第2話 謎の発光イケメン
「え? なに? 誰? ……えっ!? 声がちゃんと出る!? 辛くない!」
「十年間よくがんばりましたね……ぐすっ」
「え? え!? えーーー!?」
謎の発光イケメンに抱きしめられながら泣かれて混乱して数分、ようやく落ち着いたのかゆっくりとした動作で僕を開放してくれた。
照れ笑いだろうか、申し訳なさげにしつつ僕を見やる……あ、手を目に当ててまた泣いた……どうしろと……。
さらに待つこと数分、十歳の僕が白く光り輝く(光が増した)謎の発光イケメンを宥めるという訳の分からない状況の中考える。思うにこれは
「えっと、神様、ですか?」
泣きながらきょとんと小首を傾げる発光イケメン。様になってるなぁと思っていると視界の端で黒い靄が蠢いた気がする。
「あぁ、そちらは見てはいけません。あなたのその綺麗な心が穢れてしまいますよ」
「はぁ、わかりました。それであなたは神様ですか?」
「その認識でも問題はありませんよ。貴方自身のことをお話ししますね……」
なんでも、ここではあらゆる魂の管理をしており、中でも出生時と死亡時の魂の扱いは想像よりずっと雑なようだ。
というのも死亡時は魂が剥離するのでその回収を行い、あらゆる記憶を浄化する施設に送り、澄んだ魂を新しく生まれる命に定着させるのが流れらしい。
「死亡時の重さで魂の存在を検証するのは予想外でしたね」
と笑いながら教えてくれた。
中間の記憶の処理をきちんとしておかないと、いろいろと困ることになる。
考えても見てほしい。人の記憶を宿したまま野良猫として生まれてしまえば過酷な生存競争に身を置くことになる。兄弟姉妹と母親の乳を奪い合い押しのけ勝ち残り、成長してなお生存のために生きるだけ。
僕ならば小さいうちに人間の前でお腹を出してアピールして安全に飼われたいと思う……あれ?
「逆の場合を想定してください。猫の記憶を持ったまま人間として生まれたらざっくり言えば大変でしょう?」
「そうですね。意外と問題ないと思ったけど想定がおかしかったんですね」
「そういうことですね。それで、あなたのことです」
神様が訂正してくれたおかげで疑問が解けた。
(それにしても、苦笑いも様になってる……また、黒い靄が動いた)
「そちらは見ないように、穢れます。……あれらは意志の塊なんですよ。所謂負の感情です。あれらに纏わりつかれると色々厄介ですのであぁして隔離しているんです」
「あ……はい。話の腰を折ってごめんなさい」
「いえいえ。……ふふ、まだ10歳だというのにしっかりとしていますね」
「えっと、ありがとうございます。神様に褒められるととても嬉しいですね」
「ふふ、ありがとうございます。素敵な笑顔ですね。では改めて、あなたのことです。申し訳ありません。私の監督不行き届きでした。魂の定着の際しっかりと定着したかの確認を行うところなのですが、担当した者が片手間に行ったことが発覚しました」
待ってほしい。嫌な予想しかない。ということは、つまり……。
「僕の魂は、乖離しやすい状態だった、ということですか……?」
「乖離……えぇ、そうです。そのせいで体の機能が十分だったり不十分だったりとしていました。それに気づいてからずっとあなたの様子を窺っておりまして……ぐすっ」
ずっと見られていた。字面だけだと軽いホラーだけどどうしてか神様を見ていると優しいお兄さんとしか見えない。
「お兄さん……いい響きです……」
「心、読まないでください……恥ずかしい……」
「ふふ、ごめんなさい。しかしそうですね……あなたが憧れていた冒険のできる世界線での転生は決定事項ではありますが、すこし我儘を通したくなりました」
「やっぱり転生! ……我儘、ですか?」
転生の言葉を聞いて喜んだものの、不穏な物言いが気になる。
「身構えなくても……私は、あなたのことをとても好んでいます。生前から見てきていたのです。どうにかして何かつながりが欲しいと思ってしまいました」
黒い靄が視界の端で蠢く中で、神様はとても似合う苦笑いで言う。かくいう僕も神様の優しさに触れて離れ難かったりする。
「えっと……その、でしたら、僕のお兄さんになっていただけませんか……?」
思い切って言ってみた。ってうわっ! 眩しい! 神様の光が強すぎて痛いっ!
「申し出、とてもとても嬉しいです。是非ともあなたの兄を名乗らせてください」
恐る恐る目を開ければ満面の笑みの神様。視界の端に黒い靄は消えていた。
そしてふと気づく。僕、神様の名前知らないよ……?
「我々には名前というものがありません。必要ありませんでしたがあなたと兄弟と成ったからには必要ですね。よろしければあなたが名付けてくれませんか?」
「でしたら僕も、神様……いえ、お兄さんにお願いします。今の僕の名前は大切な両親からいただいたものです。それは両親と、お兄さんにだけ覚えていてほしいです。異世界ではお兄さんからいただいた名前がいいです」
「ふふ、光栄です。それでは考えてみましょうか」
輝かんばかりの……目に痛いほど輝く笑顔を浮かべて楽しそうに思案するお兄さんを眺めつつ考える。いくつか候補が浮かぶもどれもしっくりこない。うんうん唸りつつも結局は最初に浮かんだ候補に決めた。
「お兄さん、レスター、はどうですか?」
「レスターですか、よい響きです。気に入りました、ありがとうございます『エルナー』」
「エルナー、ですか? それってもしかして」
「はい、エルナーが初めて読んだ絵本ですね。これから冒険へ行くのですから相応しいでしょう?」
目頭が、熱い。そして嬉しい。お母さんに告げた別れの言葉が現実味を帯びたようなそんな感覚。
「えっと、レスター、兄様。ありがとうございます、嬉しいです」
「ふふ、さてエルナー。名残惜しいですがもうそろそろ時間になります。注意事項は……いえ、それも含めて冒険ですね。人が生きている世界ですから、しっかりと学びよい冒険を楽しんでください」
「はい、あ、それと一つだけ僕も我儘いいでしょうか」
上目遣いで聞いてみる。あぁ、目が、痛い。
「えぇ、どうぞ」
「えっと、僕の両親のことです。僕のことで凄く苦労させてしまいましたので……その」
「……わかりました。あちらの世界線から二つばかり戴けばバランスはとれますので……ふふっ」
「……ありがとうございます!」
黒い笑みは見なかったことにして満面の笑顔を意識する。と、レスター兄様が抱きしめてきた。
最初は混乱していて気付かなかったけど、優しい日向のような匂い。おずおずと抱きしめ返すとそのままの格好でレスター兄様が優しく囁いた。
「エルナーどうか健康に気を付けて、冒険を楽しんでください」
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