第15話大晦日

 そばを茹でて、エビを天ぷらにする。

 この家では、大晦日の晩ごはんがそばだけになるから、せめて豪華にしようと思いエビの天ぷら遠作っている。


「さつまいもの天ぷらとかないの〜?」

「買ってねぇからないよ。 ていうか、今日ぐらいは自分の家でそば食えよ、有紗」


 八匹のエビを天ぷらにしているとリビングの方から有紗が顔を出してきた。


「えぇ、だってこっちの方が豪華だもん」

「ひよりさんが泣くぞ」

「お母さんが食べてきたらって言ってたよ」


 そう言われて俺はため息をつく。 冷蔵庫の中には間違えて有紗の分も買ってしまっていてエビはまだ余ってはいた。


「エビあるじゃん」

「一応買っておいた。 もしものためにな」

「間違えて買ったんだ。 大晦日はこっちに来ないって言ってたから」


 それを言われて俺はうぐっとわざとらしく言った。 それを見た有紗は笑っていた。

 追加のエビに衣をつけ油の中に入れる。 ジュワァと音をたてた。


「おいしそうな音が鳴ってる」

「確かにおいしそうな音ではあるけど」


 よだれが出そうなほどにこちらを凝視している有紗に苦笑いしながら、エビのてんぷらの音を聞く。

 音を聞きながら、だしを作り始める。 一般的なめんつゆに醤油、砂糖を加えてつゆの完成。 もう少し凝ったものにするのなら鰹節でだしをとるとかいろいろあるけど面倒なので簡単に作る。


「音変わったよ」

「知ってる。もう一回変わったら上げる」


 そう言って器を出してそれぞれにそばとつゆを入れ終えたところでもう一度音が変わった。

 それを聞いた有紗が俺のほうを見て変わった!という表情で見てきた。

 俺は有紗に向けて「わかってる」というと、一つずつ器の中に盛っていく。 これだけだと味気がないので、かまぼこ、とろろ、天かすを入れて、最後に薬味としてネギを入れる。


「ほい、出来上がり」

「持っていくね」

「そのまま食べるなよ」


 そう忠告して、俺も二つほど持っていく。 椅子に座ってそばが出てくるのを待っていた母さんに父さんを呼んできてと頼んだ。

 

「澪ちゃん、呼んでこようか?」

「大丈夫だろ。 父さんか母さんが呼ぶだろ」

「そう。 あっ、そうだ、この後さ、二年参りしない」

「二年参りしてるとこ遠いだろ。 それに、学校の奴らも来るだろ」


 遠回しに行きたくないことを伝えたが、それで有紗が引き下がることはなかった。


「じゃあ、澪ちゃんと行く」

「俺もいかねぇといけないやつじゃん」


 はぁーとため息をついて両手を挙げて降参のポーズをとる。 澪も有紗の誘いだったら、断ることもないし、受験のためにと言えば行こうとするだろうしな。

 そう考えてもう一度、深くため息をつく。

 

「なに?」


 二回ため息をついた俺を見て、有紗がこちらをジロっとにらんできた。


「いや、初詣も連れていかれるだろうなと思うと何をお願いしようかと考えてな」

「そっか、拓斗は実家のほうに行くんだよね」

「そ、父さんの実家にね」


 そう言っていると、澪たちが降りてきた。 全員揃ったところで、全員一緒に食べ始めた。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る