第7話 お出かけ

 そろそろコートが欲しくなるほどに冷え込んでいる今日この頃、俺は駅近くの喫茶店で時間をつぶしていた。

 昨日の夜、有紗に「お出かけしようよ」と言われて了承した結果なぜか、俺だけ先に家を出ることになった。

 まぁ、有紗のやりたいことはわかるんだけども、せめてどのくらい待てばいいのか連絡してほしかった。 寒いから。

 冷めてきたコーヒーを片手にスマホを見ていると『どこにいるの?』という連絡が来た。 それに対して俺は『いつものところ』と返した。

 それから数分後、カランカランという音とともに見慣れた人が入ってきた。

 俺の姿を見つけると怒ったような表情を見せながら俺の前に座った。


「なんで、ここに居るの?」

「寒かったから、あと待ち合わせの時間ちゃんと指定しろよな」


 落ち着いた色のニットを着ていた。 下は普通のレギンスなんとも暖かそうな服装だった。


「暖かそうだな」

「そっちは寒そうね」


 有紗はココアを頼みながらそう言った。 俺の今日の服装は涼しめの長袖の服一枚の上に上着を羽織って来ているだけだから寒い。

 有紗みたいに冬物来て来ればよかったなぁとしみじみ思っている。

 有紗のココアが届いたのと同時に伝票が二つ机の上に置かれる。 俺はそれを手に取りレジに向かう。 立ち上がったタイミングで有紗が何か言おうとしていたがそれを無視した。


「ありがと」

「ん? あぁ、大丈夫だ。 俺が勝手にやってることだからいいよ別に」

「ボクは拓斗のそう言うところがいけないと思うんだけど」

「何のことかさっぱり」


 有紗がココアを飲み終わるのを待った。

 

「んで、どこに行くの?」

「えっと、少しだけ気になるものがあって、それを買いに行こうかなと」

「了解」


 そう言って二人並んで駅に向かった。

 昼前の休日ということもあるが、電車の中は空いていた。 二人して並んで座ることができた。


「買いたいのってどんなものよ」

「えっと、これが澪ちゃんにおすすめされたので、こっちがおととい発売されたラノベ」

「冬物の服か。 確かに有紗に似合いそうだな」


 服のコーデと見出しが書かれたウェブサイトを開きながら見せてきた。 そこには、モデルの人がやさしい雰囲気が感じられる服を着こなしていた。

 確かに今から行くところにここのブティックがあるから買えるだろう。 というより、俺の意見を聞いて自分に合う色を選んでもらおう思っているのだろう。



「こっちはどう?」

「さっきより色合いはいいな。 それに、かっこいいな」


 有紗は電車で見ていた服は着ることなく買っていた。 今は、店内を見て気に入った服を着ているところである。 俺は、普通に見ていて楽しいから苦ではない。 

 それからしばらくして有紗は気に入ったものを購入した。 購入した服は俺が持っている。


「んで、この後どうする?」

「ラーメン食べたい」

「その服でか?」


 ラーメンの汁が服につくと取れなくなるぞと言うと、それでも大丈夫と返された。

 それから、適当なラーメン屋の中に入った。 中からは豚骨のいい匂いが鼻をくすぐる。


「何にする?」

「豚骨と焼き飯」


 そんなに食えるか? と思いながら俺はネギマシマシの豚骨ラーメンを頼んだ。

 

「この後、本屋だよな」

「うん、その後どうしよう」

「ほかに行きたいところは?」

「ない」


 それじゃあと、次の言葉を紡ごうとしたところでラーメンが来た。

 焼き飯が俺の目の前に置かれてそれを有紗の目の前に持っていくと、店員が少し驚いていた。

 

「うん、おいしい」

「そうだな」


 会話がないというより、お互いに食べるのが速いから会話をしていない。

 

「本買ったら、少しだけ行きたいとこ行っていいか?」

「いいよ、ボクだけが連れまわすのはなんか違うから」

「なんかってなんだよ」


 そう言いあっている間も、有紗は食べる手を止めていなかった。 俺は食べ終えて有紗が食べてるとこを眺めていた。

 

 

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