第44話 拳豪トーナメント最終予選③

「あゆみ選手3000Pointを超えても全く止まる気配がありません。場内を駆け巡っています! 試合はまだ1分30秒といったところですが既に最終局面を迎えています。今、本戦出場を目指し必死にポイントを稼ごうとする選手二人を撥ね飛ばしました。その後方にいた選手二人も撥ね飛ばし、更に先ほど撥ね飛ばして起き上がってきた選手をまた撥ね飛ばし、とにかく手当たり次第に【ぶちかまし】ています。そして今4000Pointを超えました。まだ上がります」

「そんな……一次予選の時のポイントに迫っている? 最終予選の方が遥かに難易度が高いのに? はっ……。いや……そんなまさか……」


「林プロ、何か?」

「いや……、ちょっと長くなるかも知れないので試合後にお話しますね。今はあゆみ先生の戦いを目に焼き付けたいと思います」


「さぁ、本戦出場争いが激しくなってきました。本戦出場圏内である上位16名の頭上の数字は赤で表示されます。当然赤字のプレイヤーが狙われるため一対多の状況が幾つも生まれています。それを無情にもあゆみ選手が撥ね飛ばしていきます。圧倒的1位であり、ある意味本戦出場争いとは唯一無縁と言ってもいいあゆみ選手が全く空気を読まず撥ね飛ばしていきます。いっそ清々しさを感じる程容赦がありません。HPが残り少ない選手が殆どなのでしょう。選手が次々と光の粒子となり散っていきます」

「今消えたのは現在3位のジェイコブ・ブラウン選手ですね。ブラウン選手は何度も本戦出場を果たしている実力者です。ポイント差が殆どありませんから本戦出場はどうでしょうか……」


「そうこう話している間にあゆみ選手、遂に5000Pointを超えました。ただ大分ポイントが伸びにくくなってきたたように思います」

「そうですね。人数も半分くらいに減りましたし選手たちのHPも少ないんでしょうね」


「そしてあゆみ選手は変わらず選手たちを撥ね飛ばしています。恐らく全員1度は撥ね飛ばされたのではないでしょうか?」

「そうですね。恐らく全員1~2回は撥ね飛ばされてますね。驚きなのはこれだけ全員からヘイトを買っているのに全く的にされていないことです。災害みたいな扱いですかね。遭遇してしまったら運が悪かったと思って諦めるみたいな。しかしこのような展開になるとは流石に予想できませんでした。解説泣かせもいいとこです」


「おっと、あゆみ選手ここにきて突然止まりました。いったいこれはどういうことでしょうか?」

「うーん。もしかしたら……スタミナ切れか······今残っている選手は本戦に出場する可能性が高いですから観察しているのかもしれないですね」


「確かに、観察しているようにも見えますね。ただ、これを試合中にやる意味は何でしょうか? 後程動画などで確認できるかと思いますが……」

「先生は恐らく実戦派なんでしょうね。後から動画で見るのと実際に相対するのとでは受ける印象が違いますからね」


「成程」

「何というか……恐ろしいくらい先を見てますね」


「あ、そして再び動きました。近くの選手の背後にすっと忍び寄り手刀で一撃を入れて離脱しました。……一体今の攻撃には何の意味があったのでしょうか?」

「あ、そうか。ポイント調整ですね。今の攻撃で丁度5555Pointになりました。ゾロ目好きなんですかね? もしかしたら動きを止めたのも単にポイント調整のためだったのかもしれません……」


「あゆみ選手。周りの選手が本戦出場を目指して必死に戦う中、一人目指すところがズレています。最終予選でもポイントの調整をしてきました! 眼中に入っているのは対戦相手かそれともポイントか!」

「ポイントなんでしょうねぇ」


………

……


「あゆみ選手が静観を続ける中、工藤選手が最後の最後で砺波選手を降しました。最後にあゆみ選手の前に立ったのは工藤選手です。残り時間は60秒といったところ。工藤選手は現在8位。ここから順位の変動はあるのか?」

「8位だと、もし1回戦を勝ち上がっても2回戦であゆみ選手と当たりますからね。なるべく上の順位を目指したいところですね。あゆみ選手はHP全然減ってないですから順位が変わる可能性は十分あります」


「工藤選手仕掛ける。あゆみ選手僅かに首をひねって躱しました! 続く工藤選手の攻撃も尽く躱しています」

「すごい見切りですね。首を捻って躱すのはスーツならではの動きですが、最小限の動きで躱しているのがすごいです。と言うかあゆみ先生はポイントにこだわっていたのに距離を取らないんですね。倒すのかな?」


「工藤選手、前に出て至近距離からのボディ! これも当たらない。まるで読んでいるかの如く回り込んで躱しました。工藤選手の連続の足技! これも見切られている! 決してあゆみ選手は距離を取って逃げているわけではないのですが、工藤選手の攻撃が当たりません」


