第47話 イチャイチャ三昧な冬の朝
「雄太郎くん、朝だよー起きて―」
「……うぅん……寒い……」
ゆさゆさと体を揺さぶられる感触に僅かな抵抗を示すように、俺は布団の中に顔をうずめる。
司と結ばれてから数か月が経ち……季節は冬になった。今日も司が迎えに来てくれていて、こうして起こしてくれる。
それは凄く幸せなんだけど……寒くて起きるのが凄くつらい。春までずっと布団の中で筋トレをして過ごしたい……もしくはずっと司とぬくぬくしてたい……。
「むぅ……お寝坊さんな雄太郎くんには、お仕置きしちゃうから!」
「…………」
司のお仕置き……きっと可愛いものなんだろうなぁ……そんな事を思いながら更に布団の中に潜ると、なんと司が布団の中に潜り込んできた。
なんだよこの幸せ空間……暖かいし良い匂いがするし……俺、この中に永久就職しようかな……。
「えいっ」
「つめたっ!?」
司の声と共に、俺の首筋に冷たいものが押しあてられたせいで、思わず飛び起きてしまった。
い、一体今のは何だ!? 布団の中は暗かったから、何をされたのか全然わからなかったぞ!?
「えへへ、ビックリした?」
「ビックリした……今のは何だったんだ?」
「私の手だよ。一人で朝ごはんの準備してたらヒエヒエになっちゃって。雄太郎くんの熱がこもったお布団であっためよ~っと」
俺の布団の中からひょっこり顔を出した司は、イタズラに成功した子供の様に楽しそうに笑っていた。
うん、今日も司は可愛いな。それにしても……こんなに手を冷やしてまで、朝ごはんの準備をしてくれるなんて……。
「司、手を温めるのに、もっと良い方法があるよ」
「え、なになに?」
俺は興味津々といった様子で布団から出てきた司の手を、包み込むように握ってあげる。すると、最初は驚いた様子の司だったが、すぐに嬉しそうに頬を綻ばせた。
「あったか~い……」
「いつも朝ごはんの準備してくれてありがとう」
「いえいえ。ささっ、ごはん食べよ!」
司に手を引っ張られながらリビングに行くと、テレビの音以外に何の音も聞こえてこない。どうやら、美桜と母さんがいないようだ。
「美桜ちゃんは日直だから早めに出ていったよ。お母様は何か用事があるみたいで、ついさっき出て行ったよ」
「そっか。って……よく俺の考えてる事がわかったね」
「そりゃわかるよ~。なんてったって彼女だもん」
彼女……か。付き合って数ヶ月は経つというのに、改めてそう言われると凄く照れてしまう。実際にドキドキしてるし、体中がソワソワして今にも筋トレがしたくなるくらいだ。
……あれ? なんか司の顔も少し赤い気が……もしかして。
「司、自分で言って照れてない?」
「そ、そそ! そげん事なかばい! 変な事ば言うとらんで、早うごはん食べよう!」
あ、これ図星だな。めちゃくちゃ慌ててるし、方言も出ちゃってるし。全く、司は可愛いなぁ。
「ほら落ち着いて。また出ちゃってるから」
「あっ……すー……はー……よしっ。早く座って! すぐに用意するから!」
司の言う通りに席に着くと、司は慣れた手つきで次々に料理をテーブルに並べていく。付き合ってからも、ずっとうちのキッチンに立ってるから、勝手知ったるって感じだ。
本人曰く、今住んでいるアパートのキッチンより慣れているそうだ。
「司、何か手伝える事はあるかな」
「ううん、もう終わるから大丈夫! ありがとう!」
「そっか。じゃあ言われた通り、大人しく待ってるよ」
とは言ったものの、正直暇だな。スマホでも見てるか……あれ、ライムが来てる……美桜からだ。なになに……『今日は先に行くから! 二人きりだし、存分にイチャイチャしてね~』って……あいつ、もしかして気を使って早めに出たのか?
「お待たせ! それじゃ食べよっ!」
「ああ。いただきます。もぐもぐ……うん、今日も美味い!」
「本当? よかった~」
美桜に手早くありがとうとメッセージを送ってから、俺は手始めに卵焼きを一口食べる。
本当に美味いなぁ……元々料理をしてなかった人間とは思えないくらいの上達っぷりだ。
「こっちのポテトサラダも自信作なんだ! はい、あーん」
「あーん」
うん、自信作というだけあって滅茶苦茶美味い! これならいくらでも食べれるな!
