第8話 猫カフェ
有紗はお目当ての本が買えて上機嫌だった。 俺も、今から行く場所のことを考えると心が躍る。
「どこに行くの?」
「ついてからのお楽しみ」
「あぁ~、大体拓斗がどこに行こうとしてるのかボクわかった」
少し癪だったから、軽くこずくぐらいの力で頭をつついた。 有紗は大げさに痛がっていた。
「行くところがわかってるんだったら、買った服とか邪魔だからロッカーに入れようか」
「まぁ、そうだね」
一旦、駅のロッカーに買ったものを入れて目的の場所に向かった。
♦
「ほらやっぱり」
目の前にある看板を呆れたように見ながらそう言う有紗。 俺も続いて看板の上に書かれている『猫カフェ』の文字に思わずにやけてしまう。
「猫アレルギーなのによくここに来ようって思えるよね」
「猫アレルギーだろうとなかろうと猫には触りたいもんだよ」
「何それ」
そう言いながら俺は猫カフェの扉を開いた。
カランカランという音とともに受付からいらっしゃいませと声をかけられた。 猫たちがいる部屋からは一つ扉を隔てて猫たちがいるのが見える。 それぞれが好き勝手にやっていて可愛い。
「ねぇ、これでよかった?」
「ん? ごめん、何?」
「とりあえず一時間くらいでいいよね?」
「いいよ」
それからお店の人にドアを開けてもらい中に入った。
初めは、いきなり入ってきた俺たちに猫たちは警戒して一歩引いたところから俺たちを観察している。 俺と有紗はカフェのおすすめのラテアートを頼んだ。
ソファーに座り猫たちが警戒を解くのを待つ。
しばらくの間、有紗と話をしていると一匹の三毛猫が興味心からか近寄ってきた。
「一匹近寄ってきてるよ」
「あ~っと、名前はミケか。 有紗のほうに来てるぞ」
「かわいいね」
手のひらをミケのほうに向けると手のひらをスンスンと嗅ぎ始めた。 俺のほうはというと後ろから体をこすりつけられるような感覚があり、後ろに振り替えるとクリーム系の毛並みをしたマンチカンがいた。
マンチカンの名前を入るときにもらったパンフレットを見ていると膝の上に乗ってきた。 それを優しくなでながら名前を探していた。
「ねぇ、ずるくない?」
「そうか?」
横を見ると先ほどまで撫でられていたミケはいつの間にかどこに消えており、俺の膝の上にいるマンチカンをなでたそうに見ていた。
「あっ、あった。 マルこれがお前の名前か」
そうマルを見ながら言うとナァ~と鳴いて俺を見上げる。
次第にゴロゴロとのどが鳴る音が聞こえてきた。
「お前も撫でてみるか?」
「それ、ボクに言うの遅くない?」
そう言いながらも優しくマルをなで始めた。 撫で始めてほどなくしてラテアートが俺たちの横に持ってこられた。
「どこかの席で飲もうか」
「うん」
申し訳ないけれどもマルにはどういてもらうしかない。
と思っていたけれども、なかなかどいてくれない。
「仕方がないか」
そう呟くとマルを抱いた。 警戒心の強い猫が俺に抱かれることなんてないけれども、警戒心の薄いマルなら抱かせてくれた。
「僕も抱きたいなぁ」
頬を膨らませながらそういう有紗を見ながら席に着いた。 カップの水面には猫のラテアートが施されていて飲むのがもどかしい。
有紗は一回だけ写真を撮るとカップに口をつける。 カップから離した口元にはきれいに白いひげができていた。
「ひげができていたな」
「だから何?」
若干不機嫌そうにそう言ってきた有紗の頬は少しだけ赤くなっていた。
それから、マルとミケ以外の猫は遠巻きこちらを眺めているか、他のお客さんのところにいた。
マルは最初から最後まで俺の膝の上を占拠していた。
♦
「楽しかった?」
「楽しかったよ。 夜が怖いけど」
猫アレルギーなのに、猫と遊んでいた。 今も若干鼻がムズムズするし、目がしょぼしょぼする。
「まぁ、大丈夫でしょ」
「寝れないって言ってもボクは知らないからね」
そういう有紗は楽しそうにしていた。
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