第9話 不良から彼女を守れ

「司ちゃ~ん、筋肉委員長はどうしたの? 一人なら、俺達と一緒に飯行こうよ」

「茂木くん? 申し訳ないけど、私は雄太郎くんと食べるから」

「あんな筋肉ダルマと一緒に食ってもつまんないよ? 俺達と一緒の方が絶対に楽しいって」

「どうして私の楽しみをあなたが決めるの? 私はあなた達と食べるよりも、雄太郎くんと食べる方が楽しいの。それと、雄太郎くんの事を悪く言わないで」

「はぁ……? この前もそうだったけど、あんまり調子に乗らない方が身のためだよ」

「いたっ! 放して!!」


 東郷さんが冷たい態度を取っているせいでイライラしたのか、茂木君が東郷さんに手を伸ばし、彼女の肩を掴んだ。


 あいつら――東郷さんに何をしてるんだ! 早く東郷さんを助けないと! そう思い、俺は咄嗟に茂木君の腕を掴んだ。


「雄太郎くん!」

「ちっ……出やがったな筋肉ダルマ」

「茂木君、今何しようとした?」

「はあ?」

「東郷さんに手を伸ばして、何をしようとしたのか聞いてるんだよ」


 俺は静かに、そして怒りを孕んだ声で聞きながら、茂木君を睨む。


 ただでさえ女性を複数の男で囲うような行為に腹が立っているのに、更に手を出そうとまでしようとしたこいつらに、俺は怒りを抑えきれなかった。


「お前に一々教える義理は無いんでね」

「そうか。ならさっさとどこかに行ってくれ。茂木君がいると、落ち着いて食事が出来ないからな」

「……ふんっ」


 鼻から勢い良く息を吐きながら、茂木君は周りの人達にバレないように、俺の足の甲を思い切り踏みつけながら、グリグリとしてきた。


「マジでその面を見るだけで腹立つぜ……お前はいつか絶対に泣かせてやっからな……」

「言いたい事はそれだけか? 終わったのなら、もう東郷さんに近づくなよ」

「ちっ……」


 忌々しそうに舌打ちを残して、茂木君達は足早にその場を去っていった。なんとか穏便? に東郷さんを守る事が出来たな。


「東郷さん、大丈夫? 怪我はない?」

「か、かか……かっこよかぁ……!」

「……東郷さん?」

「あ! う、うん! 大丈夫!」


 なんだかボーっとしてるし、顔が赤いけど大丈夫だろうか……あ、そっか。茂木君達に囲まれて怖かったんだな。もっと早く戻って来ていれば、東郷さんを怖がらせずに済んだのに……。


「とりあえず無事でよかった。さあ、ごはんをって言いたいところだけど……」


 茂木君達とゴタゴタしてしまったせいで、周りの生徒達の注目を浴びてしまっている。こんな状態では、落ち着いて食べるのは難しそうだ。


「ちょっと移動しようか」

「あっ……」


 俺は彼女の手を取ってとある場所に向けて歩き出す。いきなりこんな事をしたら驚くだろうけど、あそこで見せ物になるよりはマシだ。


「ゆ、雄太郎くん? どうしたの?」

「あそこだと落ち着いて食べれなさそうだからね。それに、もしかしたら茂木君が仲間を連れて戻ってくるかもしれない。だから場所を移動しようと思って」

「言われてみればそうだね。それで……どこに連れていってくれるの?」

「ちょっと薄暗いけど、人が少なくて静かな場所だよ」


 端的にそう答えながら東郷さんと向かった先は、体育倉庫の裏だ。ここは校舎から少し離れているおかげか、あまり人が来ない場所。俺も一人で静かに昼食を食べながら勉強したい時に利用している。


「誰もいないね」

「そうだね。ちょっと古いけどベンチもあるし、そこに座って食べようか」


 俺はベンチの砂埃を丁寧に払うと、そこに東郷さんと一緒に座った。俺が重いせいで、ちょっとミシミシいってるけど、多分大丈夫だろう。


「えへへ、こんな所で二人っきりなんて……ドキドキしちゃう」

「……? そうだな」


 ……どうしてドキドキするのかはわからないが、否定する理由もないし……こういう時は、今みたいにとりあえず同意しておけばいいだろうか?


