黒い雲
「主上、杜州の田畑は全滅だそうです」
孾茞国は、近年まれにみる大災害に見舞われていた。
皇城の穹を厚ぼったく占拠していた雨雲は、皇都・海紗のみならず、孾茞国のほぼ全域を覆った巨大なものだった。
海紗にほど近い杜州、雍州、蘭州はもちろん、蘇州、錦州に至るまで、塩害や水害で田畑は半壊し、さらに収穫の時期に合わせて駄目押しに蝗害まで押し寄せた。
城に備蓄していた食料も運ぶそばから蝗の大群に食い荒らされ、被害状況は深刻だった。
この機に乗じ、商人たちはこぞって食料を倉に蓄えこみ、物価の高騰は天を突くような勢いである。
民は蝗を食べて飢えをしのいだが、状況がひと月続けば、国中で暴動がおこる。
雨雲は退く気配を見せず、復興は絶望的だった。
正殿で報告を聞いていた王は、こめかみを押さえながら執務室に戻る。
玉璽の横には、大量の上奏書。
「主上、馮太后様がお見えです」
頭を抱えていた王は、侍従の言葉に顔を上げる。
「お通しせよ」
上げた顔は青白く、目元は濃い隈で縁取られていた。
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