第16話 二年参り

 今回は貴重な澪ちゃん回


 そばを食べ終えて、時計の針が十一時指すころ、俺と有紗、澪の三人はガヤガヤと人の声が聞こえる神社前の参道を歩いていた。


「今年は人が多いな」

「今年、というより去年は来てないでしょ」


 そう有紗に正論を叩きこまれてしまった。 俺は乾いた笑みを浮かべながら二人の横を歩く。


「早くしないと年が明けるぞ」

「さらっと流したね」

「ねぇ~」


 俺がそう言うと二人はわざと俺に聞こえるようにそう言ってきた。

 ずっこけそうになりながら俺は二人のほうを向いて「お前らな」とぼやく。



 神社の境内に来ると人でごった返していた。 さっきまで聞こえていなかった屋台の食べ物が焼ける音、人と人の話す音、祭囃子に心が躍る。

 有紗と澪が屋台に行きたそうにしているが初めに参拝しないと本当に年を越してしまいそうだった。

 

「ほら、今年一年ありがとうございましたって言いに行くぞ」

「二年参りってそうだっけ」

「いや、違うぞ。 普通に今年最後の参拝をしたいだけ」


 俺がそう言うと二人は「えぇ~」と呟いた。


「それなら一人で行きなよ。 ボクは澪ちゃんと屋台見て回るからさ」

「二人だと危なくないか?」

「大丈夫、もしもの時は屋台のおじちゃんたちを頼るから!」

「あぁ、それなら大丈夫か」


 そう言って俺と有紗たちは年が明けるまで一旦別れることになった。



『澪視点』


 お兄ちゃんが分かれてすぐに有紗お姉ちゃんはどこに行く?と聞いてきた。

 有紗お姉ちゃんの目がチラチラとりんご飴のほうに吸い寄せられているのがわかった。


「りんご飴」


 私がそう言うと有紗お姉ちゃんは嬉しそうに笑っていた。


「ボクと考えてることおんなじだね」


 違うよ、有紗お姉ちゃんがわかりやすいんだよと言いたくなってくる。 お兄ちゃんにお姉ちゃんの気持ちが伝わっていないことに今も驚いているぐらいなんだから。


「うん、おいしい」

「おいしい」


 二人並んで空いていたベンチに腰掛けてりんご飴を食べていた。 手がべたつかないようにビニールでつかむ。


「祭りと言えば、やっぱりりんご飴だよね」


 口元が少しだけ赤く染まっていた。 


「あれ、有紗さん?」


 りんご飴をほとんど食べ終えてりんごをかじっていると横から有紗姉ちゃんに声がかかった。

 有紗ねちゃんのほうを見るとポケットからハンカチを出して口元を拭っていた。


「こんばんは、佐紀さん、雫さん」


 思わず吹き出しそうになった。 お兄ちゃんは見慣れているかもしれないけど、私は有紗お姉ちゃんの学校での姿を見たことがなかったが、今のを見て別人だと思ってしまった。


「お二人も二年参りに来たの?」

「佐紀が二年参りっていうのをやりたいって言ったから、私もついてきたの」


 朗らかに笑っている有紗お姉ちゃんだけど、私やお兄ちゃんに見せている素の表情を一つも見せていなかった。


「後ろにいるの妹さんですか?」

「この子は一緒に来ている友達の妹。 私に妹はいないって前も言ったじゃん」


 こっちに話題が来て思わず有紗お姉ちゃんの後ろに隠れてしまった。

 三人は年が明けてどこかに行こうとか話し込んでいた。 かなり話し込んでいたのか、私のスマホが年を越したことを伝えるアラームが鳴った。


「年が明けたみたい。 あけおめ」

「あけおめ、ことよろ」


 そう三人は言いあっていた。 

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