第26話誕生日
あの日から結花さんと廊下ですれ違うとお互いに挨拶するほどにはなった。
図書室でいつものように勉強資料を作っていると前よりも常坂さんが声をかけてくるようになった。
最初は驚いたが、こちらの邪魔にならない程度に話かけてくることに少し笑ってしまった。 別にいつ話しかけられてもいいのに、俺の様子をうかがっている。
「どうしようか……」
そんな毎日を送っている間に三月に入り、ほとんど顔も合わせたことのない三年生が卒業して三月も中旬に差し掛かったころ俺はとあることに悩んでいた。
それはもう少しで有紗の誕生日が来ることだ。 誕生日プレゼントを買おうにも何を買うかで悩んでいる。 そろそろ買っておかないと当日に苦労すかもしれない。
「何買おう?」
「なにが? もしかしてボクの誕生日?」
俺の自室でパソコンで通販サイトを見ていたら後ろからそう声をかけられた。
声の主からわかってはいるが後ろに振り返って有紗を見る。
「そ、有紗が欲しそうなものを選んでる。 PCの周辺機器が欲しいと思うけど、全部高い」
「そうだよね、いいものになるほど高いよね」
横からマウスを触りながらそう言う有紗は開いている通販サイトをスクロールしていく。
目当てのものが見つかったようでそれをクリックする。 値段は三万ほどのスピーカーだった。
「それは自分で買え。 高すぎる」
「えぇ~、ボクは誕生日プレゼントとしてほしいんだけどなぁ」
「あほが」
そう言って有紗のおでこにデコピンを入れる。 プレゼントにできるほどのお金がないのももちろんだけど、日頃いつでも使えるような日用品のほうがいいと思う。
PCの周辺機器を見ていたのはもし買えたならラッキー程度に見ていた。 まぁ、ほとんどが高すぎて買えなかったけども。
「それじゃあ、なにかうの?」
「それは言えないかな」
口の前に人差し指を持ってきて通販サイトを閉じる。
一応、買うものがなかったらというものは決めているけれども、それだけというのはダメだろうなと思っている。
♦
結局、有紗が喜ぶようなものではなく、実用的なものと俺が独断と偏見と持っていてほしいものを選んで買ってきた。
「喜んでくれるかな」
そう呟きながら紙袋を持って家に帰る。 ケーキは一回家に帰ったときに持って帰ってきている。
「ただいま」
「お帰り」
ちょうど玄関で有紗と出くわした。 有紗は俺の持つ紙袋に目がいっていた。
「それがプレゼント?」
「そ、これがプレゼント。 あげるよ」
有紗は俺から袋を受け取って、袋の中身を取り出す。 最初に取り出したのはハンドクリーム、その次に取り出したのが有紗が好きなアニメのキャラクターぬいぐるみ。
「これ、ありがと。 拓斗からもらったプレゼントは何でも嬉しいよ」
「そうか、それならよかった」
喜んでくれたみたいでよかった。
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