第12話 超鈍感筋肉委員長
「ふぅ……今日はこの辺でいいか……って、もうこんな時間!?」
なんだかんだで数時間程トレーニングをしてしまった。最初の方は東郷さんの事を気にして、何度も彼女のいる二階に視線を向けていたのに、いつの間にか筋トレに集中してた……。
「これはもう帰っちゃっただろうな。明日ちゃんと謝らないと……」
これだから筋肉馬鹿とか言われるんだよ。本当に俺ってやつは……そんな事を思いながら二階に視線を向けると、そこには俺の事をジッと見つめる東郷さんの姿があった。
あ、あれ……? まだ帰ってなかったのか? いや待て、もしかして最初から俺が終わるまでずっと待ってるつもりだったのか? それとも帰り道がわからないから、嫌々残っていたのか?
どっちにしても申し訳なさすぎる。とにかくここから大声を出したら周りの人に迷惑だし、スマホで連絡を入れてから、急いでシャワーを浴びて来よう。このままじゃ汗臭いだろうし。
『今終わりました。ずっと放っておいて申し訳ありません。すぐにシャワーを浴びてきますので、もう少しだけお時間をください』
「送信っと……」
ライムで東郷さんにメッセージを送信すると、東郷さんはこちらを向きながら、両腕を大きく使って丸を作っていた。その行動が、何故か俺には微笑ましく思えた。
「いやいや、微笑ましく思っている場合じゃないな。早くシャワーを浴びて戻らないと」
パパっとシャワーを浴びて東郷さんの元に戻ると、そこでは東郷さんが剛三郎さんと何か話しているところだった。
一体何の話をしてるんだろうか? ちょっと気になるけど、邪魔するのは申し訳ないし、少し待っていよう。
「それじゃ採用って事ですか!?」
「ええ。いつから来れるかしら?」
「いつでも大丈夫です!」
「じゃあ、早速明日からお願いしようかしら!」
……採用? 明日から? 本当に何の話をしているんだ? 全然話が見えてこないんだが……あっ、東郷さんと目が合った。これは見つかってしまったな。
「雄太郎くん! おかえり!」
「ただいま。ごめん、さっき話してのが聞こえちゃったんだけど……採用って何の事?」
「ふふっ、司ちゃんにうちで働いてもらう事になったのよ~」
「働く? あぁ、そういえばバイト募集してましたね」
「そうそう! 司ちゃんいい子そうだし、アタシからスカウトしたら是非って!」
結構長い間働いていた人が、上京するからって抜けちゃって困ってるって言ってたから、きっとその後釜だろう。東郷さんなら出来ると思うな。直感だけど。
「それじゃ、バイトがある日は一緒に来れるね」
「そ、そうだね!」
転校してきてから基本的にずっと一緒にいるうえに、放課後も一緒にいるなんて……これは……友達と言ってもいいのではないだろうか? ずっと筋トレばかりだった俺にもついに友達が……なんだか感慨深いものがあるな。
「雄ちゃん、冬とかは割とすぐ暗くなるから、ちゃんと送ってあげるのよん!」
「え、そんな……申し訳ないですから! 雄太郎くんも本気にしなくていいからね?」
「冬じゃなくても送るに決まってるだろ」
「ふぇ!?」
「友達に、暗い夜道を歩かせるわけにはいかないだろう?」
「「…………」」
あ、あれ? なんで急にこんなに空気が冷めたんだ? つい最近こんな事があったような。しかもまたまた東郷さんがほっぺを――って!? 剛三郎さんはどうしてにじみ寄ってくるんだ!?
