第44話 助っ人

「おらぁ!!」

「ぐっ……」

「どうしたんだよでくの坊! 随分と元気がなくなってきたじゃねーか!」

「かはっ……」


 あれから何分経ったのだろうか。正確な時間はわからないが……少なくとも数分は経っているはず。


 そんな状況で、俺の体はあちこち殴られ続け、赤く腫れあがっていた。口からは血が流れているし、体中が痛む。


 だが……弱音なんて吐いていられない。俺が耐えれば、東郷さんを助けられるんだ。


「フハハハハ!! あの筋肉ダルマがボロボロになる姿、最高だ! もっともっと惨めな姿になれ! そして、二度と俺に逆らえないように忠誠を誓わせてやる!!」

「雄太郎くん……! こげん酷か事ばして、絶対に許しゃんっちゃけん!!」

「おお怖い怖い。そんな態度を取っていられるのも今の内だよ。筋肉ダルマが惨めに敗北し、君が俺の女になった暁には……もう俺無しではいられない体にしてあげるよ」

「いやっ! 触らないで!」

「やめろ! 手を出さない約束だろ!」

「っと……これはすまないね。続けろ」


 全く、油断も隙もあったものじゃないな……そんな事を思っていると、背後から後頭部を思い切り殴られたせいで、思わず前のめりに倒れそうになってしまった。


 危なかった……絶対に倒れるわけにはいかないからな。意地でも耐えきってやる。



 ****



「ぐっ……はぁ……はぁ……」

「クククッ……そろそろ頃合いか。おいお前ら、あとは俺に任せろ」

「はぁ? せっかく良い所だったのによー」


 茂木君の仲間達に更に殴られ続け、膝もガクガクになってきたのを見計らっていたのか……茂木君は悪魔のような笑みを浮かべながら、俺の前にゆったりと立った。


「随分とボロボロになっちまったなぁ筋肉委員長様。あの手紙のせいですれ違い、元気がなくなっていくお前も滑稽だったが、今の方がスカッとするぜ」

「手紙……? どうしてそれを……」

「なんだ、気付いてなかったのか。いいぜ、教えてやる。お前の下駄箱に入っていた手紙は、俺が準備して入れたものだ」


 なっ……!? 東郷さんからの手紙だと思っていたのに……あれは茂木君の仕業だったのか……!?


 そうか! 加古さんが言っていた、どうしてライムじゃなくて手紙なんだろうっていう疑問の答えは、手紙の送り主が茂木君だというなら、説明がつく!


「同じような内容を司ちゃんにも渡してあったからな。互いを考えすぎてすれ違っていく様は最高だったぜ。まあ流石にこれ以上は手紙の事がバレそうになったから、こうして次の手に移ったわけだが。おらぁ!」


 一通り喋り終えた茂木君は、俺の事を殴り始める。一発の威力はそうでもないが、ボロボロの俺には致命傷になりかねない。


「どんな気持ちだ? ずっと勝っていて良い気になっていた所に、女の前でボコボコにされる気分はよぉ!」

「ぐふっ……良い気になんて……」

「お前が思ってなくても、俺がそう感じたらそうなんだよボケ!!」


 誰が聞いても理不尽だと思いそうな考えを吐き散らかしながら、茂木君は俺の腹に拳をめり込ませた。


 そんなんで……倒れてたまるか……伊達に何年も鍛えてないんだよ!


「へっ、相変わらず固い筋肉だな。殴りがいがあるってもんだ! ほらほら、謝って俺に忠誠を誓えば、まだ許してやるぞ? なにせ俺の心は広いからな!」

「冗談じゃねえ……お前に許しを乞うくらいなら、死んだ方がマシだ!」

「なら、さっさとくたばっちまえよ!」

「っ……はっ……」


 大きく振りかぶって放たれた茂木君の渾身の拳は、無抵抗の俺の顔面にクリーンヒットした。その一撃は強烈で……俺の体は大きく仰け反った。


 今のは……効いた……意識が保てない……俺は……あれだけ鍛えたのに……大切な人を守る事も出来ないというのか……?


 嫌だ……。


 嫌だ!


 そんなの……嫌だ!!


