第25話 東郷さんをいじめていたギャル

「え、司? うわっ本当だ司じゃん! こんな所で出会うとは思ってなかったわ~!」

「……ん?」


 ちゃんと東郷さんが立ち直れたかを確かめるためにこっそり見守っていたんだが、どうにもちょっと様子が変だ。聞いてる感じ、あのギャル二人組と知り合いか?


 片方は金に染まった髪をツインテールにしており、小麦色に肌が焼けている。もう一人は銀色のショートボブヘアで色白だ。どちらも化粧が濃いし、あまり品があるようには見えない。


「あ、その……ひ、久しぶり。摩耶まや沙耶さや

「ホントに久しぶりだわ~別の家に引き取られて以来だから、もう五年以上? ウケる~!」

「なんか昔に比べてちょっと明るくなってね? もっと髪も肌もボロボロだったのに! 似合わね~! ギャハハハハ!!」

「……なんだあいつら」


 ……どう聞いても良い内容じゃないな。東郷さんも怯えるように身体を縮こませているし、普通じゃない。


「昭二おじさん、ちょっと俺行ってくる。なんか東郷さんの様子が変なんだ」

「どうもそんな感じがすんな。接客は俺に任せとけ」

「ありがとう。度々迷惑かけてごめん」

「気にすんな! さっさと行ってきやがれ!」


 近くに行って分かった事なんだが、東郷さんは小刻みに震え、顔も青ざめさせていた。


 やっぱり普通じゃない……一体彼女達に何をされたんだ?


「東郷さん、大丈夫?」

「雄太郎、くん……」

「うわっ、なんだこのマッチョ!? ボディビルダーかよ! ウケる~!」

「もしかして司の彼氏? ギャハハハ! こんな女を選ぶとかセンスねーわー!」

「…………」


 ああ、こういうのを生理的に無理って言うんだろうな。初対面なのに、一瞬本気で殴りたくなってしまったぞ。こんな事をヒーローの彼に知られたら怒られてしまうな。反省。


「東郷さん、この人達と知り合いなの?」

「……私が最初に預けられた……親戚の娘」

「親戚の……!?」


 東郷さんの親戚って、確か前に聞いたな……もしかして、東郷さんをいじめていた家の人間か!? もしそうだとしたら、東郷さんがこんなに怯えるのも、彼女達が東郷さんを馬鹿にするような発言も納得がいく。


 まさかこんな所で会っちゃうなんて……どんだけ運が悪いんだ?


 ……いや、運がどうとか嘆いている場合じゃないか。とにかく友達として、東郷さんを守らないと。


「ども~朝倉 摩耶で~す! 華の大学二年生で~す! 昔は司のお世話をしてました〜!」

「妹の沙耶っていいま~す! 高三! 麗しのJKってやつ? ギャハハハ!」

「綾小路 雄太郎です。東郷さんとは仲良くさせてもらってます」

「挨拶堅苦しすぎてウケる~! おっさんかよ! おっさん筋肉君じゃん!」

「摩耶ってばセンス安直すぎ! でもそれギャグセン高くていいわ~ギャハッ!」


 なんだこいつら。人を不快にさせる天才か? 今まで俺もいじめられてきたから、こういう馬鹿にした言葉は嫌というほど聞かされて育ったが、ここまで腹が立ったのは初めてだ。


「ていうかさ~アタシ達腹減ってんだけど? 注文も受けてくれないわけ? クソすぎてウケる! SNSで拡散安定的な?」

「これは失礼しました。彼女に変わって自分がお受けいたします」

「お? 司を守りだしたぞー! 良い所を見せてアピールかー? ギャハハハ!!」

「ご注文は?」

「えっとぉ~お兄さんが欲しいな?」


 金髪の方……えっと、摩耶さんだっけ? 嫌いすぎて名前を覚えるのも苦行なくらいだが……まあいいや。金髪の方が俺の腹をツンツンしながら、誘惑するように豊満な谷間を見せつけてきた。


