第12話 帰り道

 ボウリングのあと、カラオケに連れていかれて気がついたら5時を過ぎた頃に俺と有紗は帰ることにした。

 これ以上いる夜までいることになりそうだからと、抜けてきた。

 お互いに電車通学ということが周りもわかっていたので、変な目で見られることはなかった。


「楽しかったね」

「そうだな」


 帰りの電車に乗っていると、有紗がそう言ってきたので相づちを打った。

 実際、大人数で遊ぶことが中学生以来だったからか、俺自身思っていたより楽しんでいた。

 今は、遊んだという疲れがどっときてそれが心地よい。


「久しぶりに拓斗と遊んだなぁ、中学の時はよくみんなと遊びに……ごめん、今のは忘れて」

「大丈夫」


 中学のことを話し始めた有紗だったが、俺のほうを見てハッとした表情を見せた。

 中学であったことはもう慣れてきた。 初めは、中学の話をするだけで吐くほどにひどかったが、今はそんなことはない。


「もう慣れた」

「……嘘じゃないよね?」


 目の前で吐いたところを見た有紗は心配そうにこちらを見ている。



「ケーキ作ってみたい」


 久しぶりに有紗と二人で今晩のご飯の買い出しをしていると、有紗が突然そう言いだした。


「ケーキって、スポンジから?」

「そこから作れるの?」

「道具さえあれば作れるけど、難しいよ?」


 俺がそう言うと少し考えるようなそぶりを見せる有紗を横目に見ながら、牛肉をカートに入れた。


「スポンジから作ってみたい」

「それじゃあ、作るための素材買わないとね」


 そう言って俺と有紗は粉物が売ってある売り場にやってきた。


「何買ったらいいの?」

「薄力粉かな。 家にもあると思うけど、一応買っておかないと。 あとは全部家にあるから大丈夫だよ」

「薄力粉、これでいい?」

「それでいいよ」


 手渡しで渡された薄力粉をカートに入れてレジに向かった。

 

「今日何するの?」

「ん~、すき焼きかな~」

「やった! ボクの好きなもの!」

「はいはい」


 そう適当に流しながらレジの列に並ぶ。



 家に帰ると澪が勉強をしていた。 事前に有紗に澪用のプリントを渡していて、有紗は澪の目の前に座った。


「おい有紗、手洗ったか?」

「洗いました~」

「そうか」

 

 冷蔵庫に食材を詰め込んで、晩御飯を作り始める。


「なぁ、澪。 勉強のほうはどうだ?」

「別に普通だけど?」

「受験はうまくいきそうか?」


 白菜をザクザクと切っていく音と俺と澪の会話が部屋に響く。

 澪の顔は少しだけ険しい顔になるのが見えた。 すぐに顔をそらされたので見間違いかもしれないけれど。


「まぁ、無理に俺たちとおんなじ高校にしなくてもいいけどな」

「そんなこと言わない」


 シイタケの軸を取り除きながらそう言うと有紗に怒られた。

 ハハハッと、笑いでごまかした。


「ボクは、澪ちゃんと同じ学校に通えたら楽しいと思うよ」

「有紗さんとおんなじ高校に通えるように頑張ります」


 それを聞いた有紗は突然席を立ち、澪のところに向かっていき、後ろから抱き着いた。

 またかよと思いつつも手は止めずに食材を切っていく。


「有紗も勉強しとけよ」

「わかってるって」


 そう言って、先ほどまで座っていた席に戻って、自分の勉強を始めた。

  


 ちなみにすき焼きは有紗と澪に肉をほとんどとられて、俺は野菜だけ食べていた。

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