メイドとお嬢様の、初めてのちゅー
1話 レミは、あまえたいです。
私、レミは緊張していた。なにせお嬢様の母にして、私達メイドの雇い主が目の前に座っているのだから。もし無礼に接して気分を害させてしまったら、メイド全員の首が飛ぶかもしれないのだ。
私が十歳の誕生日を迎えた日、私は急に彼女に呼ばれた。なぜ呼ばれたのかはメイドの誰にもわからなかった。メイド長ならともかく、見習いメイドである私を呼び出すなんて、前代未聞だった。誕生日を祝ってくれる……いやいや、そんなバカなことあるわけない。
とにかくそそうを起こすことの無いよう、メイド長や先輩メイドみんなに強く言われていた。
「お話するのは半年ぶりかしら」長ソファーにゆったりと座った彼女は語りかけてきた。
「はっはい。ごっ、ご主人様」緊張のあまり、どもってしまう。私は直立不動の姿勢で、返事をする。
「ご主人……貴方にそう呼ばれるのは変な気分ね。母さん、と呼んでくれていいわよ」
「いえっ、そんなこと」
「大丈夫よ。最初は貴方を娘にするつもりだったし」じっ、と見つめてくる。その目は有無を言わせない瞳だ。
「わかりました……お母様と呼ばせていだだきます」
「うーん、堅いけどまあいいわ。というか、なんでそんなガチガチに緊張してるのよ」
「いえその、お母様に粗相をしたらメイド全員の首が飛ぶと言われたので」アホな私は素直にそう言ってしまう。
それを聞いたお母様は笑い出す。「あはは、なにそれ。そんなことしないわよ。みんな怖がりすぎよ」
「もっとメイド達と仲良くすべきね………今度みんなでお茶会でも、開こうかしら?」独り言のようにお母様はつぶやいていた。
「こっちに来て」と手招きをして私の隣に座るよう、促してきた。「失礼します」私はおそるおそる、母様の横に座る。……少し距離を開けて。
「もう、貴方とも距離が離れちゃったのね……」悲しそうな表情を母様は見せる。
「す、すみません、メイドとしてなれなれしくしてはいけないと……」私はぺこりと頭を下げる。
「立派になったわね……喜ぶべきことだけれど」母様は私の手を取り「でも、昔みたいに甘えたくない?」と、じっと私を見つめてくる。
「そ、そんなおおそれたこと」私は恥ずかしさのあまり顔をそらしてしまう。
「ほんとうは?」ぴとり、と私の頬に手をやり目を合わせてくる。
「あまえ、たいです」その瞳に見つめられたら、素直に答えるしかない。
「ふふふ、正直ね。ごほうび先にあげるわ」そっと優しく、母様は私の両肩を掴む。
「ご、ごほうび?」と私が聞き返す間もなく、抱き寄せられる。
「あ……」ふにゃあと自分の表情がとけていくのがわかる。
「なんだ、あまえんぼレミに戻れるじゃない」ふわりと笑顔を見せて、母様は私の頭をなでなでしてくれる。
「にゃぁ……」猫のような声をあげ、私も抱きしめ返す。すりすりと、彼女の胸元に顔を埋める。
「レミが満足するまで……甘えていいわよ」母様はそう、耳元で優しく囁いてくれる。
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