第40話 異性を好きになるという事
美桜の口から淡々と述べられた衝撃の仮説に、俺は思わず大きく口を開けてしまった。
罠だなんて、そんな訳のわからない事をする奴がいるのか!?
「罠って……一体誰が?」
「おにぃの頭の中はお花畑なの? そんなの一人しかいないじゃん」
一人って……もしかして。
「……茂木君か?」
「そう。あの性悪だったら、おにぃ達がすれ違っていたら、我先にと介入してきて悪化させようとするのなんて、目に見えるじゃん」
「なるほどな……」
どうして美桜が茂木君の性格が悪いのを知っているのかは謎だが、茂木君だったらやってきてもおかしくない。日頃から俺をよく思って無さそうだし、転校初日から東郷さんにちょっかいを出そうとしてたし。
「多分だけど、その手紙って茂木が書いたんじゃない? 同じ様な内容を司先輩の所にも書いておけば、司先輩の事だから、おにぃのために距離を置こうって思うはず。互いが互いを想うせいですれ違い、話す事もできずに傷ついていく構図がかんせ~い!」
なんだよそれ、ふざけんなよ。俺達の感情で遊ぶような事をしやがって……もし美桜の仮説が正しいなら、絶対に許せる事じゃない。
「いや~茂木の性格わっる! でもおにぃと司先輩には効果抜群なのがイライラポイント高いですな~」
「くそっ……どうすればいいんだ」
「簡単だよ。司先輩とちゃんと話せばいいんだよ」
「それは……そうかもしれないけど……」
俺だってちゃんと話したい。でも……経緯がどうあれ、東郷さんが俺を避けているのは事実だ。そんな状態で無理に話そうとしたら、本当に嫌われてしまうかもしれない。そう考えると……凄く怖い。
「何情けない顔してんの? おにぃがしっかりしないでどうすんの! こんな事で大好きな司先輩と話せないままでいいわけ!?」
「だ、大好きって……」
「大好きだから、そんなに司先輩の事を考えてるんでしょ!? 大好きだから、すれ違っちゃって苦しいんでしょ!?」
「…………」
美桜は俺の肩をがっしりと両手で掴み、真っ直ぐな目で俺を見つめてくる。それが俺にはあまりにも眩しくて……つい視線をそらしてしまった。
「俺さ……異性を恋愛対象として好きになった事がないから、よくわからないんだ。だから正直に教えてほしい」
「うん」
「東郷さんと一緒にいて楽しくて、不思議とソワソワドキドキするんだ」
「うん」
「笑ってるのを見ると俺まで笑っちゃうくらい嬉しくて、悲しんでると俺まで悲しくなってくる。少し離れてるだけで、東郷さんの事ばかり考えてしまう。これは……俺が東郷さんの事が好きだからなんだろうか?」
「それ以外になにがあるの? むしろ美桜が知りたいくらいなんだけど」
「そうか……俺は、東郷さんの事が……好きなんだな」
前々から感じていた、この気持ちは……東郷さんの事が好きだからなっていたのか。これが……異性を好きになるって感情なのか……。
「おにぃさ、司先輩の気持ちは知ってるでしょ?」
「ああ。旅行の時にお前の言う通りにベランダにいたら、たまたま聞いてしまった感じだけど」
「あれ、ああなるように美桜が仕組んだの」
「は? あれって事故じゃなかったのか?」
「いやいや、あれを事故と思うのは流石にどうかと思うよ。おにぃって超絶鈍感だし、司先輩も恥ずかしがり屋な一面があるから、ああやってうま~くおにぃに気持ちを知ってもらおうと思ったわけ」
そうだったのか。あまりにもタイミングよく二人の会話が聞こえてきたと思っていたけど、そういう事だったのか。
……いや、ちょっと待てよ?
