第21話 バレンタイン前夜
日曜日の夜、有紗、澪と夕食を食べ終えて二人は二階に上がっていった。
俺は一人でキッチンに残り生クリームを鍋に入れて温める。 生クリームを温めている間に買っておいたチョコレートを細かく刻む。
「やっぱり明日の準備してた」
「澪か、何の用だよ」
「私も作りたい」
まさかの提案に俺は思わず目を見開いた。 有紗のように思い付きで何か作りたいということもなく、料理をする、お菓子を作ることに全くの関心がなかった澪がこんなことを言うことに驚いた。
「なによその顔。 私もお菓子ぐらい作ってもいいじゃん」
「……わかった。 で、何作るんだ?」
「何作ればいいと思う?」
「知るか」
キッチンに入ってきた澪を小突きながら俺が作っているものを見せる。
「何作ってるの?」
「生チョコ」
「生チョコ?」
俺は澪の疑問に答えるように刻んだチョコレートをボウルに入れて沸騰しそうになっている生クリームをボウルに流し込む。
それを泡だて器でチョコレートが完璧に解けるまで混ぜる。 それを用意していたパッドに流しいれてパッドの中を平らにする。
その上にオーブンシートをかぶせて冷蔵庫で冷やす。 それの一連の流れを澪に見せる。 生チョコは作りやすい部類のチョコだから澪でも作れるとはず。
「これをつくればいいの?」
「そう言って失敗すんなよ?」
俺は澪を心配してそう口にした。 澪にはそれが少し気に入らなかったのか、口をへの字に曲げた。
「あんまりそんな顔すんな」
「私一人でもできるもん」
「そうか」
一応もしものために残しておいたチョコレートを取り出して澪に渡す。
これは、有紗が作りたいと言い出した時のために買っておいたものだけど、有紗は完璧に忘れているようだけれども。
「これをこうすればいいのよね?」
そう言って俺がさっき使った鍋に生クリームを入れて強火にかけていた。
「強火じゃいけない、中火でゆっくり沸騰するまで温めないといけないからな」
「わかった」
真剣にバレンタイン用のチョコを作っているのが澪がチョコを作る熱意から伝わってくる。
あげる相手は有紗か学校の友達だろうけど何かに本気になっている澪は久しぶりに見た。
「誰にあげるつもりだ?」
「いうわけないじゃん」
バカじゃないの? というふうにこちらを見てきた。 そう言われてしまえば俺は引き下がるしかない。
「意外と手際がいいなお前」
「当たり前でしょ? お兄ちゃんとお父さんとおんなじ血を引いてるんだから」
「そこは母さんにしといてやれよ」
澪の言葉に俺はこめかみを押さえて注意した。
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