第22話バレンタイン
そもそもバレンタインとは日頃の感謝を男性が女性に伝える人だと言われている。
日本だけが、女性が男性にチョコを上げる日となっている。
「どのくらいもらえると思う?」
「一個だろ?」
あくびを噛み殺しながら武人の言葉にそう言った。
武人は面白くなさそうに唇を尖らせる。 それは、女子がやるからかわいいのであって、男がやっても何も感じんぞ。
「なんだよ、その目は」
「別に」
疑いの目を俺に向けてきた武人から教室に視線を向けるとそわそわと浮足立っている男子が数名いた。
「どんなもんかねぇ」
「何がだよ」
「なんでも」
今年は有紗がどのくらい持って帰ってくるのか気になって思わず口に出していたのを武人に聞かれていた。
「お前は誰からもらうつもりだ?」
「僕? 僕は誰にももらう予定はないよ?」
武人にそう聞かれて俺はそう答えた。 甘いものは好きだけど、誰かにもらってまで食べようとは思えない。
♦
家に帰ると紙袋にぱんぱんにチョコを入れた有紗がいた。
「いっぱいだな」
「本当にね、まさかこんなにもらうとは思わなかったよ」
ニヘラッと笑う有紗を見てこんと頭を小突く。
「思わなかったじゃなくて予想できただろ」
「紙袋ありがとう」
はぁ~っとため息をついて俺は夕食の準備をする。
夕食は少し塩気の多いものにしてチョコが少しでも多く食べられるようにと作った。
「今年も作ったんだね」
「おう、今年は簡単なものだけどな」
去年みたいにカップケーキと言うわけではないけど、有紗は俺の作った生チョコでもおいしそうに食べてくれていた。
「うまいか?」
「おいしいよ、甘さもちょうどいいぐらいにできてるよ」
「ありがとう」
有紗がおいしいと言えるように甘さを調整していたから当たり前だと思う気持ちと素直に喜んでもらえてうれしいと思う気持ちがせめぎあっていた。
「ほかにもこれもあるぞ」
「こっちも生チョコじゃん」
「こっちは澪が作った生チョコ。 澪は渡すのが恥ずかしいって言ってどっか行ったけどな」
そう言って有紗に澪の作った生チョコを一つ口にする。
「甘いね。 でも、初めてにしては上出来なんじゃないの?」
「少し、生クリーム焦がしたし、入れなくてもいい砂糖を入れてたからな」
自分で作った生チョコと一緒にコーヒーを飲む。
昨日の澪とのチョコづくりを語る。 途中までは何もなくてよかったが、生クリームをチョコレートと混ぜ合わせるタイミングで砂糖を入れだして俺は慌てて澪を止めた。
「苦労したんだね」
「いや、そこまで」
「どっちよ」
有紗にため息をつかれたが俺は気にすることはない。
それよりも有紗がもらってきたチョコたちをどうするか考えたほうがいいかもしれない。
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