第41話 茂木、始動

■司視点■


「うぅ……ドキドキする……」


 放課後、私は今日一番のドキドキを感じながら、教室を後にした。


 この後、雄太郎くんと久しぶりに話をするんだけど……もしもヒーローの事がわかったから、これからはヒーローとして接したいとか言われたらどうしよう……それか、勉強に集中したいから、もうずっと関わらないとか言われたら……。


 駄目だ……考えただけで涙が出そう。雄太郎くんを失ったら、私はどうやって生きていけばいいんだろう……。


「はぁ……胃が痛い……」


 キリキリと痛む胃を押さえながら、私は鞄から二通の手紙を取り出す。片方は一週間前に下駄箱に入っていたもので、雄太郎くんからのものだ。これから勉強に集中したいから、しばらく一人にしてほしいって内容だったはず。


 そしてもう一通も雄太郎くんからだ。今日の五時間目にあった体育が終わった後に、机に入っていた。内容は、放課後の約束の場所を、屋上から校舎裏に変えてほしいという内容だった。


 雄太郎くん、どうして二回ともライムじゃなくて手紙だったんだろう? もしかして、私がライムをずっと既読スルーしていたから、手紙にしたのかな。もしそうなら、申し訳ない事をしちゃった……。


「考えていても仕方がない……よね。約束しちゃったんだし……早く行こう」


 このまま逃げる事もできるけど、あんなに真剣な目で頼まれたら、無視するなんて出来ない。一週間も逃げ続けて、毎日ベッドの上で怖くて申し訳なくて泣いてたけど……もう逃げられないって事だよね。雄太郎くんと向き合わなきゃ……。


「すー……はー……よしっ。お待たせ雄太郎くん」


 今にも逃げだしそうな体に鞭を打ちながら人気のない校舎裏へと来ると、そこにいたのは……想定外の人物だった。


「……え? どうしてあなたが……」

「やっほー、司ちゃん。悪いね筋肉委員長様じゃなくて」


 校舎裏にいたのは、雄太郎くんじゃなくて茂木くんだった。しかもいつも一緒にいる男の子どころか、知らない人も合わせて十人程度いる。


 え、えと……これってどういう事? ただでさえ緊張してるのに、予想外の事が起きて混乱しちゃってる。


「雄太郎くんは? 私、雄太郎くんに手紙で呼び出されて来たんだけど……」

「その手紙、本当の差出人は俺」

「え、うそっ……」

「ホントホント。司ちゃんと一緒に遊びたくてさ~。ちょっと付き合ってくれよ」


 私が状況についていけてない間に、いつの間にか男の子達に囲まれてしまい、逃げ場が無くなってしまった。


 ヤダ……一体何をするつもりなの!?


「いたっ! 手を放して!」

「そんな拒絶しなくてもいいじゃないか。あんな筋トレと勉強しか能がないクソ真面目馬鹿よりも、俺達と一緒の方が何倍も楽しいぜ?」

「っ……!!」

「しかも俺に負けてから、随分と必死に勉強ばかりして、君の事をほったらかしじゃないか。そんな男なんて捨てちまえよ」

「何も知らんで、雄太郎くんの悪口ばゆわんで!!」


 自分でも驚くくらいの声量で、茂木くんに怒鳴りつける。


 怒りのせいで、頭の先からつま先まで熱いし、小刻みに震える。目の前がチカチカするし、頭の中はぐちゃぐちゃだ。


 一体この人に雄太郎くんの何がわかるの? 雄太郎くんは……雄太郎くんは……!!


「確かに筋トレばっかりしとーし、勉強も沢山しとー! ばってん、 憧れん人みたいになりとうて、鍛えとーがカッコよかし、勉強だって頑張って何が悪か!? 雄太郎くんは優しゅうて、ぬくうて、うちんために自分が傷つくんだって厭わんくらい、凄か人と!! あんたに何がわかるっていうと!?」

「クッ……クククッ……そんなにブチ切れて、司ちゃんは可愛いね。そんなになっちゃうくらい筋肉ダルマの事が好きなんだね。あんな罠に騙されちゃうくらい」


 騙されるって……一体何の事……?


「おしゃべりはここまでだ。あんまり騒いでると、筋肉ダルマに気づかれる可能性があるからな」

「いやっ! このっ……!」


 複数人に囲まれてしまい、私の身動きは完全に封じられてしまった。


 昔みたいに、体格差に差が無ければ逃げられたかもしれない。でも……私は同年代のこの中ではかなり小柄だし、筋力もつかなかった。だから、こんなに男の子に囲まれちゃうと、もうどうしようもできない。


 でも、だからといって、抵抗しないわけにはいかないのよ!


「たあっ!!」

「っと」

「せいっ!!」

「うおっ」


 何とか拘束から免れようと、小さい体なりにパンチやキックを繰り出したものの、少し驚かせる程度で、どう見てもダメージが入っているようには見えない。


「司ちゃん、オイタはもうおしまいだ。大人しくしろ」

「誰がするもんか!」


 それからもなんとか暴れて逃走を図るけど、結局上手くいかず……私の体はガムテープで拘束されてしまった。


「さあ、一緒に来てもらおうか。俺の復讐のためにな……ククッ」


 これじゃもう逃げられない。一体どこに連れていかれるのだろう。


 でも、きっと雄太郎くんなら助けに来てくれるはず。そうだもん。雄太郎くんにとってのヒーローは私だけど、雄太郎くんは私のヒーローで……王子様なんだから。


「うちゃ信じとーけん。雄太郎くんが来てくるーって事ば」

「ああ来るよ。なにせ俺から呼びだすからね」

「どげなこと!?」

「俺の復讐を果たす為には、やつを呼ばなきゃいけないからね。だからこれ、借りるぜ」

「ウチのスマホ! この……外道!」

「誉め言葉として受け取っておくよ。司ちゃん。さて……筋肉ダルマ。今日でお前は終わりってな……ククッ。さあ、司ちゃんを連れていくぞ」



――――――――――――――――――――


【あとがき】


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