9話 レミは、ぷれぜんとをいただきます。
……五分ほど私はスイおねえちゃんの胸にくっついていた。あったかくて、やわらかくて、心地が良かった。
ゆっくりと、顔を離す。残っているのは母様とリアお嬢様、リコとスイ、そしてメイド長とほか数人だった。 仕事もあるからと、メイド長が解散させたのだ。
スイは「……とまった?」とたずねてきた。
「はい、もう大丈夫……」と言いかけたとたん、つうっと目元から一筋の涙がながれる。
「ありゃ。私の胸じゃだめかぁ……やっぱ包容力のあるリコとか母様の大きな胸じゃないと……」人差し指で私の涙をぬぐいながら、スイは少し悲しそうにする。
「いや大きさとかは関係なくない? それにレミちゃんの涙、ずいぶん止まってるし」リコはそうフォローする。たしかに私の涙はぽろぽろではなく、ぽろり……ぽろり……という風に落ち着いていた。
「ふふ、小さいときのレミちゃんと一緒ね。抱きしめただけじゃ泣きやまないのよ〜。ね」母様はメイド長に同意を求める。
「そうですね。私が抱きしめてもずっと泣きっぱなしでしたから」表情を変えずにメイド長は告げる。
「それ、メイド長だからじゃ……」リコはぼそりと告げる。
「なにかいいました?」メイド長はゆっくりとリコの方を向く。
「いえ、なにも」リコはそっぽを向く。
「そうですか。あとでお話しましょうね、リコさん」
「ぴぃ……」肩を掴まれ、リコはスズメのような悲鳴をあげる。
「じゃあ泣き虫レミちゃんをぴたりと泣きやませる、とっておきのわざ、してあげるわね」母様は私の手を引き、抱きよせる。そしてゆっくりと顔を近づけてくる。
そう、これをしてくれると私の涙はとまるんだ。心がぽっかぽかになるんだ。
「母様……この場でそれは……」しかし、メイド長が止めにはいった。
「あら、まずいかしら?」くちびるが触れる直前で動きが止まる。ああ……ざんねん。
「みんな見てますし……あんまりよろしくないかと」メイド長は昔から働いていたので私の泣きやませ方はもちろん知っていた。
「そう……残念ね」母様は少し悲しそうな表情をしながら「ならリアがするのはどうかしら?」そう提案をする。
「まあそれなら……お嬢様はみんなにしますし」メイド長はしぶしぶ、頷く。
「なら、リアちゃんにお願いするわね……よいしょっと」母様は横にいるリアを抱き上げて自分の膝に乗せた。
「ふぁあ」リアお嬢様はうとうとしていたようでかわいいあくびをした。
「リア、レミおねえちゃんにちゅーしてあげて」頭をぽんぽんしながら母様は言う。
「どうして?」とレミお嬢様はくびをかしげながらたずねる。
「うんとね、泣いてるから……いえ、誕生日だからぷれぜんとちゅーしてあげて」
「たんじょうび……わかった」こくん、とうなずきながらリアお嬢様は身を私の方に乗り出す。
倒れそうで少し危なかったので、私はお嬢様の肘を手の平で受け止めて、支えてあげる。反射的にお嬢様も私の二の腕をぷに、とにぎりかえしてくる。
じー。私の瞳をみつめてくる。母様ゆずりのきれいで、透き通った瞳だ。照れて、ほれちゃいそうになるけれど、がんばって私も見つめ返す。
にっこり。リアお嬢様はとびきりの笑顔を見せた。とってもまぶしい。きゅん、と私の心ははねる。
「おたんじょうび、おめでとー」そのセリフと共にリアお嬢様はくちびるをくっつける。
ちゅー。せかんどきすが私のくちびるをおそう。とってもぷにぷにで、ふにふにで。
みんなにみられている恥ずかしさと……喜びで自分の顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。
私はつい、お嬢様の手を取り、指をからめてしまう。きゅっ。一回り小さくて、あたたかいおててが握り返してくれる。
とってもとっても、幸せすぎて……ずっと流れていた涙が、ぴたりと止まっていくのがわかる。
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