最終話 愛する人
「そろそろライトアップかな?」
「そうだな」
同日の夜。俺は司と恋人繋ぎをしながら、電車で三十分程の所にある、少し栄えた街に飾られた、大きなクリスマスツリーの前でライトアップの瞬間を今か今かと待っていた。
司から聞いたんだが、ここには前に美桜と一緒に水着を買いに来たそうだ。その水着を買ったデパートに、さっきまで二人でプレゼントを買ったんだ。
ちなみにプレゼントだが、俺は司が一目惚れしたウサギのぬいぐるみを。司は俺がいつもボロボロのタオルを使ってるのを見かねて、ふっかふかのタオルをそれぞれプレゼントしあった。
……タオルなんて、クリスマスらしいプレゼントじゃないって? 別にいいじゃないか。俺の事を考えてプレゼントしたいって言ってくれたんだし。その気持ちが嬉しいんだよ。
「あっ点いた!」
「お~……こうして見ると、かなり綺麗だな」
「そうだね! えへへ、雄太郎くんとクリスマスツリーを見れるなんて、夢みたいだなぁ」
司は幸せそうに微笑みながら、俺の腕に強く抱きつく。
司が転校してきた時は、まさかこんな風に司と過ごすだなんて、微塵も思ってなかった。当時の俺に今の状況を見せたら、めちゃくちゃビックリするだろうな。
「さてとっ! ツリーも見れたし、帰ってパーティーやろう!」
「もういいのか?」
「うん。二人でゆっくりしたいから」
「それなら、ちょっと寄り道しないか? 静かで二人きり……になれるかはわからないけど、良い所があるんだ」
「そうなの? いくいく!」
「よし、じゃあ一緒に行こうか。確かこっちだったはず……」
俺はスマホで場所の確認をしながら、街の外れに向かって歩き出す。
事前に調べた限りだと、確かこっちの方に行くと……あった、ここの階段を上ればいいんだな。
「雄太郎くん、どこに連れていってくれるの?」
「着けばわかるよ。ネットでたまたま見つけた場所なんだ」
疑問を投げかけながらも、俺を信じてついてきてくれる司を愛しく思いながら、更に歩く事数分。俺達は、丘の上にある小さな公園へとたどり着いた。
「ここって、公園?」
「ああ。こっちだよ」
「……あっ!!」
公園の中にある見晴らし台へと移動する。そこは、この辺りを一望できるスポットだ。俺達の前には、明かりに照らされた街が広がり、先程見たツリーもここから見る事が出来る。
「うわぁ~! 綺麗~!」
「この辺りでどこか良い場所がないかと思って、ネットでいろいろと調べていた時に偶然この場所を見つけたんだ。ここならゆっくり夜景やツリーを楽しめると思って」
「そうだったんだね……本当に綺麗」
「それはよかった」
公園自体が薄暗いのもあって、夜景がより綺麗に見えるな。それ以上に、夜景に目を輝かせる司の瞳の方が綺麗だけどさ。
「周りに人もいないし、私達がこの景色を独占だね」
「そうだな。てっきり他にもカップルが来てると思ってたんだけど、みんなツリーを近くで見たかったのかも。って……俺、こっちの方が司が喜ぶかなって思って連れてきたけど……近くで見たいなら戻ってもいいからね」
「ううん、ここがいい。ここなら二人きりだし……なんだか私達だけの世界みたいで、凄くロマンチック!」
ロマンチック……か。俺にはそういうのはよくわからないけど、司が嬉しそうだし、ここに連れてきたのは大正解だった。
それにしても、困ったな。夜景よりも、司の横顔から目が離せない。本当に可愛いし、なによりも司の事が愛おしくてたまらない。
そんな浮かれ切った俺の頭を冷やすかのように、今日一番の北風が俺達を襲った。
「はっ……くしゅん! くしゅん!」
「大丈夫か?」
「うん、だいじょ……ううん、大丈夫じゃないかな!」
「え? なら早く帰って……」
「そうじゃなくて! こうしてほしいな!」
そう言いながら、司は俺のジャンバーのファスナーを降ろすと、そのまま俺に背中を向けてくっついてきた。
あ~……なるほど、理解できた。全く司は甘えん坊だな。
「こうでいいか?」
「うんっ。あったか~い……ここに一生住む……」
「それは困るな……」
司の体を包み込むように抱きしめてあげると、司はとろけきった声を漏らした。
こんな綺麗な夜景を前にしながら、司とくっついて二人っきりで過ごすなんて……幸せ過ぎる。そろそろバチが当たるんじゃないかと思ってしまうくらいだ。
「幸せぇ……じゃなくて! 大切な事を忘れてた!」
「きゅ、急にどうした?」
「はいこれ!」
司は一旦俺から離れると、自分の荷物の中から、綺麗にラッピングされた包みを取り出した。
……えーっと? さっきプレゼントはもらって、俺の荷物の中に入ってるんだが……あれ、よく見るとさっきプレゼントしてもらったタオルとは違うぞ?
