ボくらのひめゴト

狐火キュウ

第1話秋空模様

 澄んだ空肌寒い風が頬をかすめて過ぎ去っていく。

 カラッと乾いた空気の中に口から出された白い息が混じっていく。


「いい天気だなぁ」

 

 よく言われる秋空模様のもと学校に向かうために歩いていた。

 今日は定期考査の結果が発表される日、人によってはテストという重みに解放される日、または、追試という新しい重みを受け取る日ということだ。

 かくいう俺――石村拓斗いしむらたくとは前者であることを確信している。

 それよりも憂鬱なのはこの身に染みてくる肌寒さ、秋から冬へと季節がうつろいでいっているのを感じる肌寒さがある。



 朝、昇降口前に出された黒板にTop10までの成績優秀者の名前と順位が張り出されていた。

 そこには、1位石村拓斗、俺の名前が張り出されていた。 

 それを確認して一応、2位の名前を確認して昇降口の中に入っていった。


「おめっと」

「何それ」


 教室の席に座ると前の席に座っていた高校での初めての友達――足立武人あだちたけとがよくわからない祝福の言葉を投げかけてきた。

 武人とは、俺たちがこの高校に入学してからの約半年間ずっと俺の前に座っている男だ。


「学年一位おめでとうってことだよ」

「僕はいつも道理やっただけだよ」


 武人にそう言ってコンビニで買ってきたカフェオレを飲み干す。


「今回で三回目のテストだったけど、全部一位じゃんお前」

「やることをやっただけだよ」

「天才はこれだから……」


 そう肩をすくめながら武人は呟いた。


「あっ」


 呆れたのかおもむろに外を眺めだした武人が何かを見つけ声を出した。


「学年二位様が来た」


 ほれというように顎で廊下のほうを示す。 そこには、思わず目を奪われてしまうような女性が歩いていた。

 綺麗に整えられている髪の毛、心配になりそうなほどの白い肌をしている。


「相変わらずきれいだよなぁ、有紗さん」


 武人が言う有紗とは――金崎有紗かなさきありさ、今回の定期テストの学年二位。

 テストの結果から言うとそこまでの差はない。 でも、金崎は絶対に僕を超えられない。


「なぁ、拓斗。 有紗さんのことどう思ってる?」

「どうとは?」

「好きかどうかだよ」

「キレイ以外には何にも?」

「そ…か」


 ダハァーっと武人は僕の机に突っ伏した。 それを横目に見ながらもう一度金崎のほうを見る。

 金崎の背中を何の気なしに見る。 その背中は少し嬉しそうに見えた。



 学校も終わり放課後になった。 朝張り出されたTop10の人だけではなく全員の成績が返ってきて今、僕は武人と武人の成績を見ていた。


「本当に助かったよ! 初めて赤点がなかった!」

「それはよかった。 がんばって教えた甲斐があったよ」

「それに順位も初めて50以内にも入れたしな」


 僕にすり寄ってこようとする武人を押しのけた。 そして、武人の個表を見ながらもし次に頼られたらどこを教えればいいかを考えていた。


「それにしても、こんなに教えるのがうまいのにお前に教えてもらおうってやつが全くいないよな。 やっぱり、人を寄せ付けない何かがあるんじゃないのか?」

「それは違うと思うな。 僕の場合、金崎みたいに人に好かれる性格じゃないからかな?」

「それはちげぇね」

「おい」


 自分で言っておいてあれだけど、少しイラっと来たから武人のすねを軽くこずいた。

 大げさに痛がる武人を見ながら俺はカバンを持って立ち上がった。


「あ? もう帰るのか?」

「ん、もう帰らないと」

「そうか、また明日な」

「うん、また明日」


 そう武人と別れて、そのままスーパーに向かった。

 いつも、晩ご飯を作るのはいつも俺の仕事だ。

 四人家族の長男として中学の時から帰りの遅い親の代わりに作っている。


「さて、今日は何しようかな。 やっぱり、定番のハンバーグにするか」


 そう呟いて俺はハンバーグの具材を買っていく、ついでにポテトサラダの具材も買っていく。

 具材を買ってそのまままっすぐ家に帰り、俺は晩の支度を始める。

 それと同時に玄関のほうから「ただいま!」という元気のよい声が二つ重なって聞こえた。


「帰りに一緒になっちゃって」


 そう言ったのは妹の澪とだった。


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