第21話 嫌がらせ男にオシオキを

■司視点■


「美桜ちゃん、この水着とかめっちゃ似合うんじゃないか?」

「え~ほとんど紐じゃないですか~! 茂木先輩! のえっち!」

「いやいや、絶対に似合うから! ほらほら、試着だけでも……」


 美桜ちゃんが一体何を考えているかはわからないまま、茂木くんと一緒に水着を見る羽目になってしまった私は、大きく溜息をもらした。


 本当にこの人は女の子を何だと思っているんだろう。さっきから提案する水着、露出度が凄く高いものばかりじゃない。買わせる目的じゃなくて、その場で試着させて楽しむのが目的としか思えない。


 ……あと、これは気のせいかもしれないけど、さっきから美桜ちゃんが茂木くんの名前を呼ぶのを凄く強調している気がする。


「沢山あって迷っちゃうな~」

「そういう時は、全部着てみればいいのさ!」

「それじゃ時間がいくらあっても足りないですよ~!」

「まあまあ、とりあえず試しに一着さ」

「しょうがないですねぇ……茂木先輩!! 絶対に更衣室の前!! にいてくださいね!」

「あはは、そんな主張しなくても、ちゃんと俺はここにいるって」


 凄く強調するように言ってから、美桜ちゃんは水着を一着持って更衣室の中に入っていった。


 美桜ちゃん、大丈夫かな……持ってた水着、かなり際どい感じだったけど……。


「そんなつまらなそうな顔しないでよ司ちゃん。次は君の相手をするからさ」

「結構よ」

「そんな冷たい事を言わないでさ。そういえば、あの筋肉ダルマはどうしたんだ?」

「今日は一緒じゃないの」

「ははっ、妥当な判断だね。知ってる? あいつ、昔は超がつく程弱くて泣き虫だって事」

「…………」


 知ってるよ。雄太郎くんはいつも弱い者いじめをされていた。ガキ大将達にバカにされた事や、物を取られたりした事、理不尽な暴力を受けていた事も。


「それがいつの間にか筋トレに目覚めて、今や筋肉ダルマになった。噂じゃ、いじめっ子達に復讐するために鍛えてるって話だ。勉強もしてトップを維持してるのも、自己顕示欲のためとか言われてるしな。俺が顔も勉強もトップだと思ってたのに、ふざけた理由で俺を引き摺り下ろした、忌々しい奴なんだよ」

「それ、本人が言ってたの?」

「いや、噂で聞いただけだ」


 噂って……そんな曖昧なもので酷い事を言ったの? 雄太郎くんは……憧れのヒーローみたいになりたくて頑張ってるだけなのに、どうしてそんな酷い事を言われなければいけないの?


 ……本当に、何なのこの人。一緒の空気を吸ってると思うだけで反吐が出るくらい嫌だ。それに、大好きな雄太郎くんの事をこんなに悪く言われて、黙ってるなんて出来ない。


「ちゃんと雄太郎くんの事を知りもしないで、勝手な事を言わないで」

「じゃあ司ちゃんはわかるのかよ? 転校してきて日が浅いのに」

「ええ。少なくとも、雄太郎くんを知ろうともしないで、勝手な事を言う茂木くんよりは知ってるよ。そもそも、なんで茂木くんはそんなに雄太郎くんを目の敵にするの? 勉強で勝てないから? それとも声をかけた私に冷たくされたうえに、雄太郎くんと仲良くしてるから?」

「っ……! んなわけねーだろ! 俺が本気出せば、あんな奴……余裕で勝てる! テストだって高校に入ってあいつと会うまでは負けなしだし、女にもモテるし!」


 あ、これは図星だね。なんて小さい男だろう……そんな子供みたいな事を言ってないで、少しでも勉強したり、性格を改善して私に振り向いてもらえるように努力するべきだと思うな。


 まあ……雄太郎くんは絶対に負けないだろうと信じているし、茂木くんがいくら自分を磨いたところで、私の心は幼い頃に全て雄太郎くんに奪われちゃってるから、なんの意味もないけどね。


「……あんた、なにしてんの?」

「あっ? なにしてるって、そんなの二人に水着を――あっ」

「人が試着してるの間に勝手にどっか行って、他の女の水着探しなんて、良いご身分ねぇ?」


 茂木くんと言い争いをしていると、モデルみたいに綺麗な金髪の女の人が話しかけてきた。


 この口ぶりからして、さっき言ってた付き添いの相手かな? 女の人を放っておいて私達に声をかけてきたなんて……本当に最低だわ。


「顔がいいからって騙されてたわ。サイッテー。二度と連絡してくんなこのクズ!」


 ――バチンッ!!


