第5話 翌日

 朝、起きてリビングに向かう廊下でスポーツウェアを着た有紗がいた。


「朝、6時だぞ」


 あくびを噛みしめながら俺は有紗にそう言った。

 

「知ってるよ。 でも、日課だからさ」

「そっか、頑張れ」


 そう言うと有紗は「おう」と答えてシューズを履いて外へと走り出した。

 それを見送った俺はキッチンに向かった。


「疲れて帰ってくるだろうから温かいものと甘いものでも作るか」


 そう呟いて俺はキッチンの上の戸棚の奥からハチミツを取り出した。

 ハチミツを使ったハニーフレンチトーストを作ろうと思う。



「お帰り。 先にシャワーでも浴びてこい」

「オッケー、分かった」


 そう言って風呂場に向かっていった有紗。 

 俺は帰ってきた有紗を見て、冷蔵庫に保管していた卵液に浸した食パンを取り出した。 フライパンにバターを入れて一緒に焼く。

 卵液に少しだけ砂糖を入れているため、あたりに甘い匂いが漂い始める。


「すごくいい匂いするんだけど」

「おはよう、澪。 フレンチトースト焼いてるからね」


 程よい焦げ目がついてきたところでさらに移す。

 

「澪、そこで見てるぐらいなら顔でも洗って来いよ」


 そう言うと、澪は洗面所に向かっていった。 二人が戻ってくる前に、フレンチトーストを仕上げる。 両面に程よい焦げ目がついたところで皿に移して、上からハチミツをかける。


「うぁ~、いい匂い」

 

 先に髪を濡らしたまま有紗がリビングにやってきた。

 澪よりも先に帰ってきたかとそう素直に思ってしまった。

 

「髪乾かせよ」


 有紗にそう言うとニコッと笑った。

 こういう時の有紗は何か俺にやってほしいことがある時の有紗だ。 というか、何をしてほしいかわかりきっている。

 うんざりしながらもお湯を沸かす。


「髪を乾かして」

「あぁ、はいはい、分かりました。 とりあえず、ドライヤーもってこい」


 そう言うと、子供みたいな笑みを浮かべて戻っていった。

 ドライヤーを取りに行った有紗と入れ替わりで澪が入ってきた。

 

「お姉ちゃん髪濡れたままどうしたの?」

「俺に乾かしてほしいらしい」

「は? 何それ」

「知らん。 とりあえず、お前は先に食ってろ」


 そう言いながら机にフレンチトーストを並べる。

 母さんはもう仕事に向かっているだろうから作っていない。


「持ってきたよ」


 ニッコニコの笑顔で戻ってきた有紗からドライヤーを受け取りソファに座らせる。

 座って嬉しそうに肩を揺らしている有紗にドライヤーで髪を乾かし始める。


「俺が言うのもあれだけど、子供ぽくないか?」

「ボクはそう思わないよ」


 そう言われてついため息が漏れる。 そう思ってくれているのはありがたいことだけれども、それでいいのかよとも思ってしまう。


「あ、澪。 お湯が沸いたら止めといて」


 そう言いながら髪一本一本乾かすようにドライヤーをかけていく。

 


 有紗の髪を乾かすのに思っていたよりも時間を取られた。 腰あたりまである髪を乾かすのも疲れる。

 俺と有紗がフレンチトーストを食べるころには冷めていた。

 代わりに俺のもとにはコーヒー、有紗にはココアが追加でおいてある。


「ボクのは見るからに甘いね」

「甘いのは嫌いだったけ?」

「いいや、ボクは好きだよ」


 そうかよ、と呟いてフレンチトーストを一口食べる。 自分で作ってあれだが、思っていたよりも甘く感じる。

 コーヒーを一口飲んでその苦みで甘いのを流し込む。



 そろそろでないと間に合わなくなってきたころに、俺と有紗は食べ終わり慌てて学校に行く準備を始めた。


「これ、お前の弁当」

「ありがとう」


 玄関で渡して二人で外に出た。

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