第13話 やっぱり私は彼が大好き

■司視点■


「あぁぁぁぁ! やっちゃったやっちゃった……! 私の大馬鹿っ……!」


 家に帰ってきた私は、さっき雄太郎くんにしてしまった事への恥ずかしさに耐えきれず、着替えもせずにベッドに倒れてジタバタし始めてしまった。


 再会した時から、雄太郎くんのムキムキボディを触ってみたくて……実際に触らせてもらったら、もう好きって気持ちや離れたくないって気持ちが抑えきれなくて……!


「だからって、触るどころか抱きつくなんてありえない! しかも思いっきり方言丸出しだったし……恥ずかしすぎて、明日どんな顔をして会えばいいかわからないよ!」


 と、とにかくベタベタ触っちゃってごめんってちゃんと謝ろう。あと、逃げちゃった事も。きっと誠意を示せば、雄太郎くんは許してくれるはず。


「それにしても……かっこよかったな……ああもう、雄太郎くん好きぃ……」


 この溢れ出る好きって気持ちを伝える相手がいない私は、ベッドに置いてある抱き枕を強く抱きしめた。


 って、こんな事をしている場合じゃない。雄太郎くんに謝らないと。ついでに明日のお弁当のおかずで何か希望があるか聞こう。もしなければ、また筋肉に良い料理を作ってあげよう!


「そうと決まれば、ライムで聞かないと」


 私は慣れた手つきでスマホを操作し、手早く文字を入力していく。


『雄太郎くん、さっきはベタベタ触っちゃって、本当にごめんなさい。嫌だったよね……それに、せっかく送ってくれたのに逃げちゃってごめんなさい。恥ずかしくて、耐えられなくなっちゃったの。本当にごめんなさい。お詫びと言ってはなんだけど、明日のお弁当のおかずは雄太郎くんの好きなものを何でも作るよ。何が食べたい?』

「なんか長くなっちゃったな……とりあえず送信っ……!」


 あ~……ライムの返事が来るのに、こんなにソワソワするの初めてだよ……早く、早く返事来て……。


「来たっ! って……メッセージじゃない……ライム通話!?」


 も、もしかして……メッセージじゃなくて、言葉にしないと気が済まないくらい傷つけちゃった……? も、もしそうならどうしよう……雄太郎くんに嫌われたら、私生きていけないかも……。


「も、もしもし……」

『もしもし、雄太郎です』

「つ、司です。その……さっきは……」

『無事に家に着いた? 夜道を一人で帰しちゃったから心配で。丁度連絡をしようと思っていたんだ』

「あ……うん。何事もなく帰ってこれたよ」

『よかった、安心したよ。メッセージ見たけど、俺は全然怒ってないし、嫌な気分になってないから大丈夫。なんならいつでも触って大丈夫だよ』

「雄太郎くん……」

『だから、そんなに謝らないでほしい。落ち込んでる東郷さんよりも、元気に笑ってる東郷さんが見たいからさ』


 スマホの向こうから、雄太郎くんの優しい声が聞こえる。幼い頃から声変わりはしているけど、本質の優しい雰囲気は変わらない、安心できる声。その声から出た大丈夫という言葉は、凄く安心できる。


 ……やっぱり私、雄太郎の事が大好きなんだなぁ……。


「本当にありがとう、雄太郎くん。それで、明日のお弁当のおかずの希望を聞こうと思って。何食べたい?」

『そうだなぁ、東郷さんの料理ならなんでも食べたい』


 そ、そういうのさぁ! 嬉しいよ? 嬉しいけど照れちゃうから! また方言出ちゃうから!


「嬉しいけど、そうじゃなくて……雄太郎くんが食べたいものを作ってあげたいの」

『それじゃ、から揚げと……東郷さんがこの料理なら得意!って自慢できる料理を作って欲しいかな』


 私が得意な料理? 元々料理しないから、胸を張って得意と言える料理なんて……あっ。


「……生姜焼き」

『生姜焼き?』

「うん。それなら得意って言えると思う」


 私がまだ小さい頃――本当の両親が生きていた時、お母さんがよく作ってくれていた料理。それが大好きで、やり方を教わった事があるの。


 両親が亡くなった後、親戚の家にいる時……私だけごはんが無かった時に、よく自分で作って食べていた。両親との幸せな日々を思い出しながら、悲しくて泣きながら食べていたなぁ……。


『それじゃあ、生姜焼きをお願いできるかな』

「うん、任せて!」


 生姜焼き……私の大切な思い出の味を食べてもらえるなんて、なんだか嬉しい。よーっし、張り切って美味しい生姜焼きを作るぞ~!



