第23話食事

 初めにだが、澪は合格した。 来年度から俺たちと一緒の高校に通うこととなる。

 今日はそのお祝いのために父さんが澪のために焼肉に連れて行ってくれることになった。


「お願いします、京谷さん」

「いいよ、有紗ちゃん。 母さんが無理言ってついてきてもらっているんだから」


 父さんは車の中に入ってきた有紗にそう言った。 父さんは仕事で遅く家に帰ってくるが早く帰ってきてくれた時は、料理などいろいろなことをやってくれるいい父親だと思う。

 

「母さんは?」

「遅いね、ちょっと見てくるよ」


 そう言って車を降りて家の中を見に行く父さん。 車の中には俺と有紗、澪の三人が残った。


「そうだ。 澪ちゃん、合格おめでとう」

「ありがとう、有紗お姉ちゃん」


 俺は二人のやり取りを見ながら微笑む。 それを見ていた有紗は恥ずかしそうに笑い、澪はさげすむような視線をこちらに向けてくる。


「ごめんね、それじゃあ行こうか」

「レッツゴー!」


 ちょうどいいタイミングで父さんと母さんが車に乗り込んできた。 


「遅れた本人が言うことじゃないよ、母さん」


 父さんが母さんにそう突っ込んで車を発進した。

 


「食った、食った」

「ほんとね、肉をこんなに食べたの久しぶり」


 肉を食べてお腹いっぱいになった俺と有紗は休憩をしに外に出ていた。

 俺が一応持ってきていたブレスケアの中身を一粒出して有紗にも渡す。


「一応使っといたほうがいいぞ」

「ありがと」


 そう言って有紗も一粒出してかみ砕く。 


「そういえば、ありがとな、澪の事。 俺、なんでか分からんけど、澪に嫌われてるからな」

「フフッ、そうだね。 拓斗の言うことはあまり聞かなけどボクの事なら聞いてくれるからね」


 フッと胸を張りながら俺を見てくる有紗に笑みを浮かべる。

 有紗がいなかったら澪の勉強をどうしようか悩んでいるぐらいになるかもしれない。


「それにしても、変わったよね澪ちゃん。 前はあんなにお兄ちゃん子だったのにね」

「そうだな、俺もお前も変わったよ。 中学に比べるとな」


 嫌なことを思い出しそうになるが無理やり頭の隅に追いやる。 

 

「そうだね、ボクもこんなに社交的な性格じゃなかったもんね」

「いろいろなことがあったからな」


 自嘲気味に笑いながら俺は有紗に同意する。 俺はこんなにも誰かと一緒にいるのに少し引き気味になるなんて中学の頃の俺は思いもしなかっただろう。


「次は澪ちゃんと一緒に通えるね」

「そうだな、今度は三人でだな」


 三人分の弁当を作らないといけないと思うと憂鬱になるけど、それ以上に三人で同じ高校に通えることが楽しみで仕方がなかった。


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