「あーうん、そうだね。私達は友達だもんね……はぁ」
「あんたって子は……どれだけ乙女心が理解出来てないのよぉぉぉぉ!!」
「え、ちょっ……ぎゃああああ!?!?」
剛三郎さんは俺の背後に回り込むと、俺の腰をがっしりとホールドする。それから間もなく俺の身体はフワッと持ち上がり……景色が反転した……。
「ゆ、雄太郎くん!? 大丈夫!?」
「あらやだぁ~つい力み過ぎて、雄ちゃんの上半身が床に埋まっちゃったわぁ♪」
「埋まっちゃったわぁ♪ やなかばい!雄太郎くん、死なんで~!」
あぁ……剛三郎さんの……愛のスペシャルバックドロップ……やっぱり効くなぁ……なんでお仕置きされたんだ俺……あ、駄目だ意識が……がくりっ。
****
「雄太郎くん、大丈夫……?」
「う、うん……なんとか」
無事に救出された俺は、痛む頭をさすりながら、東郷さんと一緒に帰路についていた。
全く、剛三郎さんは手加減を知らないんだから……俺が鍛えてるからこの程度で済んだけど、一般人だったら大変な事になってるぞ。
まあ剛三郎さんの事だから、一般人にはあんな真似は絶対にしないのはわかってるけどさ。俺にもやらないでほしいけど。
「今日見てて思ったけど、雄太郎くんっていつもあんなに筋トレしてるの?」
「うん。今日は少ないくらいだったかな」
「あれで少ないの!?」
今日はランニングマシンをした後にペンチプレス、懸垂にデッドリフトもやって、チンニングもして……他にもオーソドックスにダンベル上げといったトレーニングを行った。ざっくり言ってしまうと、今日は上半身の筋肉を主に鍛えた感じだな。
「あれだけやれば、筋肉モリモリになるのもわかるなぁ……ちょっと触ってみてもいい?」
「もちろん」
東郷さんは恐る恐る俺の腕に触ると、珍しい物を見たかのように目を丸くさせていた。
「すっごぉ……カッチカチ……触った感じ、鉄みたいに硬いけど、でも柔らかさもあるし……不思議な感じ」
なんかそんなに触られるとくすぐったいし、ちょっと恥ずかしいな。
「一応人間の体だから、少しは柔らかいよ」
「そうだね……ずっと触ってられる……うへへへ……」
……えーっと、なんか随分とだらしない顔になってるけど、これって女性的にオッケーな顔なんだろうか……? あ、よだれまで垂れ始めた……今はまだ駅からそんなに離れてないから、周りには通行人がいるんだけど……。
「カチカチだけじゃなくて、太さも凄か……うちじゃ抱えきれん……」
「と、東郷さーん……おーい?」
「ほわぁぁぁぁ……このがっしりした感じ……! こ、こりゃ凄か安心感……!」
今まで触っていただけだったのに、唐突に俺の腕に抱きついてきた。
さ、流石にこれは色々問題があると思うんだが!? うわっ、女の子の体ってこんなに柔らかいんだな……。
っていやいや! それよりも、思いっきり方言が出ちゃってるし、流石に人目に付きすぎる! 東郷さんのためにも、早く正気に戻して、離れてもらった方が良さそうだ。
「東郷さん、ほら……周りの人が見てるから」
「ほわぁ……最高……」
「東郷さんっ!」
「ふにゃあ!? あっ……あわわ……ご、ごごご、ごめんっ! つい夢中になっちゃって……!」
東郷さんは顔を真っ赤にしながら離れた。余程慌てているのか、汗が凄いし視線も泳ぎに泳ぎまくっている。
抱きつかれたのは流石にビックリしたけど、筋肉を褒めてもらえるはとても嬉しい。だから、そんなに慌てなくてもいいんだけどな。
「えっとえっと……こりゃ何でもなかけん! ちょっと触ってみとうなっただけやけん!」
「そ、そっか」
「うぅぅぅぅ……! きょ、今日はここまでで大丈夫やけん! 送ってくれてありがとう! 明日もお弁当作ってくるけん、そんつもりでいてね!」
方言がバリバリに出たまま、東郷さんは逃げるように帰ってしまった。
……果たして今の対応は正しかったのだろうか? もっとうまくやっていれば、逃げられずに済んだんじゃないだろうか……はぁ、コミュニケーションって難しい。
それにしても……一人暮らしなうえに、引っ越してきたばかりだというのに、俺のために早起きして弁当を作って、バイトまでして……調子が悪くなったりしないだろうか? 正直ちょっと心配だな……。
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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