第45話 決着

「……??」


 戦ってくれるのかと思いきや、剛三郎さんはどこからか流れる陽気なBGMに合わせて、ボディビルダーがやるような、マッスルポーズを取り始めた。


 一体何がしたいのかわからないんだが……遊びに来てるわけじゃないよな?


「ふんふんふ〜ん♪ ふんっ!!」

『はぁ!?』


 その場にいた全員の、半分悲鳴に近い声が綺麗に重なる。


 まあそれも仕方ない事かもしれない。何故なら、剛三郎さんは体に力を入れて、着ていたワイシャツを手を使わないでビリビリに破いてしまったからだ。


 凄すぎんだろ……こんなの漫画でしか見た事ないって……あと、どうでも良いかもしれないけど、しっかりブラジャー? のようなもので胸元をガードしてるのが、なかなかにシュールだ……。


「ほぉら、アタシのさいっこうに鍛えた筋肉美……特にこの上腕二頭筋とかさいっこ~に張りがあって美しいわぁ……ほらぁ、その可愛い目に焼き付けなさぁい!」

「意味のわからない事を……お前ら、邪魔者をさっさと潰せ!」

「お、おお! うらっ! 死ねやぁ!」


 不良の一人が放ったパンチは、剛三郎さんの顔を捉える。だが、剛三郎さんには全く効いていなかった。


「ふぅん……良いパンチねぇ! 惚れ惚れしちゃうわぁ! こんな所にいないで、是非アタシのジムに来て、遺憾なく鍛えてほしいわぁ~」

「なにふざけた事……を……!?」


 あくまでいつものペースを崩さない剛三郎さんに殴りかかった男は、片手で軽々と持ち上げられ、そのままポイっと投げ捨てられてしまった。


 あ、相変わらず化け物級の怪力だな……見た目も凄いけど、中身も凄すぎる。


「本当はこの最高の筋肉を活かしてぶち壊してもいいんだけどぉ……大人げないし、ぶん投げるだけで許してア・ゲ・ル♪」

「怯むんじゃねえ! いくら強くても相手は一人だ! 人数でフクロにすれば問題ねぇ!」

「あらあら興奮しちゃって、可愛いボウヤだこと。でもぉ……アタシは一人じゃないのよねぇ」


 茂木君の少し焦ったような声に対して、剛三郎さんは一切余裕を崩さずにニコニコとしている。


 一人じゃないって……他にも助けに来てくれた人がいるってことか?


「今よ、美桜ちゃん!」

「おっけー! おらぁぁぁぁ!! 美桜の大切なおにぃをボコボコにしやがって! お前ら全員許さないんだからぁぁぁぁ!!」

「どうして美桜がここに……」


 想定外の助っ人の登場に呆気に取られてる俺の事などお構いなしに、瓦礫の陰から飛び出してきた美桜は、近くにいた不良を、お得意の柔道の技を使って投げ飛ばしてしまった。


 あ、相変わらず美桜の実力は凄いな……登場には驚いたけど、これも心強い助っ人だ。


「剛三郎さんから、おにぃと司先輩がピンチだって聞いたからさ! あれだよ! ヒーローのピンチには、仲間が必ず駆けつけてくるってやつ!」

「ヒーローって……なんだよ、俺の事か? こんなボロボロでヒーローって言われてもな……」

「なに言ってるの? 大切な人を守るためにボロボロになるおにぃの姿は、世界一カッコいいヒーローだよ!」


 ったく、何を言っているんだか……でも、不思議と悪い気はしない。なんて言えばいいだろうか……心の底から勇気が湧いてくるような、そんな不思議な感覚だ。


「おにぃ! こいつらは美桜達に任せて! おにぃは司先輩と茂木だけに集中して!」

「ああ、わかった!」

「なにグダグダ喋ってんだ小娘!」

「っと、ハイ残念でした~! 美桜、こう見えても強いんだよね~!」


 美桜に投げられた男は、立ち上がって美桜に掴みかかるが、再び美桜に軽々と倒されてしまった。


 剛三郎さんの方も、圧倒的と言っても良いくらいだし……流れはこっちに来ている。後は東郷さんを助けて、茂木君をどうにかすれば!


「くそっ、なんなんだこいつら! そんな事をして、司ちゃんがどうなってもいいのか!」


 マズイ、このままでは俺が東郷さんを助ける前に、茂木君が東郷さんの元に行ってしまう。そうなったら、人質にされてまた形勢が逆転する!


「……え?」


 東郷さんの所に戻ろうとした茂木君から、何ともマヌケな声が聞こえてきた。その視線の先には、拘束された東郷さんがいる――と思いきや、既に東郷さんの拘束は解かれていた。しかもその隣には、東郷さんを抱きしめる加古さんの姿があった。


「ふんだっ! 残念でした! 剛三郎おじさんと美桜ちゃんに気を取られてる間に、東郷さんの拘束を解かせてもらったよ!」


 加古さんまで……いつの間に東郷さんの所に行っていたんだ!?


