第24話 油断から来た失敗

「あ、そこの店員さん。注文お願いできる?」

「は、はい!」


 東郷さんと一緒に食事処に出てくると、さっそく声をかけられた。小さな男の子を連れたお爺さんだ。男の子は孫かな?


 随分と温厚そうな雰囲気のおじいさんだから、最初の接客相手としてはいい感じだ。


「ご、ご注文をお伺いします!」

「かき氷二つをもらえるかね?」


 おっとかき氷か……最初にしては微妙に難易度が高いのが来たな。かき氷にはいくつかのシロップがあるから、どの種類かをしっかり聞かないといけないからね。


「えと、かき氷二つですね! お味の方は……」

「このイチゴというのにしてもらえるかね」

「はい! イチゴ味のかき氷を二つですね! すぐにお持ちしますのでお待ちください!」


 東郷さんは元気よく、そして笑顔でそう言い残して厨房に戻っていく。


 うん、最初の接客だというのに、しっかり出来ていた。味を聞くのは教えてないのに、それもしっかり聞けていたし。


 ……正直、俺の初めてより上手くやってる気がする。ちょっと複雑な気持ちだ。


「雄太郎くん! どうだったかな!?」

「うん、ちゃんと出来てたよ」

「えへへ、やったぁ!」

「一応紙を確認するね……うん、メニューに関しては大丈夫だね。でも席番が抜けちゃってる」

「あっ……! ご、ごめん!」

「ううん、大丈夫だよ。席番は、下の開いてるところに大きく書けばいいからね。美桜、イチゴ二つ頼む」

「おっけ~!」


 この調子なら、俺が近くにいなくても大丈夫そうだな。あと何回か東郷さんの接客や配膳を見守ったら、俺も仕事に入るとしよう。



 ****



■司視点■


「あ、そこのお姉さん! 注文いいか!」

「あ、は~い!」


 お昼時を乗り越え、お客さんもまばらになり始めた頃。注文取りや配膳に慣れてきて余裕が出てきた私は、笑顔でお客さんの所に向かった。


 最初はどうなる事かと思ったけど、案外やれば出来るものだね。それに、なんだか楽しくなってきちゃった。


「焼きそばとラーメン一つずつでーす!」

「おっけ~!」

「こっちはかき氷三つだ。メロンとイチゴとブルーハワイ!」

「おうよ! 速攻で用意するぜ!」


 美桜ちゃんも昭二さんも凄いなぁ……調理のスピードが速すぎて、全然目で追えないくらいだよ。


 それに、雄太郎くんも手際よく接客をしていて、動きに全然無駄がない。毎年お手伝いに来てるのは伊達じゃないって事だね。私も足を引っ張らないように頑張らなきゃ!


 頑張らなきゃなんだけど――どうしよう、接客してる雄太郎くんがかっこよすぎて、気付いたら見つめちゃう! お仕事が無ければ、ずっと座って眺めていたいくらいだよ!


「四番席の焼きそば完成したよ~!」

「あ、いきまーす!」


 私は美桜ちゃんから焼きそばが乗った紙皿を持って食事処に出ていくと、丁度雄太郎くんが同じ席にジュースを運んでいた。


 あ~……やっぱりかっこいい……! あの立派な体に流れる光る汗とか最高過ぎ――


「あっ……!」


 ――気付いた時はもう遅かった。雄太郎くんに見惚れてしまった私が持っていた焼きそばは、するりと私の手から逃げていき、そして地面に落ちた。


「あ、あわわわわ……」


 ど、どど、どうしようどうしよう……落としちゃった……こ、こういう時ってどうすれば……!?