「いってえ!! あっ……おい待て!」


 金髪の女性は、茂木くんのほっぺにビンタをおみまいすると、怒ってその場を後にしてしまった。


 まあこれはしょうがないよね……自分を放っておかれて、見つけたと思ったら他の女の子と一緒にいたら、誰だって怒るよ。


「くそっ……全部お前のせいだぞ! 筋肉ダルマもお前も、どうして俺をそうもイライラさせるんだ!」

「え、ちょっと待ってよ。話しかけてきたのはそっちじゃない!」

「うるさいっ! 俺は悪くない!」

「うっわ~……女の人を置いて近づいてきたうえに人のせいなんて、サイッテ~」


 今にも飛び掛かって来そうなくらい逆切れする茂木くんの事を貶す声のした方を見ると、そこには私服で更衣室から出てきた美桜ちゃんの姿があった。


「さっき人の言う通り、クズってこういう奴を言うんですね! ああ気持ち悪い! いきましょっ!」

「ま、待てっ! 俺をバカにして、タダで済むと思ってるのか!」


 私の手を引いてその場を去ろうとする美桜ちゃんに向かって茂木くんが近づいてくる。そう思ったのも束の間――美桜ちゃんは茂木くんの懐に潜り込むと、その場で茂木くんを転ばせた。


 え、今何をしたの……? 一瞬の出来事すぎて全然わからなかった……。


「美桜、柔道を習ってるので、先輩程度には負けないです♪」

「なっ……この小娘が……!」

「……あんまり調子に乗らないでください。美桜、おにぃと司先輩に幸せになってほしいんです。それを邪魔したり害を与えるようなら、容赦はしませんよ?」

「おにぃ……? そういえば筋肉ダルマには妹がいると聞いた事が……言われてみれば面影が……くそっ、兄妹揃って俺をバカにしやがって……!!」

「いつおにぃや美桜がバカにしましたか? 先輩が勝手にしてきた事でしょ? 別に先輩が絡んでこなかったらそれで終わりなんですよ。わかったら、さっさと消えてください」

「くそっ……お前ら絶対に後悔させてやる!」


 ビンタされて赤くなった頬をさすりながら、茂木くんは逃げるようにその場を去っていった。


 せっかくの美桜ちゃんとのお出かけだったのに、変な邪魔が入ったせいで時間を無駄にしちゃったな……。


「いや~やっぱり女の人と来てましたね! 女の人の水着売り場に来てたくらいだし、きっとそうだろうなって予想はしてましたが! 作戦大成功!」

「美桜ちゃん、もしかして……茂木くんが私達といる所を、あの女の人に見せるために?」

「ピンポンピンポーン! 実はさっきは知らないフリをしましたが、あの人の事は少し知ってたんです。顔は良いけど悪い噂がある先輩だって。だから、お仕置きをするためにハニートラップを仕掛けた次第です!」


 なるほど、ちょっとやり方はあれかもしれないけど、確かに効果的……なのかな? これに懲りて、茂木くんも少しは真面目になってくれればいいんだけど。


「さてと、水着も無事に買えたし、気を取り直してスイーツでも食べに行きましょう!」

「あ、いいね! 行きたい!」

「ではでは美桜オススメのスペシャルパフェがあるお店に行きましょう!」


 スペシャルパフェ!? なにその魅力的な響きは!? そんなの絶対に食べたいに決まってるよ!


 あ、でも……。


「パフェなんて食べて、お腹大丈夫かな……水着着るのに……」

「大丈夫大丈夫! 仮に駄目だったら、おにぃと一緒に運動する口実も作れますし!」

「た、確かに! よーし、それじゃ食べまくっちゃうぞ~!」

「ちょ、司先輩!? わざと太るのはどうかと思いますよ!? って、引っ張らないでくださいー! パフェは逃げませんからー!」



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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