第48話 イチャイチャ登校なら冬もへっちゃら

「さっむ……」

「今日は一段と冷えるね~」


 無事にいつも通りの時間に家を出た俺達は、恋人繋ぎをしながら学校に向かって歩きだした。


 去年までの冬だったら、一人で寒さに震えるだけだったのに、今年は隣に愛する司がいる。そう思うだけで、心も体もポカポカしてくる。


「こうすると、もっと暖かいよ~」

「そうだね」


 司は俺と手は繋いだまま、空いてる腕を使って腕を組んできた。恋人繋ぎだけでもドキドキで体が熱くなるのに、密着度が増してさらに熱くなっちゃうな……。


 それにしても、付き合って数カ月も経つのに、俺は今だに司に毎日ドキドキやソワソワしっぱなしだ。退屈しないと言えば聞こえはいいかもしれないけど、男として、もっと動じないでどっしりと構えた方が良いんじゃないかって思ってしまうな。


「あれ? 雄太郎くん、前から走ってくる人……」

「剛三郎さんだ。おはようございます」

「あ~らお二人さん、おはよ~。今日も朝からラブラブねぇ! アタシ妬いちゃいそう♪」

「からかわないでください。剛三郎さんは走り込みですか?」

「ええそうよん! 寒い日は走ればどうとでもなるってね! それに、朝の冷たい空気の中を走るのは中々に良いものよぉ~! ほら、筋肉も喜んでるわぁ!」


 自分の体を見せびらかすように、剛三郎さんはマッスルポーズをしてアピールする。俺の筋肉も結構なものだけど、流石に剛三郎さんには勝てる気がしないな。


 そうそう、あの騒動の後の剛三郎さんなんだけど、何度か警察から事情を聞かれて、大人なんだからあんまりやり過ぎないようにと注意されたらしい。


 まあ、こんなマッチョな人間が、高校生くらいの男子をひょいひょい投げてたら、いくら救出のためとはいえ、注意されるのは仕方がないと、本人も笑い飛ばしていた。


 それよりも、被害者面した茂木君の両親の対応の方が面倒だったようだ。なんでも、俺達に理不尽にボコボコにされたから、慰謝料と治療費を寄こせとかほざいていたそうだ。


 それに対して、加古さんが撮った例の映像を見せたうえで、この話は警察に通ってるから、話はそっちにしてくれと言ったら、そそくさと帰ったらしい。


 そりゃ……ねぇ? どう考えても茂木君側が悪いのに、逆切れされてもこうなるとしか思えない。


 ちなみに茂木君だけど……司の拉致と、俺への暴行が学校にバレてしまい、退学となった。そこに加えて、俺にぶん殴られた事がよほどトラウマになってしまったのか、少し精神を病んでしまったらしく、専門の施設に預けられる事になったそうだ。


 俺としては、そこまでやるつもりはなかったから、ちょっと後ろめたさはある。でも、彼のやった事は許されるようなものではないから、しっかりと反省してもらいたい。


「それじゃ、アタシはそろそろ行くわ。あんまり長居すると、司ちゃんに邪魔だって怒られちゃうし♪」

「そ、そんな怒ったりしませんよ!」

「そういう事にしておくわぁ。それじゃあね~ん」


 剛三郎さんは大きく手を振りながら、何処かへ向かって走り去っていった。


 全く、あんまり司をからかわないでほしいな。照れちゃって顔が真っ赤になってるじゃないか。超可愛い。


「あ、あのね雄太郎くん! 私は剛三郎さんを邪魔だなんて思ってないからね!?」

「わかってるよ。さあ行こうか」

「ほ、本当にわかってる!? 私そんな酷い人じゃないからね!?」


 俺がそんな酷い事を思うわけがないのに、そんなに慌てちゃって。司は本当に可愛いなぁ。



 ****



「おっはよ~! 今日もラッブラブですな~」

「加古さん、おはよう」

「ちょっ、杏ちゃん! そげん事ば言われたら恥ずかしか!」


 教室に入って早々にからかってくる加古さんに、東郷さんは顔を真っ赤にしながらポカポカと叩き始めた。


 この二人も随分と仲良くなったものだな。気づいたら下の名前で呼び合うようになってるし。


 俺自身も、加古さんとは以前よりも仲良くなった気がする。たまに一緒に遊んだりするようになったしな。


「もう、そんな慌てちゃって~司ちゃんは可愛いねぇ~! 筋肉委員長もそう思うでしょ?」

「激しく同意だな」

「雄太郎くんまで!? う、うぅぅぅ!! うち、席に行く!」


 加古さんとの連係プレーにより、恥ずかしがってしまった司は、ほっぺをパンパンに膨らませながら、自分の席に座った。


 ……拗ねてる顔も良いなぁ……。


「ホントに司ちゃんって可愛いよね」

「そうだな」

「ちゃんと幸せにしなさいよ~? あたしが手伝ってあげたんだし!」

「ああ、その件は本当にありがとうな」


 加古さんが証拠映像を撮ってくれてなければ、後々もっと面倒な事になっていただろうし、加古さんがいてくれたおかげで、司を助ける事が出来たのは事実だ。


 ちなみに事件の後の加古さんは、映像を警察に提出したり事情を説明したりと、かなり動いてくれていたようだ。本当に感謝しかない。


「いえいえ~お礼としてパフェ奢ってもらったからさ! そういえば今日はクリスマスイブだけど、司ちゃんとはちゃんと予定を組んでるんでしょうね?」

「もちろん」

「ならよかった~。初めてのクリスマスイブなんだから、絶対楽しんできてね!」


 念押しするように、加古さんは俺の背中をバシバシと叩いてきた。


 大丈夫だよ加古さん。絶対に最高のクリスマスイブにして見せるからさ。



――――――――――――――――――――


【あとがき】


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