「お客様、大変失礼しました。すぐに新しいものを用意しますので」

「あ~大丈夫ですよぉ~」

「東郷さん、こっちおいで」

「あ、あのその……も、申し訳ございませんでした!!」


 体中から血の気が引いていくのを痛いくらいに感じながら、私は雄太郎くんと一緒に厨房に戻る。


 私ったら何やってるの……お手伝いで来たはずなのに、完全に足を引っ張っちゃった……。


「ん、どうかしたか?」

「司先輩、大丈夫!?」

「手が滑って、焼きそばを落としちゃったみたいで。すぐに新しいのを用意してくれるか?」

「おっけ~! すぐに準備するよ!」

「んじゃ、俺が片付けておくわ!」

「うぅ……美桜ちゃん……昭二さん……ごめんなさい……」


 どうしよう、申し訳なくてみんなの顔が見れない……ここから消えちゃいたい……。


「そうだ。司、もう忙しい時間帯も終わったし、裏でちょっと休憩してきな」

「え……」

「そうだね、今日は初日なのに頑張ってくれてるし、それがいい」


 ……そうだよね。私なんかがいたら迷惑だって事だよね。なら、素直に従っておいた方が、皆の迷惑にならないかな……。


「昭二おじさん、俺も行ってきていいかな?」

「おう、むしろお前も行かせるつもりだったから安心しな。接客は俺がやっておく」

「ありがとう、昭二おじさん。東郷さん、先に裏に行っててくれる?」

「うん……ごめんなさい……」


 小さく謝罪をしてから、重い足取りで裏口から出た私はその場で膝を抱えた。


 なにが雄太郎くんかっこいいだよ……お仕事をしてる時なのに注意が散漫だから、こんなミスをするんだ……。


「はぁ……ひゃう!?」

「はいこれ」

「ゆ、雄太郎くん……これ、ラムネ……?」

「うん。一緒に飲もう」


 雄太郎くんは優しく微笑みながらラムネを私に差し出すと、隣に座ってくれた。


 うぅ……雄太郎くんの優しさが嬉しいけど……今はそれが痛い。


「…………」

「そんなに落ち込む必要は無いよ。さっきも言ったけど、失敗は誰にでもあるから」

「うん……」


 違う。これはただの失敗じゃない……ちょっと慣れてきたからって油断して、雄太郎くんの事を少しでも見ようとしたのが原因だ……私ってば、本当に馬鹿……。


「失敗したらさ、それをしっかり反省して、取り返せばいいんだよ」

「え……?」

「東郷さんは真面目だから、自分のせいで店や客に迷惑をかけたって思ってるんだよね?」

「うん……」

「さっきの客にはちゃんと謝ったんだし、許してくれたんだしさ。俺達も全然気にしてない。これを糧にして、次に活かせばいいんだよ。俺もそうやって慣れていったからね」

「雄太郎、くん……」


 雄太郎くんは優しい声色で慰めながら、私の頭を撫でてくれた。それが嬉しくて……気がついたら、私は雄太郎くんの逞しい体に抱きついていた。


「と、東郷さん?」

「ありがとう……」

「……どういたしまして」


 こんな急に抱きついたのに、雄太郎くんは一切怒らずに受け入れてくれたうえに、頭を撫で続けてくれた。


 あーもう……本当に好き……心も体も満たされる……って!!


「……っ!! ご、ごめん! 励ましてもらえたとが嬉しゅうて、つい……!」

「ううん、大丈夫だよ。少しは元気出た?」

「うん、元気出た。次は気をつける!」

「ああ、その意気だ。それじゃ戻ろうか」


 そうだよね、いつまでも落ち込んでなんかいられない。お手伝いをすると決めた以上、しっかりお店に貢献しないといけないよね。


 ……うん! 落ち込むのはもうおしまい! 残りの時間も頑張ろう!


「おう、戻ったか! 司、いけそうか?」

「はい! ご迷惑とご心配をおかけしてごめんなさい!」

「なーに気にすんな! あと三十分程度経ったら今日は上がりでいいから、それまでよろしく頼むぜ!」

「はいっ!」


 昭二さんに送られて、再び食事処に出ると、丁度店員を呼ぼうとしているお客さんがいるのが目に入った。


 よし、この接客でさっきの失敗を取り戻そう! 頑張れ、私!


「いらっしゃいませ、ご注……文を……」

「あれ、もしかして司? うっそーなんでこんな所にいるわけ? ウケルー!」


 意気揚々と接客に向かった私だったが、そこにいたお客さんを見て、思わず固まってしまった。


 だってそこにいたのは……私をいじめていた、親戚の家の姉妹がいたのだから。



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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