第19話前夜

 一月もあと数時間で終わりに近づいてきた今日。 俺は家の自室で勉強していると、目の前を鬱陶しいほどにうろうろしている人がいた。


「鬱陶しい」


 そう言うと、すごく驚いたようにこっちを向く有紗。 それを見て俺はため息をつく。


「お前が心配することじゃないだろ」

「そういう拓斗は心配しないの!?」

「落ちたらもう一度受ければいい」


 俺がそう言うと信じられないものを見ているかのようにこっちを向いた。

 落ちたらと言っているのは、明日澪が俺らが通っている高校の推薦受験を受けるから

 

「実の妹だよ! 心配にならないの?!」

「うるさい、そりゃあ多少は心配というか気にはなるが、結局は本人の頑張りだろ」


 あくびを噛み殺しながらそう言うと俺は有紗に叩かれた。 

 

「気になるなら澪のところに行って来いよ」

「うぅ~、ついてきて」

「ひとりで行け」


 何を言っているんだと思ったが、気持ちを少しでも落ち着かせたいのだろう。


「んじゃ、行くか」

「う、うん」


 そう、頷くのを見て俺は立ち上がった。 

 澪の部屋は俺の目の前の部屋で、廊下に出ればお互いに何しているかある程度聞こえてしまうほどだった。


「特に目立つ音は聞こえないな」

「入ってみようよ」


 そう言われて俺は澪の部屋のドアノブを回した。


「入るぞ」


 そう言って中を覗くと思わず一歩下がってしまった。

 澪は普通に机に向かって勉強していたが、まるで呪詛をつぶやくかのように勉強をしていた。


「み、澪ちゃん!?」


 中を覗いた有紗が澪の姿を見て驚いた声を上げる。

 それほどに傍から見て澪の今の状況はおかしかった。


「有紗お姉ちゃん、どうしたの?」

「いや、なんか勉強してるだけにしては少しおかしかったから」


 声をかけるといつもの調子でそう言われると何にも言えなくなってしまう。


「お前、今日どのくらい勉強する気だった?」

「寝ないつもりだけど?」

「そうか、じゃあ寝ろ」


 澪に真顔でそう言う。 澪は「なんで!」と言っていたが、普通に考えて今の澪にこのまま勉強をさせていると、明日の受験に影響どころか明日の受験にすらいけないなんてことになるかもしれない。


「絶対に寝ない」

「あぁ~、お前、まだ足りないと思ってるかもしないけど俺からすれば十分なほどに努力してるよ、だから大丈夫」


 ニカッと笑って澪の頭をなでる。 少し鬱陶しそうに俺の手をどけようとするがなでる手に力を籠める。 痛いと言われないぐらいの力で。


「もうわかったから。 撫でるのやめて!」

「それじゃあ、有紗、澪と一緒に寝てやってくれ」


 撫でる手を止めて頭を二、三度ポンポンとして、俺は澪の部屋を出る。


「明日の弁当は少し豪華にしてやるか」


 冷蔵庫の中身を見に下に降りる。

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