第42話 拉致

「こないな……」


 放課後。約束通り東郷さんを屋上で待っているんだが、未だに現れる気配がない。


 東郷さんはきっと来てくれる。だから、俺はここで待ってないと、またすれ違いが起きてしまう。それだけは避けたい。


「あれ、まだ来てないの?」

「加古さん。どうしてここに?」

「二人が気になっちゃって。一応これでも東郷さんとはお友達をやらせてもらってますし?」


 そうだ、俺が離れている間に、東郷さんとずっと一緒にいてくれていたんだよな。感謝してもし足りないよ。


「いつも東郷さんと仲良くしてくれてありがとうな」

「お、今の彼氏っぽくて、加古さんポイントは高いぞ~」

「彼氏って……まだそんなんじゃ……」

「まだ? まだって事は! ついについに!?」


 不味い、これは藪蛇を突いてしまった気しかしない。


「まあ……近いうちにはそういう関係にはなりたい。でも、まずはお互い話をして、お互いの考えを共有するのが大事だから」

「それはそうだね。なんか東郷さんね、すっごく悩んでいたから……ちゃんと聞いてあげて。そして、安心させてあげて」

「ああ、任せろ。ここにはそのために来た」


 決意を新たに、俺は屋上のフェンスに寄りかかる。ミシミシいっているけど、多分問題は無いだろう。


 それにしても、東郷さんはまだ来ないのだろうか? 何か掃除当番があるとは聞いてないし……。


「遅いな……まさか……」

「それはないと思う。東郷さんは約束を破るような子じゃないもん」

「……そうだな。変な事を考えてごめん」

「まあまあ、状況が状況だから仕方ないって。それじゃおじゃま虫は退散するね~……って、あれ?」


 飄々と笑う加古さんの視線の先、そこには俺のポケットに入っているスマホがある。そのスマホから、なんか音が鳴ってるような気がする。


「なんか聞こえない?」

「あ、聞き間違えじゃなかったか……通話? 誰だ……え、東郷さん?」


 スマホの画面に映された、東郷 司という表示に、俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。


 ……なんだろう、嫌な予感がする。


「もしもし、東郷さん? こっちに来ないけど、なにかあったのか?」

『やっほ~筋肉ダ~ルマく~ん。悪いな、愛しの司ちゃんじゃなくて』

「なっ……!?」


 通話に出たのは東郷さんじゃなく、聞き覚えのある男の声だった。


 この声……それにその呼び方は……茂木君!? どうしてあいつが東郷さんのスマホから通話をかけられるんだ!? 一体どうなっているんだ!?


「なんで茂木君が東郷さんのスマホで通話なんかしてくるんだ!?」

『そりゃもちろん、司ちゃんのスマホが手元にあるからさ。さて、単刀直入に言う。司ちゃんは俺達が預かってる。返してほしかったら、これから指定する場所に一人で来い』

「預かってるって……どういう事だ!?」

『なに、司ちゃんには俺の復讐の手伝いをしてもらってるだけさ。お前が言う事を聞けば、無傷で開放してやるよ』


 何がどうなっているんだ。預かってるって……それに復讐って、茂木君は一対何を考えているんだ!?


『雄太郎くん! 来ちゃ駄目! こん人達は……きゃあ!?』

「東郷さん!?」

『ったく、大人しくしてろって言ったのに、言う事を聞かないから痛い目に合うのがわからないのか。これだから馬鹿は困るな。とりあえず、今ので分かっただろう? お前に拒否権は無い。わかったらさっさと来るんだな。場所はこれからライムで送ってやる』

「おい! 東郷さんは無事なんだろうな!? もしもし! くそっ……切りやがった!」


 なんの音も発さなくなったスマホを忌々しく睨みつけながら、俺はスマホを持つ手に力を込めた。


 茂木君は復讐と言っていたが……そこまで恨まれるような事をした覚えはない。仮に恨まれるような事をしていたとしても、東郷さんを巻き込んでいいなんて道理は無い!


