第46話 告白
「ありがとうございました」
「はい、お大事に~」
騒動があった日の夜。剛三郎さんが呼んだ救急車に乗せられて、夜もやっている大きな病院に連れて来られた俺は、診てくれた医者に感謝を述べながら、診察室を後にした。
医者曰く、体中に打撲はあるものの、骨に異常は無いみたいで、特に入院の必要は無いとの事だ。
とりあえず怪我が無くて良かった。痛い思いをしたくないとか、入院がしたくないとかそういう理由ではなく、単純に東郷さんや周りの人に、これ以上心配をかけずに済むからね。
「あ、おにぃ! 先生なんだって?」
「ただの打撲だから大丈夫だってさ」
「全くあんたって子は……心配かけないで頂戴」
「あれ、母さん? いつ来てたんだ?」
「あんたが診察中によ。美桜から連絡を受けて、すっ飛んできたの」
なるほど、そうだったのか……母さんにも心配をかけてしまったな。いくら東郷さんを助けるためだったとはいえ、さすがに軽率な行動だったかもしれない。
まあ、反省はしてるけど、後悔はしてないが。
「なあ美桜、加古さんや剛三郎さんは? それに……東郷さんは?」
「えっと、加古先輩と剛三郎さんは、おにぃが診察室に入ってすぐに来た警察の人と一緒に、どっか行ったっきり帰ってきてない。多分事情聴取を受けてるんだと思うよ」
事情聴取か……暴力事件と言っても差し支えないし、そこに唯一の大人である剛三郎さんが絡んできたとなったら、そりゃ剛三郎さんが警察のお世話になるよな。
それに、加古さんはあの事件の一部始終を撮っていたみたいだし、それを見せながら事情を説明してるんだろう。
全く関係のないはずの二人まで巻き込んで……本当に申し訳なさしかない。次に会ったら、誠心誠意謝ろう。
「司先輩は、ついさっきトイレに行ったから、もう帰って……あっ噂をすればだね」
「雄太郎くん! 怪我はどうだった!?」
「東郷さん、落ち着いて。大丈夫だったよ。このまま帰っていいって」
「本当に? よかった……本当によかったぁ……」
戻って来て早々、俺に掴みかかる勢いで駆け寄ってきた東郷さんに説明してあげると、彼女は安堵の息を漏らしながら、俺にギュッと抱き着いてきた。
なんだかこうやって東郷さんに触れていると、ドキドキはするけど……凄く心も体も暖かくなる。なんていうか、ずっとこうしていたい。
「あらまあ、最近来なくて寂しく思ってたのに、いつの間にか仲良くなっちゃって」
「か、母さん! からかうなって!」
「やだ怖い。まあそんな元気なら大丈夫そうね。それじゃ母さん、診察費の会計をしてくるから、先に帰ってていいわよ」
「わかった~。おにぃ、ちゃんと司先輩を家まで送ってくんだよ!」
「もちろん。さあ東郷さん、行こうか」
「え、大丈夫なの……?」
「大丈夫。さあ、一緒に帰ろう」
「わかった」
俺達はゆったりとした歩みで病院を後にすると、上空には煌びやかな星々たちが、俺達を優しく出迎えてくれた。
「星が綺麗だね~」
「そうだな。旅行に行った日も、こんな感じで星が綺麗だったな。そういえば、流れ星が流れてたね」
ゆったりと歩きながら、東郷さんの家を目指していく。周りに人がいないから、落ち着いて話すにはちょうど良さそうだ。
「ねえ、手……繋いでいい?」
「いいよ」
「ありがとう」
すぐ隣を歩く東郷さんは、俺の指に自分に指を絡めた。それだけに治まらず、東郷さんはその細い腕を、俺の太い腕にギュッと抱き着いてきた。
こうやって手を繋ぐのも、抱きつかれるのも、東郷さんだと意識をすると、相変わらずソワソワとドキドキが起こるな。
「聞かせてくれないか? 俺を避けていた理由や、本当にヒーローだったのかを」
「うん。いつかはちゃんと言わなきゃと思ってたから。私の家でゆっくり話すね」
「わかった」
東郷さんの家か。看病をしに行った日以来か……そんなに経っていないのに、凄く久しぶりな感じがするな
「おじゃまします」
「その、凄く散らかってるから、足元気を付けて!」
東郷さんの注意通り、部屋の中はだいぶごちゃごちゃしていた。始めて来た時は綺麗だったのに、一体どうしたんだろうか。
「ほら、ここ座って」
「ああ」
東郷さんはベッドに座ると、その隣に俺が座るように促してきた。
なんか、前に来た時は看病だけだったし、その時の俺は自分の恋心を自覚していなかったから、特に何も感じなかった。
でも今は違う! 好きな人の家、好きな人のベッドの上、しかも二人きり! さ、さすがにこれは緊張する!
