曇天




いつもより早めの夕餉の後、琳麗たち宮妓は梨園の中庭に集められた。


相変わらずの曇天である。


じめじめ湿った大気に、重たくなった空気を切り裂くように、きりっとした声が張り上げられた。


「皆よく聞くがよい。今年の馮太后様のご生誕の祝いの宴だが、太后様が民の苦しい暮らしをお気遣いになって、盛大なものではなく質素に執り行うようにと仰せになった。それゆえ今年は太后様に近い王族の方々と、お妃様方のみで宴を催される。よって、宴席に出る宮妓も全員ではない。今から呼ぶ者のみ宴に出席するように」


太極宮の内人の言葉に、集められた宮妓たちがざわめく。


禀誅をはじめとして宮妓たちは、宴に向けて紅やおしろいを新調したり、髪の手入れに気を配ったりと、準備に余念がなかった。


皇帝陛下のご寵愛を受けるまたとない機会だからである。


その準備が無駄になるかもしれないこの事態は、宮妓たちにとって青天の霹靂だった。曇っているが。


「静かに!お前たち、太后様のお心遣いに意見などする立場か!何様のつもりだ」


鄧夫人に叱咤され、宮妓たちは静まり返る。


「良いか。この宴は太后殿下のご生誕の祝いの席ではあるが、何より近頃の王様のご心痛を労わっての太后様のご配慮である。そなたたちの卑しい企みなど知ったことではない」


悄然とした宮妓たちの様子を見て、鄧夫人は大きく息を吐くと、内人に静かに腰を折った。


内人は夫人を見て、静かに頷く。


「呼んだものは後でわたくしの部屋に来なさい」


静まり返った場に、内人の朗々とした声が響いた。

















「小琳、やったわね!」


雪舞の弾んだ声に、琳麗も頬を緩ませた。


けれど、すぐに浮かない顔をして俯く。


琳麗は、ふた月経ってようやく群舞を舞えるようになったものの、やはり他の宮妓と合わせると、本来の出来よりも大分不格好なままだった。


「大丈夫かしら。私、また失敗してしまうかもしれない」


琳麗の沈んだ声に、雪舞は首をかしげる。


雪舞の目には、琳麗の舞は他と遜色ないものであり、琳麗が落ち込む理由がわからなかった。


「なんだかわからないけれど、心配なら練習すればいいわ。私も琵琶を弾くのよ。一緒に練習しましょう」


雪舞の優しい励ましに、琳麗は微笑んで頷いた。


親しげに笑う二人から漂う香は、同じもの。

白檀の香木を、義姉妹の契りをかわす証として焚いたのだ。


琵琶の音と、花の舞。


視線を交わし笑いあう二人。


その様子を険しい顔で見つめていた宮妓たちの姿には、気づかぬままだった。










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