2話 レミは、救われました。
私が命を救われたのは七年前……三歳の頃だった。
私はマンションの一室で、独りぼっちになってしまっていた。三歳の私は外に助けを求めることも出来ず、腹ぺこで横たわっていた。あと一週間もしたら死んでいただろう。
そんな時、わたしは抱き上げられた。それが今のご主人……母様だった。
私の実の母と、母様は友人だった。失踪する前に私のことを「預かってほしい」とだけ電話が来たそうだ。
電話を貰った途端、母様は仕事も何もかもほっぽりだして、玄関の鍵をぶっ壊して私の元に駆けつけてくれた。
その時の私は目をつむっていて、死んだのかと思ったらしい。けれどほんの少しだけ目を開けたので、ほっとしたと言っていた。
水を飲ませたけれど、食べ物を自ら食べられる状態ではなく、噛む力もなかったようだった。
母様は私を抱きしめながら、おにぎりを一口ずつ噛み砕いて、口移しで食べさせてくれた。
その時の記憶だけ……かすかに残っている。
視界がぼやけて暗闇に包まれはじめ、私のちっぽけなセカイは終わりかけていて。
そしたら、暖かい腕に抱きしめられて。口にあったかくておいしいものが流れ込んできて。暗闇に、明かりが差し込んだ。冷たかった体がぽっかぽかと温まりはじめて。
視界がはっきりしはじめると、一人の女神がそこにたたずんでいた。
それが救いの女神……母様との最初の出会いだった。
そして、七年後。私は女神に抱きしめられていた。あの時みたいに。
「昔みたいにキスもする?」母様は私に声をかけてくれる。
「えっ……口にですか?」
「そのつもりだったけれど……はずかしい?」
「は、はい」私は顔を赤らめてしまう。
「大人になったわね。じゃ、ここにキスするわ」ちゅ、と額にやさしく口づけしてくれる。
「ふにゃ……」嬉しさのあまり私はほっぺがゆるむ。
「もう、かわいいんだから」母様はそんな私の表情を見て、ぎゅっと抱きしめてくれる。
私は救われてからしばらくの間、毎日のように泣いていたらしい。しかも服普通の子供のように声を出して泣くんじゃなく、声を出さずに涙だけぽろぽろと零して、静かに泣いていた。お世話してくれたメイドの人達があやしてもはなかなか泣きやまなくって、困らせてしまっていた。
でも、母様があやすと、すぐに泣きやんだそうだ。抱きしめて口にキスをすると、涙がピタリととまった。
「ちゅーするとすぐ泣きやんで笑顔になるから、たくさんキスしちゃったわ……」そう嬉しそうに母様は言っていた。
その話をされると私は恥ずかしくなってしまう。幼いころはキスの意味なんて知らなくて、こころがぽかぽかして嬉しくなって、にこにこと笑顔になっていた。
そして物心ついた時にキスの意味を教育係のメイド達に色々教えてもらって……それからは照れてしまうようになっちゃった。
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