 ……っ! そうか! 剛三郎さんと美桜は囮で、全員の注意を引き付けている間に加古さんが東郷さんを助ける算段だったのか……! だから剛三郎さんは、あんな音楽をかけたり、マッスルポーズをして注意を引き付けていたんだな!


 とにかく、これでもう何も気にする必要は無くなった。後は……首謀者の茂木君を倒すだけだ!


「加古……! てめぇ……それにそのスマホはなんだ!?」

「あぁこれ? 茂木達の悪事を、記念に撮っておこうと思ってね! さっきからずっと撮ってるから! 学校のみんなに見せてあげなきゃ! 勿論先生達にも!」

「なっ……!? ふざけんな、そのスマホ寄こせ!」

「スマホよりも、後ろを見た方が良いと思うよ?」

「何を言って……っ!?」


 俺は背中を向ける茂木君の肩を掴み、無理やり俺の方に向けさせると、そのまま顔面を殴って吹っ飛ばした。


 基本的に、俺は暴力に頼る事はしない。俺のような鍛えた体は、ある意味歩く狂気のようなものだから、その力を振るうのは危険だからだ。


 だが、大切な人を守る時は、この筋肉を存分に使うと決めている。それが今だという事だ!


「がっ……はっ……!」

「茂木君、お前は絶対に許さない」

「このっ……舐めんじゃねえぇぇぇぇ!!」


 何とか立ち上がり、俺に突進してくる茂木君だが、今の一発だけで膝がガクガクになっている。これも鍛えてる人間と、そうじゃない人間の差かもしれない。


「このっ! 死ねや!」


 さっきまでの余裕など一切感じられないくらい、一心不乱に殴ってくるが、ガクガクになった状態で放たれるパンチやキックには、全く威力がない。


 そんな茂木君に、俺は今度は腹に一発お見舞いすると、茂木君はその場で苦しそうに蹲ってしまった。


 まだだ。こんなんじゃ、東郷さんを傷つけた事への粛清にはならない。


「俺が……負ける……また、こんな奴に……!」

「諦めろ。もうお前に勝ち目はない」

「ふざっ……ふざけんな……! 俺は……俺は常に勝ち続けていた……人生の勝者だったのに! てめえがいなければ……てめえの……てめえのせいでぇぇぇぇ!!」


 茂木君は、足元に落ちていた掌サイズの瓦礫を掴むと、勢いよく立ち上がり、瓦礫を持った手を振り下ろしてきた。


 こんなのが頭に当たれば、それこそ命をも落としかねないだろう。だが……自分でも驚くくらい、冷静に瓦礫を片手で受け止める事が出来た。


「そんな身勝手でふざけた理由で……東郷さんを! 俺の大好きで、大切な人を……巻き込むんじゃねぇぇぇぇ!!!!」


 最後の最後まで反省の色が見えない茂木君に、俺は渾身のストレートを顔面にお見舞いすると、茂木君の体は後方に吹っ飛ばされ……何度か地面を転がりながら、壁に叩きつけられた。


「…………」

「……自分の才能にあぐらをかいて、毎日努力をしなかった、お前の負けだ」


 茂木君が完全に意識を失ったのを確認してから、ゆっくりと振り返る。そこには、不良達を全員倒し、笑顔を俺に向けている剛三郎さんと美桜の姿があった。


 二人なら大丈夫だとは信じていたが……心配だったから、無事なのが確認できてホッとした。


 そして……肝心の東郷さんは、加古さんに抱きしめられながら、俺の方を見つめている。どうやら彼女も大きな怪我は無さそうだ。本当に良かった……。


「雄太郎くんっ!!」

「うおっ……」


 東郷さんの無事をちゃんと確認しようとする前に、東郷さんは俺の元に走ってくると、勢いを一切緩めずに俺の胸の中に飛び込んできた。


 さ、流石に今の状態で突進されると痛い……あと恥ずかしい。でも、こんな力が残ってるくらい、東郷さんは元気という事だな。


「バカバカバカ! 逃げてって言ったのに……そんなに無茶して!」

「逃げれる訳ないだろ? 俺の目指しているヒーローは……誰が相手でも、どんな状況でも絶対に屈しない、最高にカッコイイ人なんだから」

「うっ……うぅ……バカぁ……」


 ポコポコと俺の胸を一取り叩いた後、東郷さんは俺の胸の中で、子供の様に泣き始める。俺はそんな彼女を強く抱きしめた。


 これで……一件落着、かな。もう二度と東郷さんを危険な目に合わせないようにしなければな……。



――――――――――――――――――――


【あとがき】


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