……え? なにナチュラルにあーんをしてるんだって? 付き合い始めてからずっとやってるから、つい流れで……。
「私にも食べさせて~鮭が良い~」
「はいはい。あーん」
「あーん……ん~おいし~」
あーんしてもらったお返しに、俺は焼き鮭を小さく切り取ってあーんをしてあげると、うっとりした表情で美味しそうに食べてくれた。
司の表情や仕草だけで、ご飯二合は食べれそうだ。それくらい、司が可愛くて仕方がない。
俺って好きになるとこんなに凄いんだな……暴走しないように気を付けないとな。
****
「片付け終わったよ」
「ありがとう雄太郎くん!」
朝食を食べ終わった後、皿洗いを終えた俺は、ソファーに座ってテレビを見ている司の元に戻った。
なんかこうして二人だけでいると、まるで結婚して一緒に過ごしてるみたいだ……いつかはこんな日常が来たら嬉しい。
いや、来たらじゃないか。この理想の日常を手に入れるために、頑張らないとな。
「まだ少し時間あるし、ゆっくりできるな」
「そうだね。ほら、ここ座って!」
「うん」
自分の隣をポンポン叩いて、俺に隣に座るように催促する司。その姿を微笑ましく思いながら座ると……。
「えいっ」
「っと」
……俺の膝の上に、司が乗っかってきた。それを迎えるように、俺は司のお腹に手を回し、ギュッと抱きしめる。たったそれだけで、俺の幸福度とドキドキが一気に高まった。
「雄太郎くん~もっとギュッとして~」
「これくらい?」
「もっと~」
「……ワガママを言うような司にはこうだ!」
「きゃー!」
ワガママな司が逃げられないようにしお腹をがっしりホールドすると、そのまま俺は顔を司の頭にぼふんっと埋めた。
実は、付き合うようになってから、司は変わった。変わっていうか、甘え方がかなり重症化した。
付き合ってすぐの頃は、手を繋ぐのだけでも恥ずかしがっていたんだが……いつの間にか何の抵抗もなく、さっきみたいにあーんをしたり、俺にくっついてくる。
まあ、それも仕方がないだろう。幼い頃に俺と別れた時には、もう俺の事を好きになってくれてたみたいだしな。
それに、これは後から聞いた話だけど、俺に再び会う事を夢見て、つらい日々を乗り越えたとも言っていた。
そんな健気で幸せそうな司に、恥ずかしいから甘えないでくれ! なんて言えるわけもない。
それに、これはついで話なんだが……俺もかなり自分を制御できなくなっている! もう司が可愛くて愛しくて……たまらんっ!!
「……あぁ……いい匂い……癒される……」
「も~恥ずかしいよ~」
「恥ずかしくなんか……ふふっ……」
「なんか危ない薬をやっている人みたいだよ!?」
「司の髪は……人々を幸福にするんだ……」
「やっぱり何か危ないやつだよねそれ! まあ雄太郎くんなら良いけど……」
お許しが出たという事で、俺はそのまま司の頭に顔をうずめて匂いを堪能する。シャンプーの良い香りに、司本人の匂いもとてもよくて……この甘ったるい感じが気分を良くさせてくれる……。
「もう、いつまでやってるの?」
「あと無量大数年……」
「それ、知識だけ偉そうに持ってる中学生レベルの屁理屈だよ~」
「確かに……名残惜しいが……司の髪はまた数秒後に……」
「数秒後じゃ意味ないよ! そんなに私の髪が好きなの?」
「めっちゃ好き。そのサラサラで……長くてつやつやで黒い毛……ずっと触ってたい……」
「雄太郎くんって実は髪フェチ……? 付き合ってそれなりに経つけど、初めて知ったなぁ。わかった、じゃあ今夜触らせてあげるから」
「っ!! 本当か!? 楽しみにしている!!」
やったー! また司の髪を触らせてもらえるぞー! この喜びは筋トレと同等か、それ以上の喜びがあるぞ!
「そうだ、ねえ雄太郎くん。今日の放課後は予定通りで良い?」
「あ、ああ! えーっと、互いのクリスマスプレゼントの買い物をしてからツリーを見て、司の家でパーティーだったな!」
「そうそう! 楽しみだなぁ……」
実は今日は十二月二十四日……クリスマスイブだ。それと、二学期の終業式でもある。だから、放課後はクリスマスデートと称して一緒にいる予定だ。
ちなみに、俺達は互いにまだ恋愛初心者だからという理由で、クリスマスプレゼントは一緒に見て回り、互いに欲しいと思ったものをプレゼントしあうと決めている。その方が、変な物を買うリスクがないからだ。
……まあ、それとは別にこっそり買ってあるのは司には内緒だが。
「さてと、そろそろ準備しないとな」
「やだ~もっとくっついてたい~」
「ワガママは駄目だよ。俺だって我慢して髪から離れたんだから」
「む~!」
「む~む~言っても、駄目なものは駄目」
「ならこうするけん!」
意地でも俺から離れたがらない司は、くるっと体を百八十度回転させて俺と向き合うと、そのまま力強く抱きついてきた。
……なるほど? このまま俺が動いても、くっついたまま離れないつもりだな? 可愛すぎるだろ。
「これなら離れなくて済むも~ん」
「セミじゃないんだからさ……まあいいか。司の軽さなら余裕で動ける」
「お~さすが雄太郎くん! かっこいい!」
うん、気持ちは十分伝わったから、顔を胸にこすりつけないで。くすぐったいから。
「その代わり、このまま部屋に行って着替えないとな。その後はトイレにも行っておきたいな」
「え……あ、あの……」
「そうだ、急げばまだシャワーも浴びれるな。でも司がくっついたままだし、全部一緒に――」
「や、やっぱりくっつきすぎは良うなかね! うん! うち、リビングで待っとーけん!」
「うん、わかった。じゃあ一回部屋に戻るね」
ここまで言ってようやく俺の意図を察したのか、司は顔を真っ赤にしつつ、目をグルグルにしながら俺から離れた。
本当にさ……一挙一動が可愛すぎないか? 彼氏だからそう思うだけなのか? こんなになんでも可愛いって思うなんて、恋心を自覚するまで感じた事はなかったのに……。
恋をすると、人間は変わるもんだなぁ……。
――――――――――――――――――――
【あとがき】
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
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