10話 たくさんのちゅー

 「きゃ〜! かわいい〜!」背後でリコが嬉しそうな悲鳴をあげる。

 

「ちょ、リコ抱きつくなって……でもめっちゃかわいいのはわかる……」スイも同意する。

 

 五秒ぐらいして、リアはおくちを離す。もう終わりかぁ……もっとしてほしかったなぁ、なんてわがままな事を思ってしまう。

 

 けれど、ちゅーはまだあった。

 

「いち」口を離してお嬢様はいう。そしてまたすぐに……ちゅーをした。

 

「に」口を離して。ちゅー。 

 

「さん」また離して、ちゅっ、ちゅ。

 

「よん、ご」そしてまた、キスをしようとする。

 

「お、お嬢様……?」私は嬉しい反面、混乱していた。

 

「ん? たくさんちゅーするの、いや?」動きを止め、くびをかしげながらたずねてくる。

 

「い、いえいえ! 大好きです! リア様にキスされるのはとっても幸せです! ですが……その、何回してくださるのかなと……」

 

「えっとね、レミなんさい?」

 

「じゅうです。今日十才になりました」

 

「じゃ十回する〜。いいよね?」にこにことそう告げ、みつめてくる。

 

 ことわる理由なんて、なかった。

 

「は、はい。ありがとうございます」戸惑いつつ、私も笑顔を返す。

 

「よいしょ、っと」母様の上から私の上へ、お嬢様は移動する。もにゅ、とお嬢様のやわらかい感触が私の膝の上へ伝わる。軽いなぁ、と感じる。そのまま私の両肩に手を置いて、くちびるをくっつけやすい体勢に移行する。

 

「えっと、よんかいめだったかな」そうつぶやきつつくちびるをちゅー、と重ねてくる。間違えてる気がするけれど、回数増えるから……まあいっか。

 

「ご〜」ちゅ〜。

 

「リコ!? なんでお前まで私にキスするん!?」横でスイが驚いてる声がきこえる。ちゅっ、ちゅとキスの音も聞こえてくる。

 

「いーじゃん、ほっぺにちゅーぐらい、減るもんじゃなし〜」甘えた声でリコは答える。

 

「いやそうじゃなくてはずいから、せめて二人きりの時に……ん〜!?」スイは口をふさがれたみたいで喋れなくなる。

 

「ろく」ちゅ〜〜。こころなしか、さっきより長めにきすしてくれてる?

 

「あらあら。みんな仲良しねぇ……メイド長、私達もキスする? それもとびきり濃厚なやつを」横から母様の声も聞こえる。

 

「……ご命令なら。提案ならば丁重にお断りさせていただきます」メイド長は返す。

 

「つれないわねぇ。命令で無理やりさせたんじゃつまらないわよ。ま、今は二人のキスをほのぼのと見守りましょ……」

  

 私とお嬢様は、キスを続けていた。

 

「なな」ちゅー。たくさんしてくれるのは。

 

「はち」ちゅー。うれしいけれど。

 

「きゅう」ちゅー。私のしたい、キスは。

 

「じゅ……」そう言いかけたお嬢様のくちびるを……私はふさいだ。もっと、長くちゅーしたい。お嬢様は驚きで目を丸くしている。

 

 ほそくて、やわらかいお嬢様の腰を掴み、自分の顔を前に出し、キスが終わらないようにする。くちびるをふにゅ……むにゅ……と押しつけ続ける。目を閉じて感触をたくさん、あじわう。

 

 心がふわふわと、浮かんでいく。とっても、しあわせ。

 

 どのぐらい、ちゅーを続けていただろうか。「ん〜」とお嬢様はかわいいうなりごえをあげる。私ははっ、と我にかえる。

 

 目を少し開けて様子をうかがうと、顔を赤くしてぷるぷると震えていた。……もしかして、息を止めてる? 私は慌てて口を離す。

 

「……ぷは」お嬢様は少し苦しそうに息をする。

 

「ご、ごめんなさいお嬢様。ながくちゅーしたくなっちゃって……つい……」私は目を伏せ、あやまる。

 

「む……」お嬢様はじっ、とみつめてくる。怒らせちゃったかな……? 「う……」と私は不安になってしまう。

  

 目がにっこりと笑顔になる。「いいよ〜」ぎゅっ、とお嬢様の腕が私の首の後ろに回り、顔を近づけてくる。「たんじょうび、おめでと〜」とほっぺをすりすりとこすりつけてくる。

 

 わたしはほっとした。「おたんじょうびのちゅー、ありがとうございます」改めてお礼を伝える。

 

「いえいえ〜。これからもたくさん、ちゅーしようね〜」

 

「はい! ふつつかものですが、がんばってお世話させていだだきます!」そう言って、私はほっぺをむにゅむにゅと、くっつけ返す。

 

 あれだけ流れていた涙はきれいさっぱり、止まっていた。 

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