【スライディング】。おそらく回避目的だったと思いますが、その方向が左右にフェイントを入れていたあゆみ先生とたまたま合いカウンターになりました。あゆみ先生はギリギリで【発勁】をキャンセルして躱しましたね。この反応速度、流石あゆみ先生です』
『ちなみに、決勝ではハイスピードの戦闘を見逃さないように画面の右下に自動でハイライトシーンがスローで流れるように調整していただきました』
『あゆみ先生の試合はスローがないとよく分からないので非常に助かります』
「今のを躱されるとは思わなかったでござる」
「先輩も絶好調ですね。反応良すぎですよ」
「いやいや、あゆみ氏には及ばんでござるよ」
今日の先輩は普段より一段と、いや二段くらい反応が鋭い。
舐めてかかったらやられるのは私かもしれない。
『しかし、あゆみ選手は躱しましたね。攻撃無効状態だと思いましたが違うのでしょうか?』
『分かりません。もしかしたら完全な攻撃無効ではないのか、転ばされたらスキルが解除されるとか、何か制約があるのかもしれません』
「あ、そうだった」
予想外の反撃に思わずよけちゃったけど、今の私は【ぶちかまし】継続状態だよね。
よし、ガンガン行こう!
「あゆみ氏、そのスキルの効果覚えてないでござるか?」
「うっさいです。避けたのは癖ですから。え、演出ですから」
『忘れてたようですね』
『みたいですね』
くぅ~。
もう、こうなったら特攻じゃあ!
【縮地】!!
からの……、おっとカウンター合わせてきた。
左に躱して【発勁】!!
——バシィィィン——
痛っ!
なっ!! 何で!!
『何とこの攻防を制したのは小田選手! あゆみ選手を大きく弾き飛ばしました!!』
『お、驚きです。まさかあゆみ先生の攻撃を読み切った? 小田選手はあゆみ先生が左に躱すのを読んでカウンターに放った右ストレートを肘打ちに変化させました。あの速度に対応出来るプレーヤースキルは尋常ではないですね。何より、あゆみ先生がダメージを受けたのは予選を含めて今大会初めてです』
『何と、無敵状態かと思われたあゆみ選手にわずかにダメージが入っています。小田選手、あゆみ選手のノーダメージ記録を止めました!』
ノーダメージ記録? そんなのはどうでもいい。
でも、躱したと思ったのに……読まれてる?
っていうかスキルで無敵状態なんじゃないの?
『なるほど、ぶちかましとエフェクトが似てますが無敵になるわけではないようですね。ただ、防御力はかなり上がっていると思います』
何か無敵になるとどこかで勘違いしてた?
説明が長くて読んでなかったけど、ちゃんとスキルの説明読んどくんだった。
それとも貫通系のスキルを使われた?
何にしても調子に乗ってたね。
幸いダメージは少しだけだ。気を引き締めないと。
「先輩、いつもより強くないですか?」
「そうでござるな。今日はいつもよりあゆみ氏の動きがよく見えるでござる」
「楽に勝たせてもらえそうにないですね」
「いや、いっぱいいっぱいでござるよ。今も緊張で手がブルブル震えてるでござる」
「それ武者震いってやつですよね」
「いや、拙者は武者ではなく侍でござるよ」
「ふふ。それ同じじゃないんですか?」
『あゆみ選手優勢という大方の予想を裏切り、序盤は小田選手が押しています』
ダメだな。
会話で時間をとって作戦を考えようかと思ったけど何も思いつかない。
何やってもカウンターをくらいそう……。
こんなに動きが読まれることは今まで無かったからな。
実戦経験が少ないからこういう時どうしたらいいかよく分かんない。
でも、いつもと同じことをしてたら通用しない気がする。
「あゆみ氏は、優勝したら賞金は何に使うでござるか?」
「え? ……そりゃ色々と……って不意打ちかい!」
答えてるそばから先輩が距離を詰めてきた。
まぁ、不意打ちも何も試合中なんだから油断するほうが悪いって話ね。
ちょっと反応が遅れたけど、先輩のスピードはいつもと変わらない。
カウンターまでもっていけなくても避けるのは難しくない。
なっ!
——バシイィィィィィィン——
ぐはっ。
当てられた!?
避けたと思ったのに急激に攻撃が伸びてきた。
って、……これヤバい。ダメなやつ。
——ズドバババァァン——
『クリーンヒットォ! そこからの怒涛の連撃! あゆみ選手、小田選手の攻撃を避けきれませんでした』
『オ、オーラスキル!? 小田選手もあゆみ先生と同様のオーラスキルを使用しています!』
まさか……、今一瞬使ってたのは【
「あゆみ氏、油断大敵でござる」
「せ、先輩も使えたんですか? 今まで隠してたなんて人が悪いなぁ」
「戦略でござるよ。考え着く手段を全部使わないと到底あゆみ氏には勝てんでござるからな」
しかも、使い方が巧い。
射程が伸びる? それとも速度が上がった?
