第6話 図書室

 その日の昼休み。 いつものように武人と昼食をとった後、カバンを持って図書室に向かった。


「あら、また来たのね」

「こんにちは、常坂さん」


 図書室に入ると先に来ていた人物が本をカウンターに置き声をかけてきたた。

 俺はそれに返事をするも顔が引きつりかけた。

 

「ここ一週間ずっと常坂さんですね」


 彼女は常坂亜紀ときさかあき、有紗と同じクラスの人。 髪をショートボブにしていて、どこか大和撫子めいたところがある。

 図書室に来た最初に顔を合わせた図書委員で、何となく苦手な人だ。


「そうね、私がやりたいって言ってるからかしら」

「それが原因ですね」


 少し呆れたようにそう言うと面白いものを見ているかのように笑っている。

 一つ、苦手なところを明確化させるとするならば、笑いながらこちらを見ているのさえどこか作り物の様で蛇に睨まれているように錯覚するから苦手だ。


「もう少し素直になってもいいのに」

「……これでも僕は素直ですよ」

「素直な人は自分で素直とは言わないものよ」


 フフっ、とお上品な笑いを見せるとカウンターに置いていた本を読み始めた。

 やっと終わったと若干気疲れしながら、奥の人が来なさそうな場所を陣取って有紗と澪用の小テストを作る。

 有紗と澪の苦手なところはテストを見て覚えたから、どこがダメでどこの応用ができていないかもわかっているから小テストを作るのは簡単だ。



 澪の小テストは簡単に作ることができたが、有紗の小テストを作るのに少し手間取っていた。

 いつものような小テストではなく、予習も入れた小テストを作るためあれもこれもと入れていくうちにどれを入れるか迷ってしまう。


「コラッ」

「イテッ」


 頭を叩かれてついそんな声を上げてしまう。 

 顔を上げると常坂さんがいた。 なにかしたかなと時計を見ると昼休みが終わっていた。


「す、すみません」

「集中するのはいいけど、しっかりと時間みてよね」


 そう言われてもう一度「すみません」と謝って勉強道具をしまう。 そうして、椅子から立ち上がって図書室を後にしようとした。


「ちょっと待って」

「……どうしたんですか」


 嫌な顔をしそうになる自分を無理やり沈めこみ常坂さんの顔を見る。 有紗とは別の美人だと思ってしまう。

 有紗は容姿端麗という感じだが、常坂さんはどこかのお嬢様のように見えるほど一つ一つの所作が完璧に出来上がっていて

 

 

「えっと、これ、いつもありがとう」

 

 半ば押し付けられるように缶コーヒーを受け取った。

 常坂さんは僕に缶コーヒーを渡すと「じゃあ」と言って図書室を出て行った。

 

「何のお礼なんだ?」


 温かい缶コーヒーを掌の上で転がしながらそう思った。

 授業に遅刻しないように急いで片付けてゆっくりできるようになった時には温かったコーヒーは冷えていた。


「普通だな」


 そう言いながら一気に飲み干す。 日頃、自分で入れたものや喫茶店などで飲んでいるからか、缶コーヒーだと何か物足りなくなってしまっている自分がいる。

 


 放課後になった。 学校内で有紗と顔を合わせることがほとんどない。

 それでも会えない日は少し寂しく感じる。


「ただいま」

「お帰り」


 家に帰ると有紗がいた。 俺は、買い物して帰ってきたから有紗よりも後に帰ることがあるけれども、澪よりも先に帰ってきていることのほうが珍しい。

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