「はい、どうぞ!」

「おお……!」


 東郷さんの取り出した弁当箱には、たくさんの白米に鶏のささ身、鶏のから揚げ、ブロッコリーを使ったサラダに卵焼きが入っていた。


「その、今朝も言ったけど! 私ってあんまり料理をした事なくて……レシピを調べて、筋肉に良いって料理を作ってみたの! でも、あんまり見た目がよくなくて……あ、味見はしたから大丈夫だよ!」


 言われてみると、確かに卵焼きや鶏肉は少し焦げてるし、ブロッコリーは形が歪だし、白米は少しべちゃっとしている。


 でも、そんなの俺には関係ない。俺の事を考えて作ってくれた事が、何よりも嬉しいんだ。


「全然大丈夫だから気にしないで。って……東郷さんの弁当は?」

「私はおにぎりを持ってきたよ。元々少食だからこれで足りるの。だから」

「そっか。それじゃ、いただきます」

「め、召し上がれっ」

「もぐもぐ……」


 まずは卵焼きから頂くと、口の中に優しい甘さが広がっていく。ちょっと焦げてるから苦みもあるけど、普段料理をしない人がここまでおいしく作れるのは凄いと思う。


「ど、どうかな……」

「うまいっ! 本当にいつも料理しないのか? 俺には信じられないよ!」

「ほ、本当に!? よかったぁ……!」


 本当にお世辞抜きで凄いと思う。俺が全く料理が出来ないからそう思うだけかもしれないけど、とにかく凄い。そして嬉しい。


「それはブロッコリーと卵のサラダ! 初めて作ったんだけど……どうかな?」

「うん……! これもうまい!」


 これはヤバい、箸が全く止まらない。本当はゆっくり食べて感想を言いながら、東郷さんと楽しく喋って過ごそうと思っていたのに……弁当の魔力、恐るべし。


「ね、ねえ雄太郎くん! ちょっとお箸貸してくれる!?」

「あ、うん。どうぞ」


 俺は使っていた割り箸を手渡す。すると、東郷さんは割り箸を見つめながら、小さく口を開いた。


「頑張れ……やればできる……やればできる……」

「東郷さん? から揚げを取ってどうしたの?」

「あ、ああっ、ああっあああ……」


 え、急になんだろうか。から揚げを掴んだまま、壊れたラジオみたいになっちゃったんだけど……。


「む、無理ぃぃぃぃ!!」


 何が無理なのかはわからないけど、東郷さんは涙目になりながらから揚げを一口で食べてしまった。


 ……よっぽど食べたかったのだろうか?


「はぁ……私の意気地なし……」

「よくわからないけど、元気出して」

「うん、ありがとう……お箸返すね」


 俺は東郷さんから箸を返してもらうと、そのまま俺もから揚げを口に放り込んだ。うん、にんにくが効いたこの味付け、最高だな! 他の具材もうまいけど、これが一番好みかもしれない!


「東郷さん、しっかり練習すれば店を出せるくらい料理の才能あるって!」

「それは大げさだよ~。でも嬉しいな、雄太郎くんが好きって言ってたから作ってきたんだよ」

「……あれ? 俺、から揚げが好きって言ったっけ?」

「あっ……! い、言いよったばい! も、もしかしたらうちん勘違いかも!?」

「そっか。まあ好きだから問題無しだけどね。東郷さんが作ってくれたものなら何でも食べるつもりだしさ」

「雄太郎くん……ありがとう」


 東郷さんは嬉しそうに笑いながら、小さな口でおにぎりにかぶりつく。


 それにしても、東郷さんはどうして俺に弁当を作って来てくれたんだろうか? 昨日のお礼にしては手が込みすぎだし……。


「……あ、わかったぞ!」

「もぐもぐ……急にどうしたの?」

「さっきから、なんで俺に弁当を作ってきてくれたのかを考えてたんだ! 俺にもっと筋肉をつけてほしいんだな!」

「え?」

「そんなに心配しなくても、いつもちゃんと食べてるし、毎日筋トレも欠かさないから大丈夫だよ」

「……雄太郎くんのバカっ! 鈍感っ! 筋肉ダルマっ!」

「えぇ!? な……なんかごめん」


 あ、あれ? 俺、また何か変な事を言っただろうか……東郷さんがまたほっぺを膨らませてしまったぞ……。


 女子とのコミュニケーションって難しすぎないか? 筋トレの方が何百倍も簡単だぞ……。


「ふんだっ! 女心がわからん雄太郎くんには、一粒も残しゃず食べてもらうけん! 」

「そ、それはもちろん」


 結局東郷さんがなぜ不機嫌になったかの理由はわからないまま、俺は米粒一つ残さずに弁当を平らげるのだった――



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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