「えっと、説明します。お察しの通り、私は雄太郎くんの言うヒーローです。警察だった両親の影響で、弱い者いじめをする悪い子と、片っ端から戦ってました。そんなある日、雄太郎くんと出会いました。雄太郎くんをいじめる子達とも戦ってたね。それからしばらく経って……私は生まれて初めて守ってもらうという事をしてもらった。雄太郎くんが私を庇ってくれた事ね。結果的には、雄太郎くんは返り討ちにあい、私は怪我をしてしまった。それから間もなく、私は引っ越ししました。その際に貰ったのが、思い出のクローバーの栞だったね」
ああ、そんな過去だったはずだ。今思い出しても、自分の情けなさが異常に際立っている。反省……。
「雄太郎くんは、さっき謝ってたけど……私にとっては嬉しかったんだ。ずっと一人で戦っていた私の事を、雄太郎くんが庇ってくれた。結果的には上手くいかなかったかもしれないけど……それが嬉しくて、好きになっちゃったの! まあ……それから間もなく両親が死んじゃったから、親戚の家に引っ越す事になっちゃったわけだけど……」
そう言いながら、東郷さんは俺にピッタリと寄り添ってきた。それを迎えるように、俺は東郷さんの肩を優しく抱いてから、彼女の頭を優しく撫でた。
「そこまではわかった。それで、図書室で逃げた件は?」
「その……説明するのにちょっと長くなるけど……笑わないでね?」
「笑わないよ」
東郷さんは、「ありがとう」と言ってからポツポツと逃げた事の告白を始める。
「あのね、私……実は転校してきた理由が、雄太郎くんと一緒になれたらいいなって思ったからの。でも、まだここに住んでる保証もないし、遠くの学校に行ってる可能性もある。だから、会えないだろうなって思ってたんだけど……本当に会えた! 見た目はかなり変わってたけど、優しいままの雄太郎くんに!」
今思うと、東郷さんと再会して初めて話した時、俺に対する反応が少し変だった。あれは、まさか本当に俺に会えると思ってなかったから、思いっきり動揺していたからなんだな。可愛いかよ。
「それでね。今までもヒーローだった過去を出さずに生活してたんだけど、今回の転校は、より一層出さないように気を付けた。もしヒーローだって事が雄太郎くんにバレたら、もう二度と雄太郎くんは私をヒーローとしか見てくれない……女の子として……異性として見てくれない……そう思うと怖くて……だからバレちゃった時に逃げちゃったの。ごめんなさい……」
「そうだったんだ……一人で悩ませちゃってごめんね、東郷さん」
俺が鈍感だったばかりに、東郷さんにはずっとつらい思いをさせてしまったと考えるだけで、申し訳なさでいっぱいになる。たらればなのはわかってるけど……俺がもっと早くに東郷さんの気持ちに気づいてたら、こんな事にはならなかったかもな……。
いや、後悔は後でも出来る。今は……俺の正直な気持ちを東郷さんに伝えよう。
「俺さ、東郷さんがヒーローだからって、東郷さんを女の子として見ないなんて事、絶対にしない。それに、さっきも言ったけど……もう追いかけるだけじゃ嫌だ。東郷さんの隣に立ち、一緒に歩きたいんだ」
「雄太郎くん……それって……」
東郷さんは、キラキラと輝く目を俺に向ける。その期待に満ちた目は、この世のなによりも美しく見えた。
「俺は……東郷さんが好きだ。大好きだ。こんな筋トレしか能が無い俺だけど、付き合ってください」
「雄太郎くん!!」
てっきりイエスかノーの返事が返ってくるものとばかり思っていたが、帰ってきたのは熱烈なハグだった。嬉しいけど、ちょっと痛い。
「嬉しか……嬉しかよぉ……あっ、嬉しすぎてまた方言が……」
「それくらい嬉しかったんだね」
「うん。ばってん、雄太郎くんもよかと……? こげん方言が出てしまうような、可愛げのない女ばい?」
「ああ、もちろん。普通の東郷さんも、方言が出ちゃった東郷さんも、どっちも好きだよ」
「っ……! 雄太郎くんっ!」
東郷さんは嬉しさを爆発させるように、俺の背中に回す手に更に力を入れる。痛いけど……そんなの気にならないくらい嬉しいし、胸がドキドキしている。
異性を好きになって、その相手に喜んでもらうのって……こんなに嬉しいんだな。今までも嬉しかったけど、恋心を自覚してからは、嬉しさが何倍にもなっている。
「あはは……これは、オッケーでいいのかな?」
「うんっ! これからも末永うお願いします。えへへ……これからもずっと仲良うしんしゃい!」
「うん。よろしくね、東郷さん」
「むぅ……付き合うっちゃけん、名前で呼んでほしかね」
東郷さんは、少しだけ顔を上げながら、プクっと頬を膨らませた。その顔は、もう可愛すぎて眩暈がしてくるくらいだ。
それにしても、名前呼びって……は、恥ずかしくないか……? 考えただけでソワソワするんだけど。
「名前……えっと、司さん?」
「呼び捨てにしてっ」
「つ、司!」
「はい! ようできた! 雄太郎くん……これからもずっとずっと一緒にいようね!」
「ああ……ずっと一緒だ!」
東郷さん……いや、司の言葉に、俺は力強く答えながら、彼女の小さな体を、いつまでも抱きしめるのだった――
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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