第16話 東郷さんを看病しよう
■司視点■
「はぁ……はぁ……」
体が熱い。呼吸も苦しい。なんだかボーっとする。それに、なにか硬くて暖かいものに寄り添ってる感じがする。
あれ……おかしいなぁ……私はジムで剛三郎さんから色々教えてもらってて……それで……そうだ、事務所で小休憩を取っておいでって言われて……駄目だ、そこから先を覚えてない……。
あぁ……頭がグルグルする……私、今どんな状態になってるんだろう……。
「東郷さん、もう少しだからな。もう少し頑張れ!」
雄太郎くんの声が聞こえる。なんでそんなに慌ててるの? もう少しって何の事? それに……これって、私……雄太郎くんにおんぶされてる……?
よくわからない……わからないけど……凄く安心する……離れたくないよ……。
「東郷さん? うん、そうやって強く捕まっててくれるとありがたいよ」
そうだよね。雄太郎くんには私の気持ちはわからないもんね。彼にとっては、ただ病人を運んでるだけかもしれない。
だけどね? 私にとっては、幼い頃に奪われた、雄太郎くんとの時間を過ごすチャンス。なのに……また意識が朦朧と……。
「そこを真っ直ぐ行った所にあるアパートだよね」
「うん……」
「わかった。任せてくれ」
ああもう、優しいなぁ……頼りがいもあるし……これ以上雄太郎くんの事を好きにさせてどうするの……? もう、大好きぃ……。
****
東郷さんの家に向かって出発してから十分もかからずに、俺達は公民館の近くにある、ボロボロのアパートへとやってきた。
えーっと、ポストを見た感じだと……部屋は二階か。
「とりあえず着いたな。東郷さん、着いたよ」
「ふぅ……ふぅ……」
よほどつらいのか、東郷さんは息を乱したままだ。意識も朦朧としているみたいで、反応が薄い。
このままここで油を売っていても仕方が無いし……やるしかないか。
「東郷さん、家の鍵って持ってる?」
「……バッグ……」
「バッグか、中見るけど良い?」
「………」
言葉は無かったけど、小さく頷いて肯定の意を示してくれた。
それじゃ失礼して……これがカギか。変身ヒーローもののキーホルダーがついてるな……あれ、結構古いシリーズだぞこれ。俺達が子供の頃にやってたシリーズだ。しかも、彼が好きだったヒーローだ……そんなキーホルダーを使ってるなんて、なんか運命的なものを感じちゃうな。
「玄関開けるよ」
「…………」
やはり反応がない。きっと俺を信頼してくれているんだと思うことで、勝手に開けてしまう罪悪感を消しながら、何とか鍵を開ける。
部屋の中は、小さな台所とワンルームがあるだけの小さな部屋だ。必要最低限の家具があるくらいで、それ以外だと大きな本棚があるくらいか。
前に本は好きって言ってたから、それの収納スペースでかなり場所を取っちゃってる印象だな。
「東郷さん、ゆっくりベッドに降ろすよ」
「うん……」
「とりあえず熱を測ろうか。体温計ってある?」
「棚の……一番上……」
棚の一番上の引き出しって事だろうか? とりあえず開けてみよう……あ、あったあった。
「はぁ……はぁ……」
体温計を持って東郷さんの所に戻ると、東郷さんの赤みを帯びた顔が目に飛び込んできた。それは……なんていうか、色っぽいと言うか……ちょっとドキッとしてしまった。
「今はそんな事を考えてる場合じゃないな。東郷さん、脇に入れて」
「…………」
体温計を手渡したつもりなんだが、東郷さんは腕を少しずらして脇を開けるだけで、それ以上動けずにいた。
……仕方ない、俺が入れてあげよう。
「体温計入れるから、ちょっと体触るよ」
「ひゃん……」
少しだけビクッとしていたが、なんとか体温計を脇に入れる事が出来た。それから間もなく、ピピッと音が鳴り響いた。
「取るよ。うーん……三十八度五分か……結構高いな」
「…………」
さて、ここまで運んできたのは良いが、想像以上に熱が高い。冷えピタとか欲しいし、栄養がつくものを食べたせてあげたい。
そうなると、必然的に買い物に行かないといけなくなるんだが……この状態の東郷さんを放っておくわけにもいかないし……そうだ!