「実は、もう一個サプライズプレゼントを用意してたの。開けてみて!」
「これは……マフラー?」
「そう! これ、実は私の手編みなの! だからちょっと見た目は不格好だけど……日頃のお礼とか、好き~って気持ちを込めたから!」
少し恥ずかしそうに笑う司の気持ちが嬉しくて、俺は早速貰ったマフラーを巻いてみた。
あぁ……暖かいな。身体はもちろん、心までポカポカになっていくのがわかる。
「本当にありがとう。一生大事にするよ」
「もう、大げさだってば~」
「大げさなもんか。さっきのタオルも嬉しかったけど、こっちも凄く嬉しい。それに……なんていうか、気持ちが通じ合ってるってわかったら、尚更嬉しくて」
「どういう事?」
小首をかしげる可愛い司の事を抱きしめたい衝動をグッと堪えながら、俺も自分の荷物漁る。確かここに……あった。
「え、この小箱って……」
「ああ。俺もサプライズで、もう一つ内緒でプレゼントを用意していたんだ。だから、司と通じ合ってるなって思っちゃってさ」
「……雄太郎くんってば……ありがとう。開けてみてもいい?」
「ああ」
喜びを噛みしめるように呟いた司の手の中にある小箱の中から出てきたのは、ハートの飾りがついたペンダントだ。
実は付き合い始めて少し経った頃に、クリスマスや誕生日といった記念日にプレゼントしたいと思っていて、ネットでいろいろと調べている時に見つけたもので、絶対に司に似合うと思って目を付けていた品だ。
「可愛い……でもこれ高いんじゃ? いつのまにそんなお金を?」
「実は、司がバイトで一緒にいられない時にコツコツと日雇いバイトをしたり、剛三郎さんの手伝いをして貯金していたんだ」
「ぜ、全然知らなかったよ……ありがとう、雄太郎くん。早速つけてみていい?」
「ああ。俺がつけるよ」
「ありがとう」
一旦ペンダントを受け取った俺は、極力丁寧に、そしてゆっくりとペンダントをつけてあげた。
うん、俺の思った通りだ。司の可愛さや美しさを引き立ててくれている。可愛すぎて、さっきからドキドキしっぱなしだ。
「似合ってる?」
「ああ、最高だよ。凄く可愛いし、綺麗だ」
「はうっ……雄太郎くん……私、凄く嬉しい……」
「司……?」
司はネックレスが入っていた小箱をポケットにしまうと、潤んだ瞳から大粒の涙を流しながら、俺の事をジッと見つめてくる。それから間もなく……目を瞑りながら、少しだけ背伸びをした。
「雄太郎くん……んっ……んむっ……ちゅっ」
すぐに司の意図を察した俺は、屈んで顔の位置を司に合わせ……司とキスをした。
付き合ってから今まで、機会が無くてしていなかったキス。互いに緊張しているせいで、お世辞にも上手なキスとは言えないと思う。それでも……体中がとろけそうなくらい、甘く感じたキスだった。
「ぷはっ……えへへ、ファーストキス……あげちゃった」
数秒にも満たないキスを済ませて顔を離すと、そこには愛する人の、満面の笑顔が広がっていた。
ああもう、司の全部が愛おしい。もう俺には司以外が見えなくなってしまっている。
「なんか……する前よりも、した方が恥ずかしいな」
「た、確かに……また方言が出ちゃいそう」
「いいじゃないか。俺は普通の喋り方の司も、方言を喋る司も、どっちも大好きだよ」
「っ~~~~!!」
「っと!」
司はこの世の何よりも美しく、そしてかけがえのない笑顔を浮かべながら、俺の胸の中に飛び込んできた。
俺はこの笑顔を一生守っていく。もう……絶対に泣かせない。俺の目指すヒーローのようになるために。そして、愛する人を幸せにするために。
「えへへ……雄太郎くん! うち……雄太郎くんの事、ばり好いとーよ!」
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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