「どうしてそんな事を?」
「妹として、兄の恋を応援するのは当然じゃん?」
当然……なんだろうか? 俺にはよくわからないけど、なんにせよ俺の事を考えてくれてるんだし、素直にありがたく受け取っておこう。
「まあなんにせよ、現状は変な奴の介入があるとはいえ、おにぃと司先輩が互いに考えてる事を話せてないのが問題なんだよ。だから、ちゃんと話すんだよ。そして、ちゃんと司先輩の話を聞いて、受け止めるんだよ。後々後悔しないようにね」
「ああ、わかった。色々とありがとう、美桜」
「この貸しは高級プリンを一ダースで手を打ちましょう」
「ダースかよ!?」
「それくらい貢献したと思うけどな~?」
くそっ、まさかプリンが目的だったなんて言わないだろうな? 美桜の言ってるプリンって、確か一個五百円くらいするよな!? 変なところでしたたかに育ちやがって! おにぃはそんな風に育てた覚えはないぞ!
「いや~プリン楽しみだな~! それじゃ美桜は部屋に帰るよ。プリン忘れないでよ!」
「わ、わかったよ」
「……上手くいくのを祈ってるよ、おにぃ。じゃあね~」
美桜は小さく手を振りながら、そそくさと俺の部屋を後にした。
もしかしたら、俺の知らない所で美桜は色々してくれていたのかもしれない。本当にありがとうな、美桜。あと……頼りなくて情けないおにぃでごめんな。
****
翌日、俺は教室の自分の席に座って東郷さんが登校してくるのを、今か今かと待っていた。
東郷さんが来たら、とりあえずちゃんと話をするための約束を取り付けるつもりだ。やっぱりこういうのは、ゆっくりと静かな所で離さないと、お互いに落ち着いて話せないだろうから。
「…………」
早く、早く来てくれ……そんな事を思いながら待っていると、朝のホームルームの直前に、東郷さんは目立たないように身体を縮こませながら入ってきた。
「……来た」
「っ……!」
俺の視線に気づいたのだろうか。それともたまたま俺を見ただけだろうか。それは定かではないが、東郷さんと視線がぶつかった。すると、東郷さんはすぐに俺から視線を逸らしながら、自分の席に座って顔を伏せた。
やっぱりまだ避けられてる感じだな……そう感じるだけでも、死ぬほどつらいな。俺が東郷さんへの好意を自覚したのもあるのか、以前よりも強く感じる。
昨日自覚した俺がこんなにつらいんだから、少なくとも旅行の時から俺の事を想ってくれている東郷さんは、もっとつらいだろう。早くちゃんと話さないと。
「東郷さん、ちょっといい?」
「ゆ、雄太郎くん……」
東郷さんの席まで移動した俺は、怖がらせないように、ゆっくりと話しかける。久しぶりに間近で見た東郷さんの顔色は良くないし、覇気も感じられなかった。
「あ、その……ごめんなさい、私ちょっと急用が……」
「東郷さん!」
「あっ……!」
逃げるのは想定内だった俺は、東郷さんの手を取って名前を呼ぶ。周りにいるクラスメイトの視線が痛いけど、そんなの気にしていられない。
「東郷さん。今日の放課後、時間を空けておいてくれないか?」
「ご、ごめんなさい……放課後はバイトが……」
嘘だ。今日はバイトがある曜日じゃない。俺から距離を置くために嘘をついているだけだ。
「お願いだ、東郷さん。俺達のこれからのためにも……ゆっくり話がしたいんだ」
「……ヤダ……」
「東郷さん」
「……うぅ……そげん目でお願いされたら……断れんばい……」
「それじゃあ、放課後の屋上に来てくれるか?」
「……わかった」
よし、なんとか約束を取り付ける事が出来た。後は東郷さんが来ると信じて、屋上で待つだけだ――
「ちっ……このままだと、またあいつらが元通りになっちまうか……仕方ない。もっと筋肉ダルマが落ち込んでるを見たかったが……行動に出るか」
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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