よく分かんないけど、私が躱したと思った攻撃を届かせたのは間違いなくスキルの効果だ。
先輩は私よりもこのスキルのことよく知ってるっぽい。まぁ、先輩なら説明は全部読んでるだろうし。
ヤバいな。
今のでHPが半分以上削られた。
今日の先輩には勝てる気がしないぞ。
何やっても読まれそうな感じがする。
っていうか、それよりも痛い。
尋常じゃなく体中が痛い。
「くっ」
そしてここぞとばかりに先輩は攻め込んでくる。
一先ずここは逃げに徹して作戦を立てよう。
どうする?
どうする?
——バキイィィィィィィン——
『またまたクリーンヒット! 小田選手止まりません! 勢いに乗っています』
ぐはっ。
もう、バカバカバカ。パニくってる場合じゃないのに!
このままだと負けちゃう!
——バキイィィィィィィン——
ぐはっ。
さっきから何なの?
マジで痛いんですけど。
殺す気なの!?
——バキイィィィィィィン——
ぐはっ。
あああああ、さっきからもう!
痛い!
——バキイィィィィィィン——
ブチっ
痛いぃぃぃぃぃ!!!
「あああああああああああ!」
——ボウ!——
「えっ?」
『これは一体どういうことでしょうか!? あゆみ選手の叫びに呼応して大量のオーラが放たれています! 小田選手は警戒して距離を取りました』
『わ、私も分かりません。このエフェクトは初めて目にします。ただあゆみ先生が勝負に出たのは確かだと思います』
◇小田邦人◇
久々に見たな。
ダメージをくらうと何故か切れるあゆみ氏。
それにしてもあのオーラの量……尋常ではない。
恐らく体力が一気に尽きるはず。
汗が一気に噴き出してくる。
あゆみ氏のHPはあと僅か。一撃当てれば勝てる。
でもあれだけのオーラを乗せた攻撃を下手に食らえばこちらも即死しかねない。それほどのオーラ。
逃げ切る……のは無理か。速度ではあゆみ氏に勝てない。
逆に、ここさえ凌げばあゆみ氏に勝てる!
正念場だ。
何とか凌ぐ方法は……?
いやいや、「凌ぐ」とか何考えてんだ。
守りに入ったら一気に押し切られる。
あれだけのオーラを凌げるわけがない。
見たところあゆみ氏は昨日獲得した【
もしかしたらスキルの説明も読んでないのかもしれない。
うん。
あゆみ氏的に有り得そう。
説明文長かったからね。
扱えるオーラの量から見てスキル的にはあゆみ氏の方が上の段位なのは明白。
でも単にオーラを放出してるだけなら勝ち目があるかも知れない。
ここは攻め切って勝つ!
奥の手の「刀」を使うなら今。
速度で負ける分はリーチで補う。
——ボウ!——
『対する小田選手も全身からオーラを放ちました。そして……何とそのオーラが右手に集約し「刀」へと形を変えていきます!』
『こ、こんなスキルがあったのか……驚きです。いずれにしろ次の攻防が勝敗を大きく分けそうです』
『果たして拳豪トーナメントで「刀」を扱うのはアリなのか!? いや、スキルとして認められている以上アリなんでしょう! あゆみ選手の膨大なオーラと小田選手の刀のオーラ、果たして勝つのはどちらか!』
「勝負でござる!」
「ああああああああああああああ!」
——ドン!!——
空気が弾けたような音がした。
一瞬で間合いが詰まる。
速い。
想定以上。
が、直線的なのは好都合。
刀をそのまま突き出すのみ!
「突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
——バチバチバチ……——
『あゆみ選手のオーラと小田選手の「刀」がぶつかり合う!』
つ、貫けないだと!
こっちはオーラを集約してるんだぞ!?
何と言うオーラ!
何という突進力!
のみ込まれる!
——ドガァァァァァァァァン!——
『勝負あり! 勝者あゆみ!』
——ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア——
『小田選手、あゆみ先生の凄まじいオーラに弾き飛ばされました! そして一撃でHPが削り取られた! あゆみ選手の逆転勝利です!』
ああ。
負けたのか。
そうか······。
くっ。
勝ちたかったなぁ。
勝ってプロへの道を開きたかった。
「あゆみ氏、完敗でござるよ」
「えっ? あっ、試合終わったの?」
「優勝おめでとうでござる」
「私勝ったの? いや、負けたと思ったぁ。今日の先輩強かったよぉ」
でも、負けは負け。
優勝と準優勝では扱いが天と地ほどに違う。
プロはまだまだ遠いなぁ。
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