 ……ウザすぎてそろそろ我慢の限界かもしれない。これ以上何かされたら、怒鳴るか殴ってしまいそうだ。


「おい嬢ちゃん達、俺の大切な従業員をからかうのはその辺にしときな」

「はぁ? なんだよ誰だし……!? なんだよこのおっさん!? 完全にヤベー人間じゃん!? 沙耶、こんなとこ早く出よう!」

「そ、そうだね摩耶! これはシャレになんねーわ!」


 昭二おじさんが話しかけると、ギャル二人組は逃げるように店を去っていった。


 まあ……今のだけは彼女達が逃げるのもわからなくはない。スキンヘッドにサングラスとか、完全にそっち系の人だもんな……実際の昭二おじさんは、酒も煙草もやらないし、百合おばさん一筋だし、悪い事なんか一切しない。カレーも甘口しか食べれないくらいのお子様舌だし。


「ったく、毎年ああいう迷惑な客がいるんだよな」

「確かに。東郷さん、もう心配ないよ」

「うん。ありがとう、雄太郎くん、昭二さん」

「それで……彼女達は、前に言ってた……酷い事をしていたっていう?」


 ゆっくりと、東郷さんを傷つけないように慎重に聞くと、彼女は小さく頷きながら、俺のシャツの裾を握った。


 やっぱりあいつらが……両親を亡くして傷ついてる東郷さんをいじめていたのか……くそっ、許せない。怒りではらわたが煮えくり返りそうだ!


 ……落ち着け俺。ここで怒っても何も解決しない。とにかく冷静に、東郷さんが良い方向に行けるような事を考えよう。


「事情は知らんが、とにかく災難だったな。そうだ、ちと早いけど、パッと遊んで忘れてこい!」

「え、でも……」

「気にすんな気にすんな! あくまでお前らは手伝いだからな! 昼過ぎになったら、毎年追い出してんのよ!」

「昭二さん、言い方少し考えろって……それじゃ、俺達は先に上がるよ」

「おう! お疲れさん! 明日もよろしくな!」


 昭二さんに見送られながら厨房にきた俺達は、洗い物をしている美桜に声をかけた。


「美桜、上がっていいってさ」

「は~い! なんか騒がしかったけど、問題発生?」

「実は……あ、美桜に話しても大丈夫かな?」

「大丈夫」

「わかった」


 さっきのギャル姉妹の事や、東郷さんとの関係性、そして東郷さんがどんな仕打ちを受けていたかの説明をすると、美桜はこめかみをピクピクさせながら、怒りをあらわにしていた。


「う~わなにそのクソ連中。おにぃ、ちょっと美桜そいつらぶん殴りたいから、手分けして探そう」

「物騒な事を言うな。とりあえずパーッと遊んで忘れよう」

「うーん……それもそうだね! それじゃおにぃは先にビーチに行ってて! 美桜は司先輩と行くから!」

「一緒に行けばいいんじゃないか?」

「ちょっと司先輩に準備がいるからダ~メ!」


 なんかよくわからないが、二人は小さなバッグを持って、近くの更衣室へと消えていった。


 ここに来る前に水着を下に着込んでると思ったんだけど、実は着てなかったのか? まあいいや。とりあえず場所取りをして待ってるか。


「えーっと、この辺でいいか」


 適当に場所を確保した俺は、海の家から借りてきた大きめのシートを敷き、パラソルを立てる。これで準備はバッチリだ。


 さて、また手持ち無沙汰になってしまったな。腹筋や腕立てなら場所を取らずに鍛えられるんだが……いかんせん砂が熱くてなぁ……下手したら火傷してしまう。


「よし、それならスクワットをしていよう。1、2、3……」

「しなくて良いから! も〜おにぃは暇さえあればすぐに筋トレするんだから!」

「ああ、悪い……」


 美桜の声に反応して振り返ると、そこにはワンピースタイプの水着を着る美桜と……。


 ……天使のように美しい少女が立っていた。



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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