第34話 おにぃの事、好きなんですよね?

■司視点■


「ふ~……今日もいろいろあったなぁ……あ、流れ星だ!」


 麻耶と沙耶に絡まれる心配がなくなった日の夜。私はベランダに出てボーっと星を眺めていた。


 ……海の家のお手伝いの後に、雄太郎くんと一緒に沖に行って……たくさんくっついたり、溺れてるところを助けてもらったり……いろいろあった。


 楽しかったよ? 楽しかったけど……溺れた時は怖かったし、それに……今思い出しても顔から火が出るほど恥ずかしかった! だって私……裸で……おっぱい丸出しで雄太郎くんに抱きつかざるを得なかったんだよ!? あぁぁぁ……もう死んじゃいそう……お嫁に行けない……。


「こ、こういう時は別の事を考えよう。うんそうしよう!」


 別の事……別の……雄太郎くんの体にあんなに長い間くっついたのって初めてだったけど……凄く逞しかったなぁ……それに、恥ずかしがりながらも、私の事を第一に考えてくれてたのか、極力見ないようにしてくれてたし、私が痛くないように加減して体を支えてくれてたし……。


 ……ぁぁぁああ! もう! 好きすぎて無理ぃ! 思い出せば思い出すほど顔がにやけちゃうし、恥ずかしかったのも思い出しちゃう! 私、今日絶対に寝れないよ!


「司先輩~! 実は今日、近くの神社で夏祭りをやるんですけど、おにぃも誘っていきませんか!?」

「夏祭り?」

「ですです! 花火もやるので盛り上がるんですよ! 田舎の祭りなので規模はそんなでもないですけど、楽しいですよ~!」


 夏祭りかぁ……うん、ここでこうしてても、恥ずかしかった事を思い出して悶々するだけだろうし、遊びに行った方が良さそうだね。


 それに……雄太郎くんと夏祭りなんて、考えただけでも楽しそうでワクワクしちゃう。


「うん、行ってみたい!」

「やったー! それじゃ、おにぃに連絡しておきますね! あ、そうだ! 百合おばさんにライムで浴衣を準備してって言っておきますね~」

「浴衣なんてあるの?」

「宿のレンタルサービスでやってるんですよ! って返事はや……最高に可愛いのを用意するからちょっと待ってて! ですって!」

「うん、わかった。楽しみだなぁ」

「じゃあそれまでおしゃべりしてましょー!」


 そう言うと、美桜ちゃんは笑顔で私の隣に立った。


 こうして笑ってると、やっぱり中二の女の子らしさが目立つけど、私以上にしっかりしてるし、頭の回転も速い。私が中二の時はこんなに凄くなかったよ。尊敬しちゃう。


「それで、結局海でおにぃとなにがあったんですか?」

「な、何もないよ!」

「いやいや、何もないわけないじゃないですか~。どう見ても海に二人で行く前と行った後で態度が違い過ぎですし!」

「だ、だから何もなかったばい!」

「あ~……動揺が方言として出ちゃう司先輩、可愛すぎますっ!」


 もう、からかうのか抱きつくのかどっちかにしてよ~! 私としては、抱きつかれる方が嬉しいから、そっちにしてほしいところだけど!


「まあなんにせよ、おにぃと楽しい時間を過ごせたようで何よりです! もし付き合えたら、もっと楽しくなりますよ!」

「うん、そうだね。きっと楽しいだろうなぁ」

「……ふふっ、認めましたね? おにぃの事……」

「あっ!!」


 や、やっちゃった……! つい話の流れで普通に答えちゃった……! 今までずっと隠してたのに……! 今日はとことん恥ずかしい事になる日なの!? 厄日すぎるよー!


「まあ知ってましたから、驚きもしませんけど」

「え、知って……た?」

「もしかして隠してたつもりですか? バレバレにもほどがありますよ~。あんな露骨にアピールしてて気づかないのなんて、鈍感筋肉馬鹿のおにぃくらいですよ」


 う、うそ……ちゃんと隠してたつもりだったのにバレバレだったの!? それに美桜ちゃんの口ぶりから察するに、他の人にも……?


 い、今思えば体育の授業で女子だけになった時に、加古さんに最近雄太郎くんとどう? ってよく聞かれてた……あれも気づいてたから聞いてたって事!? それにクラスメイトの皆も、同じ様な事を……いやぁぁぁぁぁ!! もう絶対にお嫁に行けないよぉぉぉぉ!


「まあいいじゃないですか。あの馬鹿ギャル二人みたいに、悪い事をしてるわけじゃないんですから! それで、改めて聞きますけど、おにぃの事……好きなんですよね? 友達じゃなくて、一人の異性として! 恋愛対象として!」

「…………………………………………好き。大好き。世界で一番」


 かなりの間が開いてしまったけど、何とか絞り出すように好きという単語が出てきた。


 はぅ……美桜ちゃんに気持ちを伝えるだけでもこんなに緊張するのに、いざ本番って時にはどうなっちゃうんだろう。考えるだけでも恐ろしいよ。


「告白しないんですか?」

「したいのは山々なんだけど……」


 初恋を拗らせに拗らせてるのもあるけど、過去の私の正体がバレてしまった時の事を考えると……どうしても怖くて告白できない。


 だって、今バレるなら、まだ何とか耐えられるかもだけど、付き合ってからバレて、女の子として見てくれなくなったら……絶対に立ち直れなくなるもん。


 雄太郎くんは優しいから、そんな事はしないって信じてるけど、万が一もあるから……尻込みしちゃう。


「それで、おにぃのどこが好きになったんですか? やっぱり筋肉?」

「あはは……それも一応あるけど、雄太郎くんって優しいから、そこに惹かれたの」

「なるほど~。なんで告白しないのか、謎は深まるばかりですが……美桜は二人の事をめっちゃくちゃ応援してるので! 悩みとかあったらいつでも言ってください!」

「ありがとう美桜ちゃん。頼りにしてるね」


 えへへ、なんだか心強いな。まだこっちに戻って来てから仲良くしてるのって雄太郎くんと美桜ちゃん、あと加古さんくらいだから、尚更嬉しく感じちゃうな。


「よし、ではおにぃに告白する練習をしましょう!」

「え、えぇ!?」

「美桜に続いてください! おにぃの事が……」

「す、好き……」

「聞こえませんよ! もっと大きな声で!」

「す、好き!」

「それじゃおにぃに気持ちは伝わりませんよ! はいもう一度! おにぃの事がぁ……」

「大好きっ!!」

「よーっし! これできっとおにぃに告白する時も大丈夫ですね!」


 え、なんなのこのよくわからない練習? 唐突過ぎて、反論する前に美桜ちゃんの言いなりになっちゃったよ。


 ああ、でも……なんか美桜ちゃんのおかげで、昼間の恥ずかしかった事を少しだけ忘れられたし、心が軽くなった気がする。もしかして美桜ちゃん、これを狙っていたの……? もしそうなら、美桜ちゃん凄すぎるよ!


「美桜~司ちゃ〜ん! 浴衣の準備できたわよ~!」

「わかったー! 司先輩、いきましょ!」

「うんっ」


 私は美桜ちゃんに手を引っ張られながら、部屋を後にした。


 浴衣なんて着るの、生まれて初めての経験だ。雄太郎くん、喜んでくれるかな? 可愛いって言ってくれるかな? もし言ってくれたら嬉しいなぁ……。





「……マジかよ。美桜にベランダにいろってライムが来たからベランダにいたら……とんでもない話を聞いてしまった……東郷さんは……俺の事を……」



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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