第5話 ずっと大好きだった幼馴染

■司視点■


「あ~どうしようどうしよう! また明日もって送っちゃった……! ていうか、本当に会えるだなんて……しかも案内とか下校も一緒だなんて!」


 自宅に帰ってきた私は、シャワーを浴びてさっぱりしてから、ライムで雄太郎くんにお礼のメッセージを送った。そして、そのままベッドに倒れこむと、今日の事を思い返しながら、抱き枕を抱えて悶え始めた。


 仕方ないじゃない。会いたかった雄太郎くんに、本当に会えたんだもん! 見た目はかなり変わってたから、名前を聞いた時に驚いちゃったけど……。


「あ~……無理しんどい……雄太郎くん好きすぎる……」


 実は私は……幼い頃の雄太郎くんを知っている。何故なら、私は幼い頃にこの街に住んでいたからだ。


 小さい頃、雄太郎くんはいじめられていた。確か当時は内気で小さくて、一人で隅っこにいるような子だった。


 一方の私は、警察に勤めていた両親の影響で、正義のヒーローみたいな事をしていたの。


 そんな中で、私は雄太郎くんに出会った。確か、いじめられてる雄太郎くんを偶然見かけて、そのまま助けに入ったのが出会いのきっかけだったはず。


 私はその後も、雄太郎くんをいじめる奴らに何度も立ち向かっていったが、主犯格がガキ大将という事もあり、そいつから私を仲間外れにするように話がいっていたようで、気付いたら私は一人ぼっちになっていた。


 そんな私に、雄太郎くんは優しくしてくれたし、君はすごい子だって褒めてくれた。そんなことを言ってくれたのは、雄太郎くんだけだった。


 それに、守られるだけじゃ嫌だ! もうあの子に酷い事をするな! って言って、いじめっ子に立ち向かってくれた。


 結果的に言えば、雄太郎くんは返り討ちにあってしまい、助太刀した私は怪我をしてしまった。


 でもね? ずっと守る側だった私にとって、雄太郎くんの行動は凄く嬉しくて……カッコよくて……好きになっちゃったの。


 そんな雄太郎くんが、私みたいになりたくて、あんなにムキムキになるなんて、予想外すぎるよ。それに、男の子と思われてたのにもビックリしちゃった。


 確かに雄太郎くんと一緒にいた時期の私は、今と違ってかなり髪は短かったし、男勝りな性格だった。体格も今みたいな小柄じゃなく、当時の同い年の子の中では大きい方だった。これだけ揃えば、勘違いをするのも無理はない。


 しかも当時の私は、お父さんと一緒に見ていた大好きなヒーロー番組の影響で、ヒーローは正体を明かさない! みたいな感じで、雄太郎くんには名前を伝えてなかったから、名前で女の子と理解してもらうのも無理だったの。


 まあ……私の名前は男の子でも女の子でも使える名前だから、どのみち勘違いされてたと思うけどね。


「男の子と思われてたのはショックだけど、過去の私を目指して鍛えてくれたのは嬉しいな……でも、雄太郎くんにとって過去の私は……なんだよね」


 そう。雄太郎くんにとって、過去の私は憧れというだけであって、異性として好きという事ではない。


 だから……ヒーローが実は私だったというのは、絶対にバレてはいけない。


 もしバレてしまったら、きっと雄太郎くんは私の事を一人の女の子じゃなくて、憧れの存在として見られてしまう。そうなったら……きっと雄太郎くんと結ばれるのは難しくなる。


 そんなのヤダ。ずっとずっと雄太郎くんにもう一度会うために、一緒に学校生活をするために、そしてこの想いを伝えるために……まだこの街に住んでるかもという、ほんの小さな可能性に賭けて帰ってきたのに!


「お義父さんとお義母さんに無理言って、こっちに帰らせてもらったんだから、頑張らなきゃ……それに、こんな顔をしてたら、天国のお父さんとお母さんに心配かけちゃうよね」


 実は私は、幼い頃に交通事故で両親を亡くしている。しかも、丁度雄太郎くんの事が好きになったくらいのタイミングだ。


 だから、本当は雄太郎くんの元を離れたくなかったのに……親戚の家に引き取られる事になったの。


 しかも、その家の子供である姉妹や、彼女達の両親から、酷いいじめを受けた。


 それだけに留まらず、私の男勝りな行動や性格、方言が学校で受け入れてもらえず、そこでもいじめを受けた。


 それから数年程経ち、私は別の親戚の家に行く事になったんだけど……そこでも馴染めずに、家でも学校でもいじめられた。


 結果、私はどこに行っても迫害されて……施設に預けられる事となった。


 もうその頃にはヒーローのような事はせず、方言も極力喋らないようにしていた。男勝りな性格も直したし、女の子らしい見た目に変え、誰とも関わらずに部屋の隅っこで本を読む生活を送っていた。その影響で、今では本が大好きだ。


 そんなつらくて苦しい生活を続けていた私にも、希望はあった。それは勿論……雄太郎くんだ。それが無ければ、私はとっくに壊れていただろう。


 私は絶対に負けない。また雄太郎くんに会って、幸せを掴むために。そう思いながら施設で生活していると、ようやく救いの手が差し伸べられた。それが、今の両親との出会いだ。


 彼らは私の事を引き取ってくれて、とても愛情深く育ててくれた。今回の転校だって、私のワガママなのにいろいろやってくれたし、仕送りもくれると言ってくれた。そんなサポートがあったからこそ、ほぼ博打の転校が成り立ったんだ。


「私、頑張るから……あっ! 雄太郎くんから返信が来た!」


 ライムの通知音が来た瞬間に飛び起きた私は、自分でも驚くくらいの速度でスマホを手に取り、メッセージを開いた。


『こちらこそありがとうございました。大変有意義な時間で、とても楽しく過ごせました。俺なんかでよろしければ、明日からも是非仲良くしてください』

「ふふっ……もう、メッセージ固すぎだよ。真面目だなぁ」


 雄太郎くんの人柄が出ているメッセージに、私は思わず笑ってしまった。


 雄太郎くんは見た目こそガラッと変わったけど、根本は全然変わってない。それが、凄く嬉しいな。


「明日も……か。嬉しいなぁ。もっと仲良くなって、お義父さんとお義母さんに紹介したいなぁ……早く孫も見せてあげたいし……って、いくらなんでん、話が飛びすぎやって!」


 あっ……また興奮して方言が出ちゃった。どうしても興奮したり、ドキドキしちゃうと方言が……。


 雄太郎くんは方言に対して悪い感情は持ってないとはいえ、もしかしたら方言のせいで、ヒーローの正体が私だってバレちゃうかもしれない。なるべく控えないと。


「……我慢できるかなぁ。雄太郎くん、かなり距離感近かったし……か、壁ドンとかおでこに手とか……お、思い出したら、また恥ずかしゅうなってきた……あっ」


 ま、また出ちゃった……私ってダメダメだな……ううん、こんな事で挫けてる場合じゃないよ! 雄太郎くんのヒーロー(元)として、絶対に挫けたりしないんだから! 明日も仲良くなれるように頑張るぞっ!


 そうだ、明日お弁当作ってあげよう! そうすれば喜んでくれるかもしれないし、一緒にごはんを食べる口実が作れるし! そうと決まれば買い物に行かないと!



――――――――――――――――――――

【あとがき】


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