「俺は……弱かったあの頃と……違う!!」

「ちっ。まだくたばらねえか。そんなに殴られたりないなら、お望み通りに死ぬまで殴ってやるよ!!」


 その言葉の通り、茂木君は一心不乱に俺の事を殴りまくる。殴り方なんてお構いなしと言っても過言ではないくらい、殴って殴って殴りまくる。


 それでも俺は倒れないまま……タイムアップを告げるアラームが廃工場の中に響き渡った。


「なっ……まさか本当に耐えきっただと……!?」


 よかった、何とか耐えきった……この筋肉が無ければ、確実に耐えきれていなかっただろう……子供の頃の東郷さんに憧れて鍛え始めて、未来の東郷さんを守る事になるなんて昔の俺が知ったら、きっと驚くだろうな……。


 ははっ……何考えてんだ俺。乗り切ったからって気が緩み過ぎだ。ちゃんとこの状況から逃れて、東郷さんを家に帰すまで気を緩めるな。


「はぁ……はぁ……俺の勝ちだな……さあ、約束通り……東郷さんを開放してもらおうか」


 体中がボロボロで足もガクガク、息も肩でしてるくらいの満身創痍だが、俺は立っている。一度も倒れていない。


 その事実がよほど信じられないのか、茂木君は目を大きく見開いて、俺を忌々しそうに見つめていたが、突然嫌らしい笑い方をしてから、俺に背を向けた。


「約束……約束ねぇ? さて、なんの事だ?」

「なっ……!? 勝負に勝ったら、東郷さんを開放するって約束だろう!」

「さあ、覚えてないな。そこで俺が司ちゃんで遊ぶ姿を見てるがいいさ」

「このっ……! ふざけんな……!」

「おっと行かせないぜ~」


 外国人が呆れた時にするような、肩をすくめるポーズを取りながら、茂木君はゆっくりと東郷さんの元に向かう。


 もちろんそんなのを俺が認めるはずがない。急いで茂木君を止めようとしたが、思うように身体が動いてくれないうえに、取り巻き連中が俺の体をがっしりとホールドしたせいで、身動きが取れなくなってしまった。


「いや、来ないで!」

「東郷さん! くそっ! 放せお前ら!」

「暴れんなよ筋肉野郎。そこでお前の女が無様な姿になるのを見ておけ!」

「いやぁぁぁぁ!!」


 ついに東郷さんの元へとたどり着いてしまった茂木君は、手を伸ばして東郷さんのワイシャツのボタンを無理矢理開けた。そのせいで、東郷さんの水色の下着と、綺麗な肌が外界に晒されてしまった。


 あの野郎……! 身動きが取れない女性に何て酷い事を……!!


「おい茂木ー、あとでオレ達にも遊ばせろよー」

「わかってるって。さあ司ちゃん……俺のものになりな。クククッ……」

「くそっ! 放せ! 放せよ!!」


 万全の状態なら、こんな細い連中の拘束なんて、パワーでどうとでもなっているはずなんだが、殴られ過ぎたせいで、体に力が入らない。


 これでは……東郷さんが……!


「頼む、東郷さんには手を出さないでくれ! 俺にならいくらでも、何をしてもいいから! だからっ!」

「へえ。それは殊勝な心掛けだな筋肉ダルマ。俺の答えだが……嫌だね! 俺はお前の大切な司ちゃんをめちゃくちゃにして、お前がもがき苦しむ姿が見たいんだよ! ついでに司ちゃんを寝取ってメロメロにしてやるから安心しろよ。クククッ!」


 俺が何もできない前で、茂木君は東郷さんの下着に手を伸ばした――


「やめろ……やめろぉぉぉぉ!!」

「そこまでよん、ボウヤたちぃん!」


 絶体絶命かと思ったその時、一人の天使が……いや、オネエが廃倉庫の中に舞い降りた。


 どうして……どうしてあの人がこんな所に!?


「え、なにあのでかくてキモイ……おっさん?」

「あいつ、街中で見た事あるぞ! デカいオカマだからよく覚えてる!」

「剛三郎さん……? どうしてここに……?」

「杏ちゃんから話を聞いて、助けに来たのよん!」


 杏ちゃんって言うと……そうだ、加古さんの下の名前だ。一瞬誰の事を言ってるのかわからなかった。


「さあ~……ミュージックぅ……スタート!」



――――――――――――――――――――


【あとがき】


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