「出てくれるか……あっもしもし、美桜か?」
『もしもし~おにぃ、どうかしたの?』
「悪い、今日はいつもより帰るのが遅くなりそうだ。だから俺の晩飯は用意しなくて大丈夫って母さんに伝えといてくれ」
『あ、うんわかった。でも急にどうしたの? あ、わかった! 司先輩とデートだ!』
デートか……別に俺と東郷さんはそんな関係じゃないんだから、そんな事は起こらないな。
でもデートか……東郷さんとデート出来たら楽しそうだな。ランチしたりカラオケに行ったり遊園地に行ったり……って、今はそんな話じゃなくてだな!
「違うよ。東郷さんの調子が悪いから、家で看病をしてるんだ」
『え、司先輩が!? なんで!?』
「疲れが出たみたいだ。少し休めば大丈夫だと思うよ」
『そっか……引っ越してきたばかりだもんね。わかった、お見舞いと差し入れをもってそっち行くよ!』
お、さすが我が自慢の妹だ。俺の意図をすぐに察してくれた。
「丁度それを頼もうと思ってたんだ。東郷さんを置いて離れるの、ちょっと不安でさ。お願いできるか?」
『まっかせて~! 買い物してからそっち行くね! って……住んでるところの住所知らなかった……場所教えて~』
「わかった。ライムで送るよ」
一旦通話を切った俺は、ライムで東郷さんの家の住所と欲しい物を送ると、『公民館の近くだよね! おっけー!』という返事が返ってきた。
さて、買い物をしてから来るという事だったから、しばらくは来ないだろう。それまでは、俺のタオルで頭を冷やして熱が上がらないようにしよう。
「雄太郎くん……体がベタベタして気持ち悪か……」
「結構熱があるから、汗をかいたのかもな。しかも事務スタッフのジャージのままだし」
熱で意識が朦朧としているのか、方言で俺に訴えかけてくる。
さっき体温を測った時、身体がベタベタしてるなとは思った。顔もまだ赤いし、熱は上がり続けてるのかもしれない。
「わかった、タオルを持ってくるから、場所教えて」
「クローゼットの……下……パジャマと下着も……」
「わかった」
クローゼットの下っと……なんかクリアボックスが積まれてるな。ここかな? お、あったあった。薄ピンク色の可愛らしいパジャマだ。
あとは……下着か。これは触ってはいけないのはわかってるが……あのまま放っておくのも……仕方ない、今まで生きてきた中で最速のスピードで回収後、東郷さんに渡そう。
「これで大丈夫?」
「うん……」
よし、なんとか最小限の動きと時間で下着を確保して渡す事が出来た。とはいっても、水色の下着が目に入ってしまったが……ごめん東郷さん……。
「それじゃ、俺は一旦外に出てるから。着替え終わったらスマホで呼んでね」
俺はタオルと着替えを枕元に置いてから部屋を出ようとしたが、東郷さんに服の裾を掴まれてしまった。
「やだ……行かんで……一人にしぇんで……一人はもうやだ……」
「東郷さん……」
一人って……何の事だろう。俺の知らない過去に、一人になってしまって寂しかった経験でもあるのだろうか?
俺にはわからないけど……こんなに切実に言われたら、置いていくなんて出来ないし、東郷さんを守ってあげたいって気持ちが凄い高まった。
「……わかったよ。それじゃ後ろ向いてるから」
「ううん……うちん服ば脱がしぇて、体ば拭いて欲しか……」
…………え?
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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