最終話 お嬢様のちゅーが、ほしいです。

 

 そして、4年後。私、レミは14才の誕生日を迎えていた。

 

 10才の誕生日の時と同じように私は長椅子に座っていた。横の長椅子にはスイおねえさまと、リコおねえさま。私の為に大学の授業をサボってきたらしい。そして私の膝の上には……リアお嬢様。

 

 リコはスイに抱きついていて、ちょこちょこほっぺにキスをしていた。多分今年もリコおねえさんはテンションがあがっておくちでちゅーしそうだ。

 

 あれから毎年、プレゼントとして私はお嬢様のキスをいただけるようになった。……なった、けれど。

 

 そのプレゼントを下さるお方は……「う〜」と顔をうつむかせていた。

 

 もじもじ、もじもじ。足を開いたり閉じたり、腰を浮かせたり落としたり、落ち着きがない。ちらりと、私の顔を見て……目線が合うと慌てて視線を落とす。こころなしか顔も赤い。その様子がとっても可愛くて、私は自然と頬がゆるんでしまう。

 

 リコ、スイおねえさまをちらりと見る。

「かわいい……尊い……」「目の保養だ……」二人とも、にっこにこだった。私と同じようにお嬢様の様子を見て楽しんでいるようだ。 

 

 八、九才のときまではぷれぜんとのちゅーをのりのりでしてくれていたのだけれど……十才になったときから、それがはずかしくなってしまったみたいなのだ。

 

 その気持ちはとってもよくわかる。私も、十才になったときはそうだった。

 

 でも……はずかしくなっただけで、ちゅーが大好きなのは変わらないはず。この間、ピーマンの苦手を克服してくださったときも、ごほうびのちゅーを自らねだるぐらい喜んでいたし。

 

 実際、ハッピバースデーの歌でお祝いしてくれた後、「ぷれぜんとするー」と言いながらお嬢様自身が膝の上に乗ってきたのだ。私の肩に手をかけてから、動きが止まっちゃったけど。

 

 ……このままだと、ずうっともじもじしちゃってそう。それも幸せだけれど、なんとかしてあげないと。

  

 私はお嬢様の腰に手を回し、ゆっくりと引き寄せる。こつん。おでことおでこがぶつかる。

 

「わ」ちょっとお嬢様は、驚く。

 

「ごめんなさい、いたかったです?」


「ううん、大丈夫」

 

 顔をかたむけ……そっと、自分の口をお嬢様の口元に近づける。

 

 くちびる同士がくっつく……ぎりぎりでとめる。

 

「んっ……ん?」お嬢様は一瞬目を閉じ……期待していた感触が来ず、首をちょこんとかしげ、目を開けた。

 

 とっても近い距離で、目と目が合う。みるみる、お嬢様の顔が赤くなっていく……。私もつられて、ほっぺが熱くなるのがわかる。

 

「お嬢様……レミは今日だけ、おねだりします」そっと、ささやく。

 

「うん……」

 

「リアお嬢様の、ちゅーがほしいです」上目遣いで、甘える。

 

 ただ、お嬢様のくちびるがほしいなら……私からちゅーすればいい。でも、それはちがう。今日……今日だけは、お嬢様からちゅーしてほしい。

 

「う、うん……」お嬢様は返事をする。でも顔を、真っ赤にしたまま、目が泳いでいる。ひょっとしたら、本当に嫌なのかも?

 

「……でも、お嬢様がいやというなら」私は顔をずらし、お嬢様の右肩の上に乗せ、ほっぺをほっぺにそっとくっつける。

 

「抱きしめさせていただくだけでも、うれしいです」細くてやわらかい腰に手を回してぎゅーをする。

 

 リアお嬢様のあったかさを全身で感じる。成長して、少し重くなって、更に可愛く、美しくなられて。

 

 そんな御方をお世話させていただけるなんて、やっぱり私は幸せ者だ。

 

「だいすきです、リアお嬢様」告白しながらほっこりと、幸せになる。

 

 そのまま、ぼんやりとする。 

 

「リコ!? 舌は入れちゃだめっ……ん〜?!」横からスイの悲鳴が聞こえてくる。やっぱり今年もちゅーされてるみたい。

   

「……いやじゃ、ない」少しして、お嬢様はつぶやく。顔を戻し、私の瞳をじっとみつめてくる。

  

「私も……レミのこと、だいすき」

 

「ありがとうございます」

 

「だから、はずかしいけれど……ちゅーするね」

 

「おねがいします……」上目遣いでおねだりする。お嬢様の指に自分の指を絡めて、握る。

 

「おたんじょうび、おめでとう」お顔をかたむけながら、お嬢様はそっと、くちびるを重ねてくる。

 

 ちゅー。

 

 そのキスはいつもよりとっても……甘かった。

 

 

 

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