第20話 いざ水着を求めて!

■司視点■


「戦場に到着! いざ、最高の水着探しへ!」

「美桜ちゃん、周りに人がいるんだから静かにね」

「あ、すみませんついテンションが上がっちゃって。えへへ」


 夏休みに入って間もなく、私は美桜ちゃんと一緒に電車で三十分ほど揺られ、少し栄えた街にあるデパートへとやってきた。


 ここにやって来た理由はもちろん、旅行のための水着の購入のため。それ以外にも、旅行に必要そうなものを買い揃えようと思ってる。


 資金はどうしたのかって? 実は……誘われた日に興奮してお義父さんとお義母さんに旅行に行くの! って伝えたら、これで準備しなさいって沢山仕送りしてくれたの。


 今思うと、お金を催促したみたいで、少し自己嫌悪に陥ってる。もう少ししたらバイトの初任給が出るから、その時にお返ししなきゃだね。勿論雄太郎くんと美桜ちゃんにもね!


「それじゃ早速水着を見に行きましょう! 確か三階だったはずです!」

「美桜ちゃん、楽しそうだね」

「そりゃ楽しいですよ~! 司先輩とお出かけってだけで、テンションマックスです!」


 美桜ちゃん、嬉しい事を言ってくれるなぁ。ずっといじめられて一人ぼっちだった影響で、お友達とお出かけなんて経験ないから、私も凄く楽しみだったんだよね。


「お、ここですここです! さあ司先輩、おにぃをメロメロにする最高の逸品を探しましょう! あ、これとかどうですか?」


 水着売り場について早々、美桜ちゃんは一着の水着を取り出した。それは布面積が極端に小さいビキニだった。


「ふぁっ!? いっちょん布が無か!? こ、こげん恥ずかしか水着なんて着れんばい!」

「……えっと?」

「あっ……」


 し、しまった。あまりも刺激の強い水着を見たせいで恥ずかしくなっちゃって、方言が出ちゃった……! 雄太郎くんの前でしか見せてなかったのに……!


「今のもしかして博多弁ですか!? テレビで見た事あるんですけど……生で聞くとすっごく可愛い~!」

「え……? ば、馬鹿にしないの?」

「なんで馬鹿にするんですか?」

「だって、方言なんてダサいとか、田舎くさいとか……今まで散々酷い事を言われたから……」

「なにそれ酷くないですか!? ちょっとそいつらの住所教えてください。おにぃと一緒にぶん殴りに行きますから」


 一瞬にして表情が無くなった美桜ちゃんは、このまま住所を教えたら、本当に殴り込みに行きそうな迫力があった。


 えへへ、方言が可愛いなんて言われたの初めて……あ、違う。小さい頃に雄太郎くんも可愛いしカッコイイって言ってくれたっけ。


 多分本人は覚えてないだろうけど、私には嬉しかったなぁ。そういう優しいところも、好きになった理由の一つなんだ。


「私は大丈夫だから! その……ね。たまに方言が出ちゃうんだ。これ、お父さんの影響で染み付いちゃって、いまだに抜けないんだ」

「そうなんですね。可愛いからずっとそれでいてほしいくらいですよ~」

「ありがとね、美桜ちゃん。そう言ってくれるだけで嬉しいよ。さあ、水着探そっ」


 私は美桜ちゃんの手を取ると、水着売り場の奥へと進んでいく。


 こういう優しい所は兄妹よく似てるなぁ。お母様も凄く良い人だし、きっとそれに似たんだろうね。



 ****



「美桜ちゃん、着てみたよ」

「わぁ~! 凄く可愛い! それにしましょうよ!」

「えへへ、そうしようかな」


 水着売り場に来てから一時間ほど経過した。美桜ちゃんの水着は割とすんなりと決まり、私の水着を選んでたらこんなに時間が過ぎちゃった。


 ちょっと攻めすぎな気もするけど、お値段も手が出せる範囲だし、とっても可愛い。これなら雄太郎くんも可愛いって言ってくれるかな……言ってくれたら嬉しいな。


「お待たせ。それじゃ会計して、他の物も買いに行こう」

「あれ、司ちゃんじゃ~ん! こんな所で会うなんて運命を感じちゃうな!」


 元の服に着替えて試着室を出た私の耳に、聞きたくもない男の人の声が聞こえてきた。


 この声……どうしてこんなところに。


「茂木くん……どうしてここに?」

「付き添いでちょっとね。って、そんな事どうでもいいって。折角会ったのも何かの縁だし、水着を買いに来たんでしょ? 俺が選んでやっから!」

「結構だから。そもそももう選んだし」

「司先輩、知り合いですか?」

「クラスメイト……転校してきた時から絡んでくるの……正直迷惑してる」


 美桜ちゃんにこっそり耳打ちしてると、茂木くんは気持ちの悪い笑みを浮かべながら、美桜ちゃんを品定めするようにジロジロ見始めた。


 この人、顔は凄く良いのに……本当に気持ち悪い。初対面の時から印象悪かったけど、こういうのを生理的に無理って言うのかな。


「はじめましてカワイ子ちゃん! 俺茂木っていうんだけど!」

「ふ~ん……えへへ、美桜っていいます! 先輩かっこいいですねぇ~……こんなかっこいい人に水着を選んでもらえるなんて、嬉しいな!」

「え、美桜ちゃん?」


 てっきり一緒に追い払ってくれるかなと思っていたのに、美桜ちゃんは少し甘ったるい感じの声を出しながら、茂木くんに上目遣いを向ける。


 美桜ちゃん、一体何を考えているの? もしかして、変な勘違いをして私が茂木くんに気があるとか思っちゃってたりしないよね!?


「大丈夫。わかってますから。美桜に任せてください……」

「美桜ちゃん……?」

「茂木先輩、よかったら美桜の水着を選んでくれませんかぁ? 一着買ったはいいんですけどぉ……男の人の意見も欲しくって!」

「もちろん! 俺が最高に可愛いのを選んでやるぜ。試着も当然するよな?」

「試着かぁ~……ちょっとだけ、ですよ? それじゃ、あっちに先輩が好きそうな水着があるんで、そこで選んでください!」


 私が止める暇もなく、美桜ちゃんは嫌らしく笑う茂木くんについていってしまった。


 美桜ちゃんの事だから、変な事を考えてるとは思わないけど……やっぱり心配だ。茂木くんと一緒にいるのは嫌だけど、美桜ちゃんを守るために、ここはグッと我慢しよう。





「ふふっ……馬鹿な男。おにぃと司先輩の邪魔する奴には……お仕置きってね♪」



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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