第13話 ケーキ作り

 今日この日は朝から甘い匂いが部屋中に充満していた。 澪がリビングに来た時に「甘ッ!」といってきたことで俺は気が付いた。

 キッチンでは有紗がスポンジケーキを作っているところだ。 

 初めてするお菓子作りにレシピ本片手に悪戦苦闘していた。 俺は、横で有紗を補佐する係で、ほとんど作るのを見ているだけだ。


「ねぇ、拓斗。 このぐらいでいいの?」

「どれ?」


 そう言って、ボウルの中を見せてくる。 俺は、それをハンドミキサーの羽で一本線を書く。 それが残るのを見て有紗に「OK」サインを出した。


「これをバターを溶かした牛乳に入れるでいいよね」

「始めは一すくいだけな、それで混ぜて一回見せてくれ」


 そう言うと、もう一度キッチンに戻りベラで一すくいだけ入れた後に、有紗はハンドミキサーで混ぜようとした。

 俺はそれを止めるようにハンドミキサーを持った有紗の手を取った。


「それで混ぜるとかき混ぜすぎるから、ベラで混ぜよう」


 ハンドミキサーを持った有紗の手を取って俺はそう言った。

 俺は有紗の隣に立って近くで見ることにした。 遠くから見ててもいいけど、ケーキにするには材料が多すぎるから、俺も何か作ろうと思った。 あと、昼が近いから昼飯も作りたい。

 そう思いながら、冷蔵庫から卵を取り出す。 ちょうど、卵が残り一個だった。


「なにつくるの?」

「ん?ん~、焼き飯かなぁ」


 俺はそう言った。 有紗は「ふ~ん」と言いながらボールの中身をかき混ぜている。

 それを、見ながらケーキの型とオーブンの準備をする。 最近の電子レンジはオーブンの機能もついているからありがたい。 


「ボール見せてくれ」

「いいけど」


 そう言ってボールの中を見て「OK」サインをだした。

 細長い型の中に材料を流し込んでいく。


「ねぇ、少し思ったんだけど普通生クリームつけるんじゃないの?」

「クリームケーキはめんどくさいから作らない」

「え~」


 不服そうな有紗に苦笑いしながら俺はチョコチップや薄く切ったナッツなどを乗せていく。

 オーブンの予熱が終わるまで待っていた。


「生クリームってないの」


 ケーキの盛り付けが終わり、あとは余った材料で何を作ろう考えていると有紗がそう言った。


「あしのはやいものを常に買ってあるわけがないだろ。 それに、クリームは作れないからな」

「じゃあ、生クリーム買ってくる」

「あと、生クリームをケーキに塗るものがないから諦めろ」


 そう言うと、納得はしてないものの了承してくれた。 少し悪いことしたかなと思い頭をかく。


「あ~ぁ、今日は出来ないかもしれないけど、別の時なら作れるようにするから」

「うん、分かった」


 有紗のテンションが少しだけだが、元に戻った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る