「筋肉委員長! 話は聞こえてたよ! 早く助けに行こう!」

「駄目だ。茂木君は俺一人で来いって言ってた。その約束を破ったら、東郷さんに何をするかわからない」

「そんなの、ただの脅しだって!」

「その可能性もある。でも、脅しじゃない可能性もある。一パーセントでも東郷さんの身に危険が及ぶ可能性のあるものは選べない」

「そうだけど……! 絶対に危険だって!」


 確かに加古さんの言う通り、一人で行くのはあまりにも危険だろう。それに、加古さんも俺や東郷さんの事を心配して言ってくれているのもわかる。


 でも……さっき言ったように、東郷さんはもちろん、加古さんが危険に晒される選択肢は選べない。


「ありがとう。気持ちだけもらっておくよ。さて、場所は……送られてきてるな。えっと……山の中の廃工場?」

「それって、ここから離れてない場所にある、昔からある工場?」

「そうみたいだな」


 指定された廃工場とは、ここから走っていける距離にある。俺が物心ついた頃には既に廃れており、今では危ないから立ち入り禁止に指定されている場所だ。


 そして……不良の溜まり場にもなっている。


「それじゃ、行ってくる」

「ま、待って!!」


 俺は加古さんの制止を振り切って、屋上から駆け出した。


 待っててくれ東郷さん――すぐに助けに行くからな!



 ****



■加古視点■


「あぁぁぁどうしようどうしよう……」


 筋肉委員長が走り去っていくのを止める事が出来なかったあたしは、屋上で意味もなくウロウロする事しか出来なかった。


 客観的に見れば、確かに筋肉委員長の言う事の方が正しい。あたしが一緒に行ったところで何の役にも立てないし、東郷さんが更に危ない目に合っちゃうかもしれない。


 でも……でもさぁ! だからってはいそうですかなんて言えないよ! だって大切な友達と、友達の好きな人が危険な目に合ってるんだよ!? スルー出来ると思う!?


「気持ちばかり焦っちゃうよぉ! どうしたら……」


 ピロピロピロ――


「うわぁ!? え、なになに!? なんの音!? って……あたしのスマホ?」


 あまりにも動揺しすぎて、自分のスマホの着信音にビビりまくるという滑稽な事をしてしまったあたしは、急いでスマホを取り出すと、そこには早川 剛三郎――あたしのおじさんにあたる人からの着信が来ていた。


 今は呑気に電話なんてしている場合じゃないのはわかってる。でも、パニックになっているあたしは、すがる思いで電話に出た。


『やっほ~あんずちゃ~ん! 今日ね、仕事が早く終わりそうだから、久しぶりに杏ちゃんの家に行こうと思ってぇ~! 姉さんに電話したんだけど出なかったから、杏ちゃんにかけたんだけどぉ』

「お、おじ……剛三郎おじさぁん……助けて……」

『え、なにどうしたのぉ? もしかして泣いてるのぉ? アタシでよければ話を聞かせて!』

「じ、実は……大変な事が……」


 あたしは筋肉委員長と東郷さんの件を端的に話す。この間にも二人に危険が迫ってるかと思うと、今にも駆け出してしまいそうな思いになった。


『なるほど、事情は分かったわぁ~。全く雄ちゃんってば、無茶ばかりするんだからぁ』

「あ、あたし……どうすればいいかわからなくて……」

『アタシに任せなさい。とりあえずまずは合流するわよぉ。今は学校?』

「うん……」

『りょーかい。すぐにそっちに行くから、校門で待っててちょうだい。それと、心強い味方を連れていくから』

「味方?」

『そうよぉ。とっても強くて頼りになる子よ!』


 味方って誰なんだろう。こんな事に呼ぶくらいだから、剛三郎おじさんが経営してるジムに通ってる強い人? なんにせよ、味方が増えるのはありがたい。


「早く……早く来て……」

「おっまたせ~! さすがにこの歳で全力疾走は疲れるわぁ~……」


 剛三郎おじさんの指示通り、校門の前で待っていると、ゼエゼエと息を切らせた剛三郎おじさんがやって来た。その隣には、屈強な男の人――ではなくて、小柄な女の子が立っていた。


 えっと……この子が味方? 活発そうな子って感じだけど……申し訳ないけど、戦力になるとは思えない。


「とにかく、早く行くわよぉ。道中で詳しい事を話してちょうだい。その後に作戦を練るわよぉ~」

「わ、わかった! えっと、始めまして。加古 杏っていいます! おじさんから味方だって聞いてるんだけど……」

「加古さん? あ、おにぃからお話は聞いてます! 確か司先輩のお友達ですよね! 綾小路 美桜っていいます! 状況は大雑把に剛三郎さんに聞いてます! 早く二人を助けに行きましょう!」


 綾小路って……え、もしかして筋肉委員長の妹さん? いるっていうのは話に聞いていたけど……会うのは初めてだ。まさかこんな形で初めましてになるなんて。


 って、今はそんな呑気に自己紹介をしてる場合じゃない! 早く筋肉委員長と東郷さんの所に行かないと!



――――――――――――――――――――


【あとがき】


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