「まさか、先生はこの局面で攻撃しないのか……? 先生なら今の攻防でいくらでも隙を突けたと思うんですが……今も反撃しませんでしたね。これ間違いなく5555ポイントを維持したいのだと思います。······えぇ? でもそれなら距離を取ればいいんじゃないのか?」


「繰り返しますがあゆみ選手は決して距離を取って逃げているわけではありません。至近距離です。工藤選手が猛然と攻撃します。しかしあゆみ選手全て避けます。全て躱しています。あゆみ選手は数秒先の未来が見えているとでも言うのでしょうか?」

「工藤選手もあゆみ先生が手を出さないことにとっくに気づいていて防御を捨てて攻撃しています。それでも一発も当たらないなんて······。あゆみ先生としてはポイントを動かしたくない。かといって自分が攻撃されるのも嫌、距離を取って逃げ回るのも何か嫌……なんでしょうね多分。だから避けるってことなんでしょうが、しかしそれが実行出来るハートと技量に驚きです。回避で工藤選手を圧倒してます。圧倒的な実力差ですね。僕がこれをされたら心が折れる自信があります」


「あゆみ選手凄まじい身のこなしです。このまま避け続けることが果たして可能なのか! そんなことが出来てしまうのか! 工藤選手の猛攻は続きます。意地で一撃を当てることが出来るのか。しかし、あゆみ選手依然として無傷です! 何という動体視力、何という反射神経、何というプレイヤースキルでしょうか! 思わず手に汗を握ってしまいます。ギリギリの回避が続きます。速すぎて実況が全く追いついてませんがとにかく当たりません!」

「もはや人間業じゃない! 凄すぎる!!」


「もう間もなくラスト10秒です」


「「10! 9! 8! 7! 6! 5! 4! 3! 2! 1! 0!!!」」


「終了です! 最終予選が幕を閉じました。最後まで当たらなかった! あゆみ選手圧巻の最後でした! 5555Pointを維持したまま堂々の1位! 本戦出場を果たしました!!」

「うおおおおおおおおおお! 正に神回避ですよ! あんなのチートを使えたとしても誰にも出来ませんよ!」


「最終予選はこれまでと全く異なった展開を見せました。あゆみ選手は序盤から他を圧倒し、中盤の時点で間もなく試合終了かと思われましたが終わらせませんでした。最後まで回避し続け結局は時間切れでの決着となりました」

「いやぁ、この展開は予想出来なかったです! 本当に凄かったです。あゆみ選手は最後までポイントにこだわりましたね。変な日本語になるかもしれませんが非常に積極的で、勇敢で、圧倒的な回避でした」


「あゆみ選手。衝撃的なプレイヤースキルを見せつけてくれました。最後は見ている我々も興奮して思わずカウントダウンの声を張り上げてしまいました」

「いやぁ、見ているこっちがハラハラしました」


「それはそうと林プロ。先ほど試合の途中で言いかけたことを伺ってもよろしいでしょうか?」

「あ、はい、そうですね。……僕自身、自分の考えに戦慄を覚えているのですが、あゆみ先生は一次予選よりも二次予選の方が圧倒的に強かったです。獲得したポイントがそれを物語っていますね。そして最終予選の5555Point。これは個人の感想になりますが三次予選で10000Pointとるよりも難しいのではないかと思います。つまり、何が言いたいかというと……あゆみ先生は今現在も恐ろしい勢いで成長しているんではないでしょうか?」

「え、今もですか……?」


「海藤さんはあゆみ先生が手を抜いたり、舐めプをしているように見えましたか? もちろん5555Pointに至ってからは静観していましたが、それまでの戦いぶりを見て手を抜いているように見えましたか?」

「いえ、かなり容赦ない感じで【ぶちかまし】てましたね」


「そうですよね。あれは恐らく【ぶちかまし】ではないと思いますが、それは置いておいて一次から三次予選の動画を見ても手を抜いている印象は受けません。ポイントの調整はしていましたがそこに至るまでは手を抜かずに戦っていたというのが僕の印象です。あゆみ先生のプレイを見て多くの人がプロかチートではないかという印象を受けました。あの圧倒的な実力ですからね。そう思うのも当然です。しかし、いままで手を抜いていないとしたら何故『急激に成長している』かのような結果が出せるのでしょうか?」


「何故……ですかね? 言われてみると不可思議ですね」

「はい、それで頭をよぎったのが『あゆみ先生は『リンク』初心者なのかもしれない』という考えでした。圧倒的プレイヤースキルをもった『リンク』初心者。自分で言っておきながら受け入れがたいのですが、だからこの短期間に成長したのではないかなと」


「それは……かなり思い切った考察ですね。でももしそうだったら拳王トーナメントだけでなく今後もずっと追いかけていきたいですね」

「はい、私は先生の自称弟子として今後も追いかけていきたいと思います」

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