第2話幼馴染
帰ってきた二人を台所から出て向かい入れる。
「二人とも一緒に帰ってきたんだな」
「ん~、ついさっき澪ちゃんと出会ってさ」
「そうそう、コンビニで買い食いしてたところで会ったんだよねぇ」
「コラッ」と言いながら澪の頭に軽いチョップを入れる。
痛くないチョップを痛いとほざいている澪を横目に有紗を見る。
「えっ~と、何か言いたげだよね」
「様になってんなぁって」
「えへへ、そうでしょ」
半年ほどたってやっと見慣れてきた、有紗の外行きの姿が。
俺と有紗は幼馴染である。 高校ではそのことを明かしていない。
特に言う必要がないから言っていないということもあるけれどもただ単純に中学の時のようなことに巻き込まれたくないということがあるけれども。
♦
晩御飯を作り終え食卓に料理を並べているところで二人が二階から降りてきた。
「今日のご飯はハンバーグなんだね」
「そうだよ有紗。 お前の大好きなもんだよ」
「えへへ、ボクのためにありがとう」
屈託のない笑みでそう言われた。 特に悪いことをしているわけでもないけれども有紗の顔を直視できなかった。
「たまに有紗姉さんって何考えてるかわからなくなるよね」
ボソッとそう呟いた澪はそそくさと出来上がった料理を運びに行った。
俺は有紗に聞こえないように「ホントにな」と呟いて澪の後ろを追っていった。
有紗は何のことなのかわからない様子で首をかしげていた。
それを見て今度は俺が笑う番だった。
♦
次の日の朝、俺と澪は朝飯を食べていた。
「なぁ、昨日聞きそびれたけど、お前勉強のほうはどうだ?」
「順調順調」
「それならいいけど、しっかり勉強しろよな。 お前も受験生なんだからな」
そう言って食べていたパンの残りを口の中に突っ込んだ。
口に物が入った状態で立ち上がりごちそうさんと言って俺は皿を片付ける。
それに続いて澪も皿を持ってくる。 カチャカチャと音が鳴るけれどもそれに意識することなく澪を見る。
少しだけ陰りの見える表情が目に映る。 それを見て言い過ぎたかなと感じてしまう。
受験生だから勉強しろというのは逆にストレスをためて体調を崩したりしてしまう。 俺はかける言葉を間違えたかなと思ってしまう。
「今度の休みどこか行くか?」
「いい、またいつか行く」
「そっか」
そう言われてしまえば俺から言えることが何もない。 これ以上過度に言いすぎるのもいけない。
それから家に出るまでの間俺と澪の間に会話はなかった。
「気を付けて行けよ」
「そっちもね」
そう言いあって俺は学校に向かっていった。
学校までは電車に乗って約20分のところにある。 家の近くにも高校があるが俺たちが通っていた中学から誰一人進学していない高校を選んでいる。 あと、単純に近い高校には中学の同級が多く通うため行きたくないとも思っている。
朝から重いため息を漏らしながら俺は学校近くのコンビニでいつものカフェオレを買ってコンビニから出ると意外な人物がいた。
「金崎さん」
「あら、おはようございます石村さん」
友達二人と一緒に歩く有紗がいた。
「昨日、私見ましたよ、入学してずっと一位はすごいですね」
「そっちこそずっと二位じゃないか、それに差はほとんどない。 僕はいつ追い抜かれるかわからないんだからさ」
お互いに家で話すような素ではなく、お互いがいつも学校用の装いで会話している。
これを、僕と有紗のことをよく知っている相手が今のこのやり取りを見ると笑い転げてしまうことだろう。 それほど僕と有紗の関係がおかしいということもあるのだけれども。
「皮肉ですね。 実際、私はあなたに勝ててないのですから」
「ちょっとしたミスの差じゃないかな?」
そう言って僕は学校に向かって歩き始めた。 これ以上ここに居ると、高校の同級たちに見られて変な誤解を生みたくない。 特に有紗と口喧嘩していたなんて言われたくない、あの有紗の友達から変な風に言われるかもしれないけれどもいい。
「おすっ」
「武人」
「有紗さんと何を話してたんだ?」
「また負けたって言われた」
そう言うとははっと笑われた。 それを見て少しイラっとして強めにすねを蹴った。
思いっきり痛がる武人を見てフンッと鼻で笑う。
武人は鼻で笑った僕を見て少し不思議そうな目で見られた。
「なぁ、お前さ。 どっちが本物なんだ?」
「さぁね」
茶化すようにそう呟いて武人と一緒に学校に向かっていく。 昨日何していたかそんなたわいもない話をする。
さっきのことは何もなかったかのように話をする。 何もなかったかのように二人会話を続けていた。
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