8話 レミは涙が、とまりません。
……どよっ。急に周りがざわめく。
「レミちゃん……? どうしたの……」リコは私の顔を見て驚いた表情をした。
「だ、大丈夫?」と突然スイも心配そうな表情をして、私を覗き込む。
「なにをおどろいて……」そう言いかけたところでつうっと、ほっぺにひんやりした感触を覚えた。
ぽたり。ケーキの上にしずくが一滴、したたりおちる。それが自分の目からこぼれた涙だと気付くのに数秒かかった。
「……え、え、なんで。嬉しいです。とっても嬉しいのに……なんで涙が……」私は混乱して、慌てて手の甲で両目をごしごしとぬぐう。けれど涙はあふれてとまらない。
悲しくなんて、ないのに。こんなに心は幸せなのに。周りのみんなが心配しちゃってる……はやく、はやくとめなければ。ぽた、ぽたぽた。でも、私の涙はいうことをきいてくれない。
「それは嬉し涙よ」透き通るような声が部屋の入り口から聞こえる。そちらを見ると、母様と、手をつないだレミお嬢様が立っていた。
メイドのみんなはわたわたと、慌てはじめた。私が泣いているだけでなく、母様まで現れたのだから……。
「ど、どどどうどうしようスイ〜」リコは幼馴染に相談するも「……わかんねぇ」とスイもお手上げ状態だった。
「気をつけ!!」メイド長の鶴の一声が響き渡る。混乱状態だったメイドのみんながしゃきんとする。背筋をピンとのばし、直立不動の姿勢をとる。
「あらあら、そんな仰々しくしなくていいのよ〜」母様は困ったように言う。
「そうですね、みんな慌てていたものでつい……休め」とメイド長は告げる。メイドたちは少し、楽な姿勢を取る。手を前にして、肩の力を抜いていた。それでも背筋はしゃきんとしていた。
母様はゆっくりと、リアお嬢様を連れて私の前に歩いてくる。メイド達はその歩みを邪魔しないよう、ささっと横に身を引く。
「ちょっといいかしら?」そう、私の横に座っているリコに母様は呼びかける。
「へ……? あっはい、どうぞ!」リコは慌てて横にずれ、スペースを開ける。
「甘えんぼだけじゃなく泣き虫レミちゃんも見れるなんて〜。ほんと今日は良い日ねぇ」私の隣にゆったりと座り、にこにこと笑いかけてくれる。
「ふぇ……すみません」涙をぽろぽろしながら私はあやまる。
「あやまる必要なんてないの。まだ子供なんだから、たくさん泣いたり笑ったり、感情を表に出していいのよ〜」母様は頭をぽんぽんしてくれる。
「はい……」
「でも……そうねぇ、みんなびっくりしてるから……スイちゃん」
「は、はいっ!」私を挟んで母様の向かいに座っているカノは元気よく返事をする。
「レミちゃんの泣きやませ方、知ってるかしら」
「え、えっと……わからないです。抱きしめるとか?」
「ふふ、それもいいかもね。じゃあ試しに抱きしめてあげて〜」そう母様はスイにお願いする。
「わかりました」スイはそう答え、私の肩を掴んでぎゅっと私を胸元に抱き寄せる。ぽふ、とスイの控えめな胸に私の顔が触れる。
「涙で服、ぬれちゃう……」私の顔は涙でぐしょぐしょで、スイの制服のシャツに吸われていくのがわかる。
「気にすんなって。レミの涙ならいくら濡れてもヘーキだし」スイはやさしく言いながら頭をなでなでしてくれる。
「ありがとう……スイおねえちゃん」私はそれに甘え、胸に顔をむにゅっとくっつける。
「泣き止むまで、こうしてていいからな」そっとささやいて、ぎゅっと抱きしめてくれる。
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