第41話 速度と派閥

◇某番組◇


「林プロ、あゆみ選手がまたやってくれましたね」

「やってくれましたね。流石あゆみ先生です。二日連続の7777Point。これはもう明らかに狙っていると言っていいでしょう」


「ネットには記録更新も可能だったという声も上がっていますが、改めましてあゆみ選手の強さの秘訣は何でしょうか?」

「そうですね。やはり圧倒的なプレイヤースキルだと思います。そしてそのプレイヤースキルによって他のプレイヤーよりも速度を上げている点ですね。速度設定についてはあまり詳しくない方が多いかと思いましてちょっとこちらにまとめてみました」


『速度設定は1~5の5段階で変更可能』


「まずは基本的な速度設定ですね。こちらはメニューの設定から5段階で変更することができます。これはデフォルトで1が設定されておりまして、1の設定はレベル1、5の設定はレベル5の敏捷値に相当しています。ただ普通のプレイヤーは速度設定を変更すること自体あまりないのではないかと思います。チュートリアルでも変更の仕方が説明されません。上級者向けの設定変更なんですね。スマホやタブレットでプレイしている方、またコントローラーでプレイしている方はこの速度設定を上げるとキャラの速度が上がる半面、同時にエイムの精度は下がってしまいます。つまり、操作した時に動く範囲が大きくなると言うことですね。移動に関しては速く移動できるということになりますが、エイムに関しては細かい位置を指定するのが難しくなるということです。速ければいいというわけではないんですね。『速度を上げるとエイムが乱れる』。これが常識です。またエイムだけでなく細かい位置取りの精度も落ちます。エイムに関してはPC勢やVR勢は条件が異なりますが、位置取りに関してはPC勢やVR勢にも同じことが言えます。速度を上げると振り回されてしまうので速度設定を変えるプレイヤーは殆どいないです。プロでも精々3くらいの設定なのではないでしょうか」


『敏捷値が高い程巨漢になる』


「これが次のポイントですね。速く動けないのであれば敏捷値は無駄になってると思われるかもしれませんがそうでもありません。リンクではキャラクターのサイズも自由に変更できます。サイズを大きくすることにはメリットとデメリットがあって、メリットとしては『リーチが伸びる』、『体重が増えて攻撃力が増す』といったものがあります。デメリットとしては『体重が増えると動きが遅くなる』、『的が大きくなる』といったものがありますね。ただ現実と同じで格闘戦においてはデメリットよりもメリットの方が大きいと言えるでしょう。実はここで敏捷値が関係してくるんですが、サイズを重くしても敏捷値が高ければ動きは遅くならないんです。そのため敏捷値の活かし方としてはサイズを大きくするというのが今までの常識でした。その常識を見事に覆したのがあゆみ先生だと言えるでしょう」


『敏捷値依存の速度設定』


「実はここにもある通り、速度設定には『敏捷値依存』というものがあります。これはレベル6以上になると設定可能になるんですが、敏捷値の何%の速度にするかを選択できるんです。1%から100%まで選択できるのでレベル6以上の速度にすることも可能になります。あゆみ先生は敏捷値依存の設定で速度をあげているのだと思われます」

「林プロ、解説ありがとうございました。しかしあゆみ選手はなぜ速度を速くしても問題なく戦えているのでしょうか? 先ほどの説明を聞く限り速度に翻弄されてしまうと思うのですが」


「それはVR勢だからだと思われます。VR勢は速度設定を上げてもエイムにあまり影響しないんです。VR勢の場合は自分の動きがそのまま画面に反映します。速度設定よりも遅い動きをする分には制限されないんです。逆に速度設定よりも速い動きをするとキャラの動きは制限されて現実の動きよりも遅くなります。つまり速度設定よりも遅い動きでエイムする分には影響ないんです。ただ、移動速度……というか歩幅ですかね、こちらには影響があります。現実で一歩動いたつもりがゲーム内では2倍、3倍の距離を移動してしまうわけです。なので並外れた空間認識能力、格闘センス、反射神経、身体能力がないとあゆみ先生のような動きは出来ません。恐らくリアルでも相当な実力者だと思われます」

「リアルでも……。ということは……もしあゆみ選手が今月の拳豪トーナメントに優勝した場合、来月のリアル拳豪トーナメントの方に『リンク推薦枠』で出場する可能性もあると?」


「そこまでは分かりません。名前もフルネームではないので先生は公の場には姿を見せたくないのかもしれません。……でも期待はしたいですね」

「明日の最終予選、あゆみ選手は突破できるでしょうか?」


「何事も絶対はないですがまず突破出来ると思います……。ただ最終予選だけはこれまでと趣が変わりますからね」

「その辺も解説していただいてよろしいでしょうか?」


「はい……。まず、最終予選は参加人数が少ないです。今月は40名程ですね。また最終予選は1位にならなくてもいいんです。上位16名までが本戦に出場することができます。なのでいきなり凸ってくるプレイヤーはまずいません。様子見から入りますね。また最終予選だけはチーム内で複数名参加するケースが避けられないんです。チーム内に限らず個々に繋がりのあるプレイヤー同士で共闘することも出来てしまうんです。三次予選を突破した選手の殆どは動画をアップするので調べるのは簡単です。あとは動画を通じて連絡を取って共闘するように持ち掛けるんです。あゆみ先生も三次予選の動画もアップされていましたので共闘を持ちかけるコメントが結構ありましたよ。ただ、あゆみ先生はコメントに一切返信していないので明日どうなるかはわかりません。共闘する人数が多い派閥が有利なのが最終予選です。派閥の最大人数は本戦枠の16名になります。稀に人数の少ない派閥同士が同盟を組んで大きい派閥を倒すということが過去にもありましたので必ずしも派閥の人数で決まるということはありません。ただ、あゆみ先生は間違いなく今大会の中心なので派閥は間違いなく大きくなるでしょう。本戦出場に向けて有利なのは間違いないと思いますよ」

「三次予選までは圧倒的な実力で勝ち上がってきたあゆみ選手ですが、それが明日の最終予選にどう影響するのか。今月の拳豪トーナメントは今まで以上に目が離せません。明日の最終予選、明後日の本戦は生放送でお送りいたします。果たしてあゆみ選手は最終予選を突破できるのか、注目していきたいと思います」


………

……


◇あゆみ◇


「あゆみ氏、明日の最終予選どうするでござる?」

「どうするって……今までと変わりませんよ。来るものは叩き返し、去る者は蹴り倒すだけです」


「いや……そういうことじゃなくて……共闘するかどうかという話でござるよ」

「共闘……ですか?」


「最終予選は出場選手が限られているでござるからな。選手同士で連絡を取り合って共闘するのが当たり前なのでござるよ。上位16名までが本戦に出場できるということもあって。全員が敵と言うわけではないのでござる」


 そうなんだ。

 そういうもんなのか。


「でも、開始時の配置はランダムなんだし。共闘ってどうやるんですか? 乱戦に巻き込まれたら共闘なんて出来ないですよね?」

「そうでござるが、最終予選は開始時から早々乱戦にはならないのでござるよ。焦らずに様子見から始まるでござるから最初合流する時間があるのでござる」


「その後はどうなるんですか?」

「その後は数の多い派閥が数の少ない派閥を的にかけていくのが大体のパターンでござるな」


「ふーん」


 何かそういうのって……気に入らないな。

 元イジメられっ子としてはね。


「私は一人でやりますね。共闘してるやつらぶっ潰してやります」

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