 ****



「…………」

「そろ~り……ふふっ、可愛い寝顔……思ったより寝相は良いんだなぁ……」


 なんか聞こえる気がする……美桜か……? 俺はまだ眠いんだから……もう少し寝かせてくれ……。


「ほら朝だよ、起きて」

「んっ……」

「起きないと……い、イタズラしちゃうよ?」


 ……なんだ美桜の奴、どうしてほっぺを突いてくるんだ……今日はイタズラがしたい日なのか……まったくしょうがない妹だな……。


「えいっ」

「…………」

「えいえいっ」

「………………」

「ど、どうしよう。なんか楽しくなってきちゃった。寝てるし……昨日の続き、いいかな……あ~……雄太郎くんの逞しい腕ぇ……」


 ほっぺを突かれる感触が離れたと思ったら、今度は腕に何かが抱きついてるような感触を覚えた。


 今日は随分としつこいな……極稀に勢いよく乗っかってきたりするし、起きた方が良さそうだな……。


「う~ん……」

「あ、起きちゃいそう! 早く離れないと!」

「……あれ?」

「お、おはよう! 雄太郎くん!」

「……………………東郷さん?」


 おかしい、どうして俺の部屋に東郷さんがいるんだ? もしかして、寝ぼけてて幻を見ているのか? それともこれは夢か?


「どうして東郷さんが……?」

「今日も迎えに来たら、まだ寝てるってお母様が言ってたの。それで、よかったら起こしに行ってあげてって言われて」

「あー……」


 なるほど、理解できた。母さんなら普通に頼みそうだ……。


 東郷さんが来るなら、もっと部屋の中を片付けておけばよかった。見られて困るものは無いが、散らかってるのを見られるのは、流石にみっともない。


「やっぱりっていうか、雄太郎くんの部屋には筋トレの道具が多いね」

「まあね」

「おにぃ~司先輩~ごはんが出来たよ~!」

「美桜ちゃんが呼んでるよ。早く行こっ」

「ああ。顔を洗ってから行くから、先にリビングに行ってて」

「うん、わかった~」


 一旦東郷さんと別れて洗面台に向かった俺は、顔を洗って髪も軽く整えてからリビングに向かうと、何故かニヤニヤと笑う母さんに出迎えられた。


「おはよう雄太郎。司ちゃんのモーニングコールはどうだったかしら?」

「ビックリしたけど、良い目覚めだったよ。でも、俺の許可も得ずに東郷さんを部屋に通すのはどうかと思うけど」

「見られて困るものでも置いてあるの? たとえばえっちな本とか?」


 えっちな本って……そんなの部屋にあるわけないだろ。そもそもそんなのに興味は無い――と言ったら流石に嘘になってしまうが、そのような物を手に入れたいって思う程の興味は無いかな。その労力を筋トレに回した方が有意義だ。


「お、おにぃ! えっちなのはいけないとおもうよ!」

「雄太郎くん……」

「ちょっと待て、誤解だ! 俺の部屋にはそんなものはない! 東郷さんもなんでそんなジト目で見てくるんだ!」

「部屋に……は? なんか怪しい言い方だよ! どこか他の所に保管してるの!? わかった、スマホでデータとして保存してるんだ! ネットにそういうの、いっぱい転がってるもんね!」

「ちなみに雄太郎の部屋には、幼馴染系の本が結構あったわねぇ」

「変な事をでっちあげるな! ないから!」


 おかしい、どうして俺が責められているんだ? 俺、何も悪い事はしていないはずなんだが?


「美桜も少し落ち着け! そもそも、どうしてお前がそんな事を知ってるんだ!?」

「えっ!? な、なんとなくデスヨ??」


 疑問に思ったことを聞いただけなんだが、美桜は急に大人しくなってしまった。しかも顔は真っ赤だし、滝のような汗も流れている。


 ……俺、なんか変な事を聞いただろうか? そんな疑問を感じながら、俺は四人で仲良く朝食を食べるのだった。


 ――この後に起こる